第11話 村長からの依頼ーレオン視点ー
第十二話 村長からの依頼
新しい剣を手に入れてから、俺たちはダンジョンの探索を続けていた。
以前の狩場だけでなく、その周辺の通路にも足を延ばし、魔物の数や地形を確かめながら、戦いやすい場所を探している。
まだ理想的な狩場は見つかっていない。それでも、新しい剣の扱いには少しずつ慣れてきたし、初めて遭遇する魔物に対しても、すぐに飛びかからず、動きを見てから判断する余裕ができてきた。
収入の方は相変わらず大きくない。武器を買い替えたばかりなので、手元のお金も心許なかった。
魔法のスクロールを買うという目標は、少し遠のいている。
それでも、焦って危険を冒すつもりはなかった。
そんなある日の夕方、村へ戻った僕たちは、家で村長に呼び止められた。
「おお、帰ったか。二人とも、少しいいか?」
「はい。何かありましたか?」
俺が尋ねると、村長は僕たちの腰にある新しい剣へ目を向けた。
「武器を新調したんだな。ずいぶん本格的になってきたじゃないか」
「前の剣が傷んできたので。そろそろ買い替えないと危なそうでした」
「そうか。毎日使っていれば、そういうこともあるだろうな」
村長は納得したようにうなずき、それから俺たちの顔を見比べた。
「ところで、ダンジョンの探索はどうだ? ちゃんと無理をせずにやっているか?」
「はい。最初の狩場だけだと魔物が少ない日もあるので、今は少し範囲を広げて、新しい狩場を探しています」
「へえ、もうそこまで進んでいるのか」
村長が目を丸くした。
……あれ?
何か驚かせるようなことを言っただろうか。
「最初の狩場を見つけて、そこだけで狩りを続けているものだと思っていたぞ。もう周辺の探索まで始めていたとはな」
「ずっと同じ場所だと、魔物がいない時間がもったいないので」
「なるほどな。確かに、狩りに慣れてくれば、次の場所を探すことも必要になる」
村長は感心したように腕を組んだ。
「それに、武器を買い替えられるくらいには稼げているんだろう? もちろん、買い替えには貯めていた金も使ったのだろうが……二人とも、思っていたよりずっと順調らしい」
「えへへ。私たち、毎日頑張ってますから!」
ミレアが得意げに胸を張った。
「そうだな。頑張っているのは分かっている。だが、こうして話を聞くと、成長の早さに驚かされるよ」
村長の表情は、驚きと安堵が混じったものだった。
俺たちが村を出るためには、レベル十五に到達する必要がある。それまでは今のダンジョンで経験を積み、戦い方を覚えるつもりだった。
ただ、村長から見れば、まだまだ子供に近い年齢の二人だ。実際にダンジョンへ通い、装備を整え、狩場を探しながら活動している姿は、想像以上に頼もしく映ったのかもしれない。
「それで、今日は何か用事があったんですか?」
「ああ、そうだった」
村長は思い出したように手を打った。
「実は、二人に頼みたいことがあってな」
「頼みたいこと?」
「うむ。村で使う魔物の素材を集めてきてほしいんだ」
それは、俺にとって意外な話だった。
「魔物の素材、ですか?」
「そうだ。普段は村の者が必要に応じて集めているんだが、最近は少し不足していてな。村の仕事もあるから、十分な量を集めるのが難しくなっている」
村長は、必要な素材について説明してくれた。
依頼されたのは。灰牙ネズミの素材、その中でも俺たちが既に何度か討伐している魔物のものだった。それから、可能なら、もう少し丈夫な毛皮が手に入る大型の魔物の素材も集めてほしいという。
魔物の毛皮は、手袋や防寒具の材料になる。牙は小さな道具の加工に使われ、丈夫な毛皮は防具の補修などに重宝するらしい。
どれも、俺たちがダンジョンで手に入れたことのある素材だった。
「もちろん、無理に大型の魔物を狙う必要はない。まずは灰牙ネズミの素材を中心に集めてくれれば十分だ。余裕があれば、ほかの素材も頼みたい」
「分かりました。でも、集める量はどれくらいですか?」
