↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険を楽しむのための異世界攻略論  作者: 数独好き
第一章 村での冒険
7/20

第7話 初めてのスキルスクロールーレオン視点ー


 狩場を見つけてから、俺たちのダンジョン探索は少しずつ安定してきた。


 空洞にいる灰牙ネズミを探し、見つけたら二人で協力して倒す。周囲に危険がないことを確認してから素材を回収し、疲れ切る前に帰る。


 毎日同じことの繰り返しではあるが、決して無駄ではない。


 ミレアは剣の扱いに慣れ、俺も剣技・斬撃を使うタイミングを少しずつ掴めるようになっていた。戦闘中に慌てることも減り、以前より余裕を持って周囲を見られるようになっている。


 ただ、レベルの上がり方には相変わらず波があった。


 俺のレベルがレベル六。ミレアはレベル五になってから、次のレベルアップまで少し時間がかかっている。


 それでも、焦る必要はなかった。


 ここなら比較的安全に魔物を倒せる。戦闘経験を積みながら、素材やお金も手に入る。冒険を続けるための基盤としては十分だった。


 そんなある日のこと。


 俺の剣が灰牙ネズミを捉えた。


 魔物は淡い光に包まれて消え、いつものように銅貨と毛皮、牙が地面に残る。


 ところが、そのすぐ横に、見慣れないものが落ちていた。


「……ん?」


 薄い紙のようなものが、淡く光っている。


 俺は剣を構えたまま周囲を確認した。ほかに魔物の気配はない。ミレアも短剣を下ろし、不思議そうにこちらを見ている。


「どうしたの?」


「これ……もしかして」


 近づいて拾い上げる。


 手のひらに収まるほどの巻物だった。表面には細かな模様が描かれ、端には小さな文字が刻まれている。


 見間違えるはずがない。


 スキルスクロールだ。


「うわっ、本当に出た!」


 思わず声が大きくなった。


 以前、鑑定屋の店主から聞いた話では、スキルスクロールは魔物からごく稀にドロップする。何十匹、何百匹と倒しても手に入らないことがあるほど、貴重な品らしい。


 俺たちも、いつか手に入るかもしれないとは思っていた。


 けれど、実際に出るとは思わなかった。


「えっ、なになに? 何が落ちたの?」


 ミレアが駆け寄ってくる。


 俺が巻物を見せると、彼女の目が大きく見開かれた。


「スキルスクロール!?」


「ああ!」


「すごい! やったね!」


 ミレアは飛び跳ねそうな勢いで喜んだ。


 俺も同じ気持ちだった。


 新しいスキルを習得できるかもしれない。売ればまとまったお金になるかもしれない。今の俺たちにとって、どちらにしても大きな収穫だ。


 巻物を傷つけないよう、慎重に革袋へしまう。


 その後の探索は、どこか浮き足立っていた。


 魔物への警戒は忘れなかったが、頭の片隅ではずっとスクロールのことを考えていた。


 どんなスキルなのだろう。


 自分たちに使えるものだろうか。


 もし強力な攻撃スキルだったら、今後の戦闘がずっと楽になるかもしれない。


 期待は膨らむ一方だった。


 俺たちはいつもより早めに探索を切り上げ、村へ帰ることにした。


 村に着くなり、俺たちは鑑定屋へ向かった。


 扉を開けると、店主がカウンターの向こうから顔を上げた。


「おや、今日はずいぶん早いね。何かあったのかい?」


「これを見てください!」


 俺は革袋からスクロールを取り出した。


 店主の目が、わずかに見開かれる。


「ほう。スキルスクロールか。自分たちで手に入れたのかい?」


「はい。灰牙ネズミを倒したときに落ちました」


「そりゃ運がいい。見せてごらん」


 店主は巻物を受け取り、傷がないか確認してから、表面の模様を調べ始めた。


 俺たちはカウンター越しに、その手元をじっと見つめる。


 やがて店主は巻物を裏返し、小さくうなずいた。


「なるほど。これは『生活スキル・火起こし』だね」


「……火起こし?」


 思わず聞き返してしまった。


 店主は不思議そうな顔をしたあと、説明を続ける。


「火を起こすための基本的な技術を補助するスキルだよ。冒険者に限らず、旅人や職人、村で暮らす者にも役立つ。初歩的な生活スキルの一つだね」


 火起こし。


 確かに便利そうではある。


 野営で火を用意しやすくなれば、食事や暖を取るのに役立つだろう。雨や湿気のある場所で、どれほど効果があるのかも気になる。


 ただ――。


 もっと、こう。


 剣技・斬撃を上回る攻撃スキルや、魔物を一撃で倒せるような派手な技を、ほんの少し期待していた。


 もちろん、贅沢な話だ。


 そもそも、スキルスクロールが手に入ること自体が珍しい。出ただけでも幸運なのだから、文句を言うべきではない。


