第12話 依頼の報酬と、思いがけない贈り物ーレオン視点ー
村長から依頼を受けてから、俺たちはいつも以上に目的を意識してダンジョンへ通うようになった。
依頼されたのは、灰牙ネズミの毛皮と牙。それに、余裕があれば、以前遭遇した大型の灰色の魔物から取れる丈夫な毛皮も集めてほしいというものだった。
灰牙ネズミなら、もう何度も倒している。新しい剣にも慣れてきたし、二人で連携して戦えば、以前よりずっと安定して対処できる。
問題は、大型の魔物だ。
灰牙ネズミよりも体格がよく、突進の威力も強い。以前倒したときも、攻撃をかわして隙を突くことで、なんとか勝つことができた。
今回は素材を集めることが目的だからといって、無理をする必要はない。見つけても、危険だと判断したら引き返すつもりだった。
結局、依頼を受けてから数日後、僕たちは必要な量の素材を集め終えた。
「これなら、十分かな?」
帰り道、幼馴染が袋の中身を確かめながら尋ねてきた。
「うん。灰牙ネズミの毛皮と牙は、指定された数を超えているはずだよ。大型の魔物の毛皮も、状態のいいものが手に入ったしね」
「やった! これで依頼達成だね!」
彼女は嬉しそうに拳を握った。
素材集めそのものは、普段の狩りと大きく変わらなかった。ただ、集めるべきものが決まっていたおかげで、狩りの方針を立てやすかったのは確かだ。
ついでに、売却できる素材もいくつか手に入った。依頼のために狩りをした結果、普段よりも収穫が増えたのだから、なかなか悪くない。
そして何より、村の役に立てる。
そのことが、思っていた以上に嬉しかった。
*
村へ戻ると、僕たちは村長の家を訪ねた。
「おお、帰ってきたか!」
俺たちが素材の入った袋を見せると、村長は目を見開いた。
「もう集めてきたのか? しかも、これだけの量を……」
「はい。依頼された分は、これで足りると思います」
僕は袋から素材を取り出し、種類ごとに分けて並べた。
灰牙ネズミの毛皮と牙。それに、大型の魔物から取れた丈夫な毛皮。傷みが少なく、買い取りに出しても問題のない状態だ。
村長は一つひとつ手に取り、状態を確かめていった。
「うむ、どれもいい状態だ。これなら十分に使える。大型の魔物の素材まで、よく集めてくれたな」
「たまたま見つけられたので。危険そうなら引き返すつもりでしたけど、今回はうまく倒せました」
「それでいい。無理をして怪我をされる方が、よほど困るからな」
村長は安心したように笑った。
「二人とも、よくやってくれた。約束どおり、報酬を渡そう」
差し出された袋を受け取り、中身を確かめる。
依頼された素材の量と状態に応じた報酬だった。普段、素材を売って得る収入と比べても、十分に納得できる金額だ。
これなら、武器を新調したことで減った資金も、少しは取り戻せそうだった。
「ありがとうございます!」
ミレアが元気よくお礼を言う。
俺も頭を下げた。
「こちらこそ、村の役に立ててよかったです」
「何を言う。助かったのはこちらの方だ。最近は村の仕事も立て込んでいてな。こうして若い二人が手を貸してくれるのは、本当にありがたい」
村長は報酬を渡し終えても、どこか考え込むような顔をしていた。
「……そうだ。二人とも、少し待っていてくれ」
そう言い残し、村長は家の奥へと入っていった。
「何だろうね?」
「さあ。追加の依頼かな?」
「えー、今日はもう十分頑張ったよ!」
「ははっ。さすがに、今すぐ追加ということはないと思うけど」
そんなことを話していると、村長が小さな木箱を手に戻ってきた。
そして、俺たちの前に箱を置く。
「これは、二人への贈り物だ」
「贈り物?」
ミレアが不思議そうに首を傾げた。
「ああ。今回の報酬とは別だ。村長としての依頼は、さっきの報酬で完了している。これは私個人からの好意だと思ってくれ」
村長は箱を開けた。
中に入っていたのは、細長い筒だった。
見覚えのある形に、僕は思わず身を乗り出した。
「それって……」
「スキルスクロールだ」
やっぱり!