「そうだな……」
村長は少し考えてから、目安となる数量を教えてくれた。
決して少なくはないが、今までの狩りを続ければ十分に達成できそうな量だ。
「集めた素材は、村で買い取ろう。冒険者として活動するなら、魔物を倒して素材を売るのは大事な仕事だからな」
なるほど。
これは、単なるお手伝いではなく、依頼という扱いになるらしい。
村で必要な素材を集める。俺たちは魔物を倒して素材を手に入れ、村はそれを買い取る。お互いに利益がある、自然な取引だ。
僕たちにとっても都合がいい。
今までは、倒した魔物から得られる素材を売っていた。けれど、何を集めてもらいたいかが明確なら、素材の価値や需要を考えて狩りをすることができる。
必要な素材が分かっていれば、狩りの目標も立てやすい。
ただし、依頼だからといって無理をするつもりはない。特に大型の魔物は灰牙ネズミよりも強く、戦い方を間違えれば危険だ。
村長もその点は理解しているらしく、無理に狙う必要はないと念を押していた。
「報酬については、素材の種類と状態、それから数に応じて支払う。詳しい条件は、明日までにまとめておこう」
「ありがとうございます。俺たちでよければ、ぜひ引き受けたいです」
「私もやる! 村の役に立てるなら、頑張るよ!」
ミレアが元気よく答えた。
村長は満足そうに笑った。
「よし、頼んだぞ。ただし、怪我をしたらすぐに戻ってくること。素材よりも、お前たちの命の方が大事だからな」
「はい」
その言葉には、村長としての責任だけでなく、俺たちを心配してくれている気持ちも感じられた。
僕は改めて頭を下げた。
*
村長と別れたあと、僕たちは家へ向かって歩き始めた。
「依頼かあ! なんだか、本当に冒険者っぽくなってきたね!」
ミレアは嬉しそうだった。
「そうだね。集める素材が決まっているなら、狩りの方針も立てやすい」
「灰牙ネズミなら、もう慣れたものだよ! 大型の魔物だって、前に倒したことがあるし!」
「一度倒したからといって、毎回安全とは限らないよ。相手の数や場所によっても違うからね」
「分かってるってば。ちゃんと気をつけるよ」
彼女は少し頬を膨らませたものの、すぐに笑顔に戻った。
僕も、今回の依頼には期待していた。
まず、素材の買い取りが確実に見込める。魔法のスクロールを買うための資金を貯めたい僕たちにとって、収入の見通しが立つのはありがたい。
次に、狩りの目的がはっきりする。今までは経験を積むことと、売れそうな素材を集めることが主な目的だった。これからは、村が必要としている素材を優先して狙えばいい。
そして何より、僕たちの活動が村の役に立つ。
村を出て冒険者になることばかり考えていたけれど、今いる場所でできることにも意味があるのだ。
……とはいえ、報酬の条件は確認しておこう。
素材の買い取り価格が普段と変わらないのか、それとも依頼として追加の報酬が出るのか。そこは明日、村長に詳しく聞く必要がある。
依頼を受ける以上、条件を曖昧にしたまま進めるのはよくない。
必要な素材の数と報酬の内容。それに、いつまでに納めればいいのか。
確認することはいくつかある。
でも、悪くない話だ。
武器を新調したばかりで減ってしまった資金を、少しでも早く立て直せるかもしれない。新しい狩場を探すついでに素材を集められるなら、効率も悪くないだろう。
もちろん、魔法のスクロールが手に入るわけではない。
それでも、目標に近づくための手段は一つではないのだ。
「明日も頑張ろうね!」
「ああ。まずは依頼の条件を確認して、それから狩場を決めよう」
俺たちは顔を見合わせて笑った。
新しい武器。新しい狩場。そして、初めて受ける村からの依頼。
冒険者になるまでの道のりは、少しずつ形を変えながら前へ進んでいる。
次の探索では、どんな魔物に出会えるだろう。
そして、どれだけの素材を持ち帰ることができるだろうか。
考えるだけで、明日のダンジョンが楽しみになってきた。




