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冒険を楽しむのための異世界攻略論  作者: 数独好き
第一章 村での冒険
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第6話 効率のいい狩場を探せーミレア視点ー


 大きな灰色の魔物が、岩壁を蹴って向きを変えた。


 灰牙ネズミより一回り大きく、背中の毛は硬く逆立っている。口元から覗く牙も太く、突進の速さは、さっきまで戦っていた魔物とは比べものにならなかった。


 私は剣を構え直す。


 怖い。


 けれど、それ以上に、どう戦えばいいのか知りたかった。


 魔物が地面を蹴る。


「右!」


 隣からレオンの声が飛んできた。


 私はすぐに横へ跳ぶ。魔物の突進がすぐそばを通り抜け、風圧で服が揺れた。


 危なかった!


 魔物はそのまま走り抜け、岩壁に爪を立てて急停止する。身体の向きを変えるまで、ほんの一瞬だけ隙ができた。


 私はその隙を見逃さなかった。


「えいっ!」


 剣を振る。刃が魔物の後ろ脚をかすめた。


 浅い。


 それでも、魔物の動きがわずかに乱れる。


 そこへ、レオンの剣が横から振り下ろされた。


 魔物が唸り声を上げ、こちらへ向き直ろうとする。


「離れろ!」


 私たちは同時に後退した。


 無理に攻める必要はない。相手が突進してくるなら、避けたあとに攻撃すればいい。


 距離を保っていると、魔物は何度か地面を蹴った。しかし、攻撃をかわされ続けたことで、次第に動きが鈍くなっていく。


 最後にレオンの一撃が決まり、魔物は淡い光に包まれて消えた。


 地面に残ったのは、銅貨と、灰牙ネズミのものより厚い灰色の毛皮。それから、太い牙が二本。


「倒せた……!」


 思わず声が弾んだ。


 強かった。少なくとも、入口付近にいた灰牙ネズミよりはずっと手強い。


 それでも、二人で協力すれば倒せる。


 私は自分の剣を確認した。刃こぼれはない。怪我もしていない。


 よかった。


 初めての相手に勝てたことが嬉しくて、頬が緩んでしまう。


「レオン、あいつ、なかなか速かったね」


「ああ。突進をまともに受けていたら危なかった」


 レオンは魔物が消えた場所を調べ、落ちていた品物を拾い集めた。


 私はその様子を見ながら、周囲にも目を向ける。


 この先には、まだ見たことのない魔物がいるのかもしれない。


 そう考えると、胸がわくわくした。



 その日は、無理をせず村へ戻った。


 新しい魔物と戦えたのは大きな成果だった。けれど、慣れない相手との戦闘で、思っていた以上に疲れている。


 村へ帰る道すがら、私は何度も振り返りたくなった。


 あの先には何があるのだろう。


 別の魔物がいるのだろうか。


 宝箱が、もう一つ隠されていたりして。


 考え始めると、きりがない。


 帰宅後、私は剣の手入れをしてから、今日の出来事を頭に浮かべた。


 新しい魔物の姿。突進の速さ。攻撃のあとに生じた隙。拾った素材。


 それから、もう一つ気になっていることを書き足した。


 同じ場所で、同じ魔物ばかりを狩り続けるのは、本当に効率がいいのか? レオンの影響だろうか、今まではこんなことを考えたことなどなかった。強くなるには強い魔物を倒せばいい。それだけを考えていた気がする。


