第8話 それぞれの進む道ーミレア視点ー
ダンジョンで狩りを続けるようになって、しばらく経った。
最初は一匹の灰牙ネズミを倒すだけでも大仕事だった。今では二匹を相手にしても、落ち着いて対処できるようになっている。
もちろん、油断はできない。数が増えれば危険だし、見たことのない魔物に出会えば、これまでの経験が通じるとは限らない。
それでも、少しずつ強くなっている実感はあった。
「ねえ、レオン。レベル十五になったら、どんな職業にするか決めてる?」
狩りを終え、村へ戻る道すがら、私は隣を歩くレオンに尋ねた。
「考えてるよ。そろそろ方向性くらいは決めておきたいしね」
「やっぱり? レオンなら、もう候補をいくつも考えていそう」
「せっかく冒険者になるんだから、転職先はちゃんと選びたいんだ。今のうちに準備できることもあるだろうし」
いかにもレオンらしい答えだった。
私たちが村を出るには、まずレベル十五に到達しなければならない。その後、教会で転職すれば、今より本格的な冒険者として歩み始められる。
村人のままでも戦えないわけではない。けれど、戦闘に向いた職業へ変われば、能力の伸び方も変わるし、その職業にあったスキルも手に入る。今より強くなれるはずだ。
私も、そのことはよく分かっていた。
「私はね、剣士みたいな職業がいいな」
「剣士か」
「うん。前に出て、魔物をばっさばっさ倒すの! 冒険者なら、そういうのが格好いいじゃない!」
私は剣を振る真似をした。
幼いころから、冒険者に憧れていた。村の外には見たことのない景色が広がっている。強い魔物や珍しい素材、遠くの町にある知らない道具や武器。
危険なのは分かっている。
それでも、危険だからといって諦めるつもりはなかった。
ちゃんと強くなって、自分の力で道を切り開く。それが私の夢だ。
「剣士系なら、前衛としての役割に集中できるね」
「そうそう! 難しいことはレオンに任せて、私は敵を倒す!」
「難しいことって、例えば?」
「えっ……魔法とか?」
「魔法も使えたら便利だと思うけどな」
レオンはあっさりと言った。
私は少し考えてから、首を横に振る。
「私はいいや。剣を振るだけでも、まだまだ練習が必要だもの。あれもこれも手を広げるより、まずは前衛として強くなりたい」
今だって、敵の動きを見て、攻撃を避けて、隙を見つけて刃を叩き込む。それだけで精いっぱいになることがある。
そこへ魔法まで加わったら、覚えることが増えすぎてしまいそうだ。
それに、私は前に立って戦うのが好きだった。
魔物が迫ってくる瞬間の緊張感。攻撃をかわしたときの高揚感。そして、自分の一撃が決まったときの手応え。
もっと上手くなりたい。もっと強い相手と戦ってみたい。
だったら、進む道は一つに絞ったほうがいい。
「だから私は、剣を使う前衛職を目指す。盾を使うかどうかは、もう少し考えるけどね」
「なるほど。自分の得意分野を伸ばす方針か」
「そういうこと!」
胸を張ると、レオンはうなずいた。
「いいと思う。前衛に専念するなら、武器の扱いだけじゃなくて、敵の注意を引く方法や、味方を守る動きも覚えておくとよさそうだね」
「うっ……味方を守る動きかあ」
「前に立つ人が倒れたら、後ろにいる人も危ないからね」
「分かってるってば!」
少し悔しかったけれど、言われたことはもっともだった。
私は敵を倒すことばかり考えていた。でも、冒険者になれば一人で戦うとは限らない。仲間と一緒に戦うなら、自分が何をするべきか考えなくてはいけない。
敵を倒すだけではなく、仲間が安全に戦えるようにする。
それも前衛の役割なのだろう。
「……うん。そういうことも含めて、強くなればいいんだ」
「その意気だね」
「それで、レオンはどうするの?」
今度は私が尋ねる番だった。
「私は剣士みたいに、前に出て戦う職業を目指すつもり。でも、レオンは私とは違う感じ?」
「うん。僕も前衛をやりたいとは思ってる。ただ、魔法も使える職業がいいかな」
「えっ、魔法も?」
思わず足を止めかけた。
「剣も魔法も使うの? そんな職業があるんだ」
「転職先に選べるかは、条件次第だけどね。だから今のうちに、魔法を使うために必要なことも調べておきたいんだ」
レオンはいつもの調子で答えた。
私は彼のことをよく知っているつもりだった。慎重で、いろいろなことを考えていて、準備を怠らない。
でも、面白そうなことを見つけると、目を輝かせて夢中になる。
魔法も、きっと彼にとってはそういうものなのだろう。
「でも、剣の練習も続けるんでしょ?」
「もちろん。前に立って戦うなら、近接戦闘は必要だからね。魔法だけに頼るつもりはないよ」
「そっか。じゃあ、前衛仲間だね!」
私はにっと笑い、レオンの肩を軽く叩いた。
「私が剣で敵を引きつけて、レオンが剣と魔法で援護する! なかなかいい組み合わせじゃない?」
「役割分担としては悪くないと思う。相手によっては、僕が魔法で牽制して、ミレアが攻める形もできそうだね」
「いいね、それ! 早く試してみたい!」
考えるだけで胸が弾んだ。
今までは二人とも、目の前の魔物を倒すことに精いっぱいだった。けれど、これからは違う。
私は前衛としての力を磨く。
レオンは剣だけでなく、魔法も扱える前衛を目指す。
同じ前衛でも、進む道は少し違う。だからこそ、一緒に戦うときにできることも増えるはずだ。
「ただし、魔法が使えるようになるまで時間がかかるかもしれないし、転職先が思いどおりになるとも限らない。まずはレベル十五を目指しながら、できる準備を進めるよ」
「分かってる。私も剣の練習を続けるから!」
そう答えて、私は再び歩き出した。
村の向こうには、まだ見ぬ世界が広がっている。
いつかもっと遠くへ行って、もっと強い魔物と戦って、見たことのない景色を自分の目で見たい。
そのために、まずはここで強くなる。
私たちの目標は同じだ。でも、目指す戦い方は少し違う。
それが、なんだか嬉しかった。
「ねえ、レベル十五になったら、まずはどんな町に行こうか?」
「それも考えておかないとね」
「私は大きな町がいい! 冒険者がたくさんいて、武器屋もいっぱいあるところ!」
「じゃあ、そこまでの道のりも調べておこう。町に着いてから困るのは嫌だしね」
「もう、今からそんなことまで考えるの?」
「今から考えるのも、冒険の準備のうちだよ」
レオンは笑った。
私は呆れたふりをして肩をすくめたけれど、心の中では同じくらい楽しみにしていた。
職業を決めることは、冒険者になるための第一歩だ。
私が選ぶのは、前衛として戦う道。
レオンが選ぶのは、剣と魔法を使いこなす前衛の道。
レベル十五まで、あと少し。
私たちの冒険は、まだ始まったばかりだった。




