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冒険を楽しむのための異世界攻略論  作者: 数独好き
第一章 村での冒険
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第5話 少し先へ、その一歩ーミレア視点ー


 ダンジョンに通い始めて、何日かが過ぎた。


 私たちは毎日、村の近くにあるダンジョンへ向かい、入口付近で灰牙ネズミを探していた。二人で連携して魔物を倒し、戦闘が終われば、出現した数や動き、手に入れた素材を確認する。疲れがたまる前に村へ戻るのが、最近の決まりだった。


 最初のころは、それだけでも十分に新鮮だった。


 剣を振るうたびに動きがよくなり、灰牙ネズミの突進にも落ち着いて対処できるようになった。あいつとの連携も、初めて戦ったときに比べれば、ずっと滑らかになっている。


 けれど、レベルの上がり方は思ったより遅かった。


「うーん……」


 私はステータス画面を眺めながら唸った。


 現在のレベルは五。


 初めてレベルが上がったときは、あれほど嬉しかった。それからも毎日魔物を倒しているのに、次のレベルアップはなかなか訪れない。


 もちろん、強くなっていないわけではない。


 灰牙ネズミが突っ込んでくる方向を見極め、横へ避ける。相手が体勢を立て直す前に剣を振り、すぐに距離を取る。以前なら慌てていた場面でも、今では少し余裕を持って動けるようになった。


 それでも、レベルの数字は変わらない。


 レオンがまとめている記録にも、毎日の結果が積み重なっていた。倒した魔物の数、戦闘にかかった時間、探索した範囲、拾った銅貨や素材、体調の変化。


 けれど、レベルアップというはっきりした成果には結びつかなかった。成果はある。だが望んでいただけの結果を得ることができていないのだ。


 魔物を倒すことで確かに経験値を得ることはできている。だけどそれだけではレベルは上がらない。最初のころに比べて、同じ灰牙ネズミを倒しても成長につながる手応えが薄くなっている気はした。