 でも、入口付近で灰牙ネズミを倒していた頃は、確かに順調だった。


 相手の動きに慣れ、連携も上達した。危険を抑えながら戦えるという意味では、今でも悪い場所ではない。


 しかし、最近はレベルが上がるまでに時間がかかるようになっていた。


 単に次のレベルまでの必要量が増えただけかもしれない。あるいは、弱い魔物との戦闘では得られる経験が少ないのかもしれない。


 今の段階では、どちらとも言い切れない。


 それでも、より強い魔物と戦える場所を見つければ、成長の機会が増える可能性はある。


 ただし、強い魔物を倒すのに時間がかかりすぎたり、怪我をする危険が大きかったりすれば、かえって効率が悪くなってしまう。


 大事なのは、単純に強い敵を探すことではない。


 安全に倒せる魔物が、どれだけ効率よく見つかるか。


 それを基準に考える必要があるのかもしれない。


 こういう難しいことは基本的にレオンが得意なのだけど、仲間なんだから私も一緒に考えないといけない。


 必要なのななんだろう。狩場の候補を探すこと、魔物の数と種類を記録すること、戦闘にかかる時間を比べること……


 怪我や疲労の程度も忘れてはいけない。


 それぞれの結果を比べれば、自分たちに合った狩場が見つかるかもしれない。


 考えているうちに、明日が待ち遠しくなってきた。


 新しい魔物を見つけるだけでも楽しいのに、今度は狩場探しだ。


 冒険には、まだまだやることがたくさんある。



 翌日。


 私たちは昨日の分岐点まで進み、今度は左側の通路を調べることにした。


 狭い通路は歩きにくく、足元には小石が散らばっている。


 私は転ばないよう注意しながら、壁際を進んだ。


 しばらく歩くと、通路の先が少しずつ広くなってきた。


 やがて、私たちは小さな空洞へ出た。


 そこには低い岩棚と、奥へ続く細い通路がある。


 そして――。


「あ、いた!」


 岩棚の向こうに、灰牙ネズミが二匹いた。


 片方は地面を嗅ぎ回り、もう片方は壁際で何かをかじっている。


 私たちには気づいていない。


 私は思わず声を潜めた。


「どうする?」


 レオンはすぐに剣を抜かず、空洞全体を見渡した。


 足元は比較的平らで、突進を避けられる広さもある。入口付近より少し奥だが、逃げ道も確保できそうだった。


「ここなら、戦いやすいかもしれない」


 私も同じことを考えていた。


 入口付近では、灰牙ネズミを見つけるたびに、あちこち歩き回る必要があった。


 でも、この空洞には二匹いる。


 もし、ここで何度も魔物を見つけられるなら、探し回る時間を減らせるかもしれない。


 もちろん、今見えている二匹だけで判断するのは早い。


 それでも、調べてみる価値はありそうだった。


 私たちは一度通路の入口まで戻り、周囲に別の魔物がいないことを確認してから、戦闘を始めた。


 先に一匹を誘い出し、通路の手前で倒す。


 もう一匹がこちらに気づいて近づいてきたが、レオンが正面で注意を引き、私が横から攻撃することで、危なげなく倒すことができた。


 拾ったのは銅貨と毛皮、牙。


 珍しいものはなかったけれど、二匹とも大きな怪我をせずに倒せた。


「ここ、いい場所かも!」


 私は空洞を見回した。


 広すぎず、狭すぎない。


 足場も悪くないし、通路の先から別の魔物が突然飛び出してこない限り、周囲を確認する時間も取れそうだ。


 レオンも頷いた。


「候補にはできそうだな。しばらく観察してみよう」


 私たちは空洞の壁に目印をつけ、地図に位置を書き込んだ。


 それから、周囲の岩陰や壁の隙間も確認した。


 宝箱は見つからなかったけれど、魔物の足跡がいくつか残っていた。少なくとも、ここを通る魔物がいるのは間違いない。


 明日も同じように見つかるかどうかは、まだわからない。


 それでも、昨日までとは違う発見だった。



 その後、私たちは何度かこの空洞を訪れた。


 毎回、必ず魔物がいるわけではなかった。


 一匹しか見つからない日もあれば、三匹が別々の場所にいた日もある。魔物が見当たらず、周囲を調べて帰るだけの日もあった。


 それでも、入口付近を歩き回るより、短い時間で魔物を見つけられる日が多かった。


 しかも、空洞は戦いやすい。


 突進を避けられる広さがあり、通路を背にすれば、後ろから不意打ちを受ける危険も減らせる。


 もちろん、通路の奥には何がいるかわからない。だから、奥へ進むときは必ず周囲を確認し、危険を感じたら引き返す。


 何度か通ううちに、私たちはこの空洞を、しばらくの間の拠点にすることに決めた。


 狩場が見つかったのは嬉しい。


 でも、もっと嬉しかったのは、自分たちで探し出したということだ。


 誰かに教えてもらった場所ではない。


 実際に歩き、戦い、調べて、自分たちに合った場所を見つけた。


 冒険者に一歩近づけた気がした。


 ある日の帰り道、私は隣を歩くレオンに声をかけた。


「ねえ。ここなら、もっと練習できそうだね」


「ああ。戦闘に慣れるにはいい場所だと思う。ただ、同じ場所だけに頼らず、ほかの通路も少しずつ調べていこう」


「うん! 次はあの奥の通路も見てみたい!」


「まずは今の狩場を安定して使えるようにしてからだ」


「えー、ちょっとくらいならいいでしょ?」


「ちょっと、で済まなくなるのがお前だろ」


「そんなことないもん!」


 私は頬を膨らませた。


 でも、レオンが笑っているので、私もつられて笑ってしまった。


 焦る必要はない。


 私たちは少しずつ強くなっている。新しい場所も見つけた。


 これから先には、もっと広い世界が待っているはずだ。


 そのためにも、まずは目の前の冒険を大切にしよう。


 次の探索では、どんな発見があるのだろう。


 私は剣の柄を確かめ、明日の冒険に思いを馳せた。


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