思わず目を輝かせてしまった。
スクロールを手に入れるには、店で買うか、魔物からのドロップを狙うか。そのくらいしか考えていなかった。
けれど、こういう形で手に入る可能性もあったのか。
「村長、これを俺たちに?」
「ああ。以前、魔法のスクロールを探していると聞いたことがあってな。残念ながら、これは魔法のものではないが……二人の役に立つかもしれないと思って、渡すことにした」
俺は一瞬、言葉を失った。
魔法のスクロールではない。
その事実に少しだけ残念な気持ちはあったけれど、それ以上に、村長が僕たちのことを気にかけてくれていたのが嬉しかった。
「ありがとうございます。でも、こんな貴重なものをもらってもいいんですか?」
「構わんよ。昔、知り合いから譲り受けたものだが、私自身が使う機会はなかったからな。それに、今のお前たちなら、きっと役立ててくれるだろう」
村長は穏やかな表情で続けた。
「村を出るまでには、まだ時間がある。これから先、どんな職業に就くにしても、使える技術は多い方がいい。せっかく手に入れたのだから、活用してくれ」
俺は改めてスクロールを見つめた。
魔法のスクロールを買うために、少しずつお金を貯めていたところだった。だから、別のスキルだとしても、こうして贈ってもらえるのはありがたい。
何より、スクロールは決して安いものではない。村長が俺たちのためにこれを渡してくれたことには、きっと意味がある。
「大切に使います」
「うむ。そうしてくれ」
ミレアも、嬉しそうに笑った。
「お父さん、ありがとう! 私たち、もっと強くなるからね!」
「ははは。期待しているぞ。ただし、強くなることばかり考えて、無茶はするなよ」
「分かってるってば!」
いつものやり取りに、僕も思わず笑ってしまった。
*
村長の家を出たあと、俺は受け取ったスクロールをもう一度眺めた。
「ねえ、どんなスキルなんだろうね?」
ミレアが興味津々といった様子で尋ねてくる。
「まだ分からない。使う前に、ちゃんと確認した方がいいね」
スクロールには、内容を示す印がついていた。俺はそれを確かめ、記された文字を読み取った。
そこにあったのは、魔法の名前ではなかった。
『武技・受け流し』。
剣で受けた攻撃の力を逃がし、正面から受け止めるよりも少ない負担で防ぐための技術らしい。
「受け流しか……」
僕は思わず呟いた。
攻撃用のスキルではない。魔法でもない。
けれど、前衛として戦うなら、十分に価値があるスキルだ。
相手の攻撃をすべて避けられるとは限らない。受け止めるにも体力を使うし、力の強い魔物を相手にすれば、こちらの体勢が崩されることもある。
攻撃の勢いをうまく逃がせるようになれば、戦闘をより安全に進められるかもしれない。
魔法のスクロールではなかったのは残念だ。
でも、こうして戦闘に使えるスクロールを手に入れたことは十分すぎる報酬だ。
それに、前からしていた約束の事もある。
「これはミレアが習得してくれ」
「いいの?」
「次にスキルスクロールを手に入れたらミレアに譲る。そういう約束だったろ。あ、でも気になるから練習の際は是非見せてくれ」
「うん! それは勿論!」
彼女は胸を張った。
俺は笑いながら、スクロールを大切にしまった。
依頼を達成し、報酬を得て、思いがけない贈り物まで受け取った。
魔法への道は、まだ遠い。
けれど、今日の収穫は決して小さくない。
ミレアが新しい技術を身につけ、もっと安全に戦えるようになれば、探索できる範囲も広がるだろう。そうすれば、より多くの素材を集められるようになるかもしれない。
ひとつひとつの積み重ねが、いつか大きな力になる。
そう信じて、俺は明日の冒険に思いを馳せた。