 それに、火起こしは使い道のあるスキルだ。


 ……あるのだけれど。


「それで、買い取り価格はどのくらいですか?」


 俺が尋ねると、店主は少し考えてから答えた。


「よく見かける種類だからね。状態も悪くないし、銀貨には届かないが、銅貨をまとめて渡せる程度にはなるよ」


 金額を聞いて、俺はミレアと顔を見合わせた。


 普段の狩りで手に入る収入に比べれば、確かに大きい。今日の稼ぎに加えれば、しばらくの食料や消耗品を買い足せる。


 だが、人生が変わるほどの大金ではない。


 貴重なスクロールと聞いて、期待を膨らませすぎていたらしい。


「……なるほど」


 俺は少しだけ肩を落とした。


 店主はそんな俺の様子を見て、くつくつと笑った。


「珍しいものが出たからといって、必ず高価な品とは限らないさ。スキルにもいろいろあるからね。強力な戦闘技術もあれば、日々の暮らしを助ける技術もある。こういう基本的なものは、使える人が多いぶん、出回る数も多いんだ」


 確かに、その通りだ。


 使い道が限られる希少なスキルと、誰にでも役立つ基本スキル。どちらが高く売れるかは、性能だけでは決まらない。


 俺たちが手に入れたのは初期の生活スキルだ。初心者でも使えるものなら、需要はあっても希少性は低いのだろう。


「買い取ってもらえますか?」


「ああ、もちろん」


 俺は少し考えた。


 自分たちで使うこともできる。だが、今の俺たちにとって火起こしが絶対に必要かといえば、そうでもない。火打ち石は持っているし、野営の経験もまだ少ない。


 それなら、今は売って装備や食料の購入費に回すほうが役立つだろう。


「お願いします」


 店主はうなずき、代金をカウンターに並べた。


 俺たちは銅貨を受け取り、革袋にしまった。


 鑑定屋を出ると、ミレアが隣で小さく息を吐いた。


「すごかったね、スクロールが出るなんて!」


「ああ。そこは本当に運がよかった」


「でも、火起こしかあ……」


 彼女の声には、ほんの少し残念そうな響きがあった。


 俺も同じ気持ちだったので、思わず笑ってしまう。


「期待しすぎたな」


「だって、スクロールだよ? もっとすごいスキルかもしれないって思うじゃない!」


「気持ちは分かる」


 俺は空を見上げた。


 ゲームなら、低確率のドロップ品には特別な価値がある場合も多い。もちろん、すべてがそうではないことくらい知っている。


 それでも、現実に手に入れたとなると、つい夢を見てしまうものだ。


 今回のスクロールは、当たりではあるが大当たりではなかった。


 ただ、冷静に考えれば、十分に得をしている。


 普段の狩りでは、魔物を倒して手に入る銅貨と素材が収入の中心だ。そこにスクロールの買い取り代金が加わったのだから、今日はいつもより稼げたことになる。


 運に頼って生活を成り立たせるわけにはいかないが、臨時収入はありがたい。


 しかも、実際にスクロールがドロップすることを確認できた。


 これも大きな成果だ。


 今後、何百匹倒せば出るのか。特定の魔物から出やすいのか。それとも、倒した数とは関係なく、単純に運次第なのか。


 今はまだ何も分からない。


 少なくとも、スクロール狙いで無理な狩りをするのはやめておこう。普段の探索を続け、その中で手に入れば幸運、くらいに考えるのがよさそうだ。


「でもさ」


 ミレアが、ぱっと表情を明るくした。


「次はもっとすごいのが出るかもしれないよね!」


「可能性はあるな」


「よーし、明日も頑張ろう!」


 彼女は勢いよく歩き始めた。


 その後ろ姿を見て、俺も笑った。


 確かに、次こそは強力な攻撃スキルが出るかもしれない。


 ……いや、期待しすぎるのはよくない。


 けれど、期待すること自体は悪くないだろう。


 俺たちはまだ冒険を始めたばかりなのだから。



 その日の帰り道、俺たちは買い足す予定だった食料と包帯を購入した。


 スクロールの代金のおかげで、予定していた分に加え、干し肉を少し多めに買うことができた。


 派手な収穫ではない。


 新しい力を手に入れたわけでも、強敵を倒したわけでもない。


 それでも、冒険を続けるための余裕は少し増えた。


 俺はそれで十分だと思った。


 大きな幸運を一度引き当てるより、小さな成果を積み重ねるほうが、長く冒険を続けるには確実だ。


 もちろん、次にスクロールが出たら、今度こそ攻撃スキルであってほしい。


 そんな願いを胸にしまい、俺たちは村へ戻った。


 明日もまた、狩場へ向かおう。


 いつかレベル十五に到達して、村の外へ出るために。


 そして、その先に広がる世界を自分の目で見るために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。