 敵が弱すぎるのか。


 同じ相手との戦闘に慣れ、新しい経験が得られなくなったのか。


 それとも、次のレベルに必要な条件が厳しくなっただけなのか。


 どれも可能性はある。


 だからこそ、いつまでも同じ場所で同じことを繰り返しているわけにはいかなかった。


「ねえ。そろそろ、もう少し奥へ行ってみない?」


 私が提案すると、隣で記録を整理していたレオンが顔を上げた。


「奥へ? そう考えた理由は?」


「入口の近くは、もうだいぶ慣れたでしょ? 奥へ行けば新しい魔物がいるかもしれないし、まだ見つけていないものもあるかもしれない。それに……」


 私はステータス画面を指で示した。


「このまま同じことを続けても、レベルが上がらない気がするんだ」


 あいつはすぐには答えず、少しの間、記録に目を落とした。


 しばらく考えたあと、ゆっくり頷く。


「俺も同じことを考えていた。ただ、奥へ行くなら準備が必要だ」


「もちろん! 無茶はしないよ」


「前にも聞いた気がするな」


「今度こそ本当!」


 レオンは苦笑した。


 どうやら、まだ完全には信用されていないらしい。


 それでも、少し奥へ進むことには賛成してくれた。


 私は思わず拳を握る。


 新しい場所。


 新しい魔物。


 もしかしたら、また宝箱を見つけられるかもしれない。


 そう考えるだけで、胸が弾んだ。


 その日の午後、私たちは次の探索に向けて準備を始めた。


 まず、これまでに歩いた範囲の地図を確認する。入口から続く通路、灰牙ネズミを見かけた場所、岩陰の隙間で宝箱を発見した場所も、すべて書き込まれている。


 あの宝箱から見つかった銀貨と剣は、村の鑑定屋に見てもらった。


 銀貨は普通の貨幣だったが、剣はよく手入れされた上等な品らしい。特別な魔法がかかっているかは分からなかったものの、実用品としては十分な価値があるという。


 あの発見以来、私は壁際や岩の隙間を以前より注意深く見るようになった。


 何かを見落としているかもしれない。


 そう思うと、ただ歩くだけでも楽しい。


 もっとも、宝箱に夢中になって魔物への警戒を忘れたら本末転倒だ。レオンから何度も念を押されているので、そこは気をつけるつもりだった。


「食料は一日分余計に持っていこう。水も確認しておく」


 あいつが荷物を点検している。


 私は包帯の数を数え直し、剣の刃を確かめた。革袋には、これまで集めた素材を入れる余裕も残してある。


 準備はできていた。


 あとは、どこまで進むかを決めるだけだ。


 今までの探索では、魔物を倒せても、無理に先へ進むことはなかった。疲れや怪我の危険を考えれば、それが正しかったと思う。


 けれど、いつまでも入口付近に留まっていては、新しいことは分からない。


 奥へ行けば、必ず強い魔物がいるとは限らない。道が複雑になるだけかもしれないし、何も見つからない可能性もある。


 それでも、今の私たちには未知の場所を調べる理由があった。


「明日は、今まで確認した場所の先まで行ってみよう」


 レオンが地図を指でなぞる。


「ただし、帰る時間は決めておく。魔物が強すぎたり、道が分からなくなったりしたら、すぐに引き返す」


「分かった!」


 返事をしてから、私は少し考えた。


 もし、強い魔物が現れたら。


 今までどおりに戦えなかったら。


 怖くないと言えば嘘になる。


 けれど、怖いからといって、何も知らないままでいたくはなかった。


 準備をして、危険を見極め、できる範囲で挑戦する。


 それが、今の私たちにできる冒険だった。



 翌朝、私たちはいつもより早く村を出た。


 森を抜け、洞窟の入口へ向かう。ここまでは何度も通った道だ。


 けれど、今日はいつもより先へ進む。


 入口付近の通路を抜け、灰牙ネズミと何度か遭遇した場所を通り過ぎる。そこから先は、まだ地図に詳しく記録できていない。


 私は壁に手を触れながら、周囲を見回した。


 同じ洞窟なのに、少し進んだだけで雰囲気が違う。


 天井は高くなり、足元には大きな岩が増えている。壁の表面も荒く、ところどころに細い亀裂が走っていた。


 耳を澄ます。


 水滴が落ちる音。


 遠くで何かが動いたような音。


 それから、私たちの足音。


「何か聞こえた?」


 小声で尋ねると、あいつも足を止めた。


「今のところ、はっきりした音はない。少し待とう」


 二人でじっと耳を澄ませる。


 しばらくしても、何も起こらなかった。


 私はほっと息を吐いた。


 でも、気は抜けない。


 入口付近では、灰牙ネズミの動きにも慣れていた。ここでは、何が現れるのか分からないのだ。


 少し進むと、通路が二つに分かれていた。


 右側は今までの通路に似ていて、比較的歩きやすそうだ。左側は狭く、地面に小石が散らばっている。


 あいつは地図を取り出し、分岐の位置を書き込んだ。


 私は左右の通路を見比べる。


 左は狭くて歩きづらい。何かあったとき、すぐに逃げられるかも分からない。


 右は進みやすそうだが、その先に何があるのかは不明だった。


「まずは右を少し調べて、戻ってから左も確認しよう」


 あいつの提案に、私は頷いた。


 片方を選んだからといって、もう片方を諦める必要はない。


 安全に戻れる範囲で調べていけばいい。


 右の通路を進む。


 すると、前方の地面に灰色の影が動いた。


 灰牙ネズミ……?


 いや、少し違う。


 体格が大きく、背中の毛が硬そうに逆立っている。こちらに気づくと、低い唸り声を上げた。


 私は剣を握り直した。


 初めて見る魔物だ。


 その姿をしっかり観察しようとした瞬間、魔物が地面を蹴った。


 速い。


「下がれ!」


 あいつの声と同時に、私は横へ飛び退いた。


 魔物は勢いよく走り抜け、岩壁に爪を立てて向きを変える。


 灰牙ネズミより大きく、動きも力強い。


 正面からまともに受け止めるのは危険だ。


 私は剣を構えながら、魔物の足元と進行方向を見た。


 どのタイミングで攻撃すればいい。


 どこまで近づいても大丈夫なのか。


 今までの経験が、そのまま通用するとは限らない。


 けれど、観察して考えることならできる。


「一度、動きを見よう!」


 私が言うと、レオンが短く頷いた。


 魔物が再びこちらへ向き直る。


 私は息を吸い込み、剣を構え直した。


 新しい冒険は、ここから始まる。


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