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冒険を楽しむのための異世界攻略論  作者: 数独好き
第一章 村での冒険
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第2話 初めてのダンジョンと魔物との戦闘ーレオン視点ー


 ダンジョンの入口は、村から歩いて三十分ほどの森の中にあった。


 岩山の斜面に開いた洞窟。その両脇には古びた石柱が立ち、見たことのない文字が刻まれている。


「ここがダンジョン……!」


 隣でミレアが目を輝かせた。


「いかにも冒険の始まりって感じ!」


「分かる。でも、その前に予定を確認しよう」


「えーっ!」


 俺は苦笑しながら、指を一本立てた。


「今日は下見が目的。入口周辺を確認して、危険がなさそうなら入口付近を少し調べる。奥には進まない」


「分かってるってば」


「本当に?」


「……たぶん!」


「そこは即答してほしかったな」


 彼女は頬を膨らませたが、腰の剣を確かめた。


 俺たちは荷物を入口から少し離れた場所に置き、周囲を調べた。地面に残る足跡、折れた枝、獣の毛。そして、洞窟の中から吹いてくる冷たい風。


 新しい痕跡は見当たらなかった。


「意外と静かだね」


「静かなのと安全なのは別だけどな」


「分かってるよ」


 俺は頭の中で、持ち物と行動手順を確認した。

 水筒、包帯、食料、剣。もし魔物と遭遇したら、まず相手の数と動きを確認する。危険ならすぐに外へ戻る。


「よし。入口から十歩くらいの範囲だけ確認しよう」


「やった!」


「何か見つけても追いかけない。危険を感じたらすぐに外へ戻る」


「はいはい!」


「返事が軽い!」


 俺たちは洞窟へ足を踏み入れた。

 外の明るさが背後へ遠ざかる。湿った土の匂い、水滴の音、足元に転がる小石。


 ほんの数歩進んだだけなのに、世界が変わったように感じた。


 胸が高鳴る。


 怖くないと言えば嘘になる。けれど、それ以上に楽しかった。


 俺は腰の剣に手を添えた。


 昨日、何度も練習したスキル。


 剣技・斬撃。


 実戦でどこまで使えるのか、試してみたい。


 そう考えていたときだった。


 カサッ。


 足元の岩陰で、何かが動いた。


「……今、何かいた?」


 彼女が声を潜める。


「あそこだ」


 視線の先に、小さな影があった。


 体長は三十センチほど。灰色の体に短い脚。丸い胴体の前方から、鋭い牙が二本突き出ている。


 ネズミに似ているが、普通のネズミではない。


 影は俺たちに気づくと、赤い目をぎらつかせた。


 頭の中に、ゲームで見慣れた言葉が浮かぶ。


 魔物。


「……出た」


 俺は思わず笑みを浮かべた。


「本物の魔物だ!」


「喜んでる場合!?」


「だって初遭遇だぞ!」


「向こう、こっちに向かってきてるから!」


 魔物は低く唸り、地面を蹴った。


 初戦闘が始まった。




「右!」


 彼女の声に反応し、俺は横へ飛び退いた。


 魔物が、さっきまで俺の足があった場所を駆け抜ける。


 速い。


 小さな体を活かし、地面すれすれを走っている。動きを追うだけでも神経を使った。


 魔物はすぐに向きを変え、こちらへ振り返る。


「こいつ、逃げないね!」


「縄張りに入ったからか、それとも好戦的なのか……!」


「考察はあと!」


「了解!」


 俺は剣を構え直した。


 相手は小型で、突進してくる。正面から剣を振り下ろせば、簡単に避けられるかもしれない。


 なら、まずは動きを見る。


 魔物が再び突っ込んできた。


 今度は慌てず、横へ半歩ずれる。


 牙が服の裾をかすめた。


 近い!


 魔物が通り過ぎる瞬間、俺は剣を振るった。


「剣技・斬撃!」


 頭の中でスキル名を意識した瞬間、腕の動きが変わった。


 刃筋が自然に整い、力を込める方向が分かる。剣の軌道が鋭くなった。


 同時に、頭上に表示されていたHPの数値が減少した。


 スキルを使うと、スタミナを消費する。


 俺は一瞬だけ、その表示に目を奪われた。


 ガキンッ!


 刃が魔物の背に当たった。


「当たった!」


 だが、傷は浅い。


 魔物は短く鳴き、地面を転がってから起き上がった。背中から赤い血が流れているが、まだ動ける。


「思ったより頑丈だな……!」


 俺は魔物の頭上のHPを確認した。スキルが直撃したことによりHPが3割ほど削れた。


 また、俺も少しだけ疲労を感じる。スキルを使うとスタミナや魔力を消費する。剣技・斬撃は使い勝手の良いスキルだが、スタミナの使い過ぎには気を付けなければいけない。


 魔物が再び姿勢を低くした。


 突進が来る。


「次は、もう少し引きつける……!」


「無茶しないでよ!」


「大丈夫。試したいことがあるだけ!」


 魔物が走り出す。


 俺は正面から迎え撃たず、ぎりぎりまで引きつけた。


 牙が見える。


 あと少し。


 魔物が跳ねるように突っ込んできた瞬間、俺は左へ体をずらした。


 そして、すれ違いざまに剣を振り抜く。


「剣技・斬撃!」


 再び頭上のHP表示が減った。


 さっきよりも、減少量が大きい気がする。


 肉を断つ感触が、剣を通して腕に伝わる。


 魔物は短い悲鳴を上げ、地面に転がった。


 数回、脚をばたつかせる。


 それから、動かなくなった。


「…………」


 俺は剣を構えたまま、しばらく動けなかった。


 倒した。


 俺が、スキルを使って魔物を倒した。


「……やった」


「やったあああっ!」


 隣から歓声が響く。


「倒したね! 本当に魔物を倒しちゃった!」


「声、大きいって!」


「だって、すごいじゃん!」


 彼女は興奮した様子で俺の肩を叩いた。


 俺も笑っていた。


 怖かった。緊張した。間違えれば怪我をしていたかもしれない。


 それでも、初めての戦闘は想像以上に胸が躍った。


 ただ、喜ぶのはまだ早い。


 魔物を倒したあとには、確認したいことがある。


 ドロップ品だ。


 俺は剣を構えたまま、魔物の様子を観察した。


 すると、灰色の体が淡い光に包まれた。


「えっ……?」


 光が消えると、魔物の死骸はなくなっていた。


 代わりに、地面へ硬貨らしきものが数枚、灰色の毛皮、短い牙が二本落ちている。


「これがドロップ品か!」


「魔物が消えちゃった!」


「そこも気になるけど、まずは周囲の安全確認だ」


 俺たちは周囲を警戒し、ほかの魔物が近づいていないことを確かめてから、落ちていた物を拾った。


 硬貨は銅色で、村で使われている銅貨によく似ている。


 毛皮は小さいが、傷んでいない部分なら使えるかもしれない。牙も素材として売れる可能性がある。


「本当に、お金と素材が手に入るんだ……」


 俺は硬貨を手のひらに載せた。


 魔物を倒すことは、経験を積むだけでなく、冒険を続けるための資金を稼ぐ手段にもなる。


「これ、何の魔物なんだろうね?」


「このダンジョンによくいる魔物だと思う。でも、正式な名前と素材の価値は確認したい」


「村に帰ったら調べよう!」


「そうしよう」


 俺は硬貨と素材を袋にしまった。


 スキルスクロールが落ちていないかも確認したが、見つからなかった。


 初戦闘で手に入るほど甘くはないらしい。


「よし。この付近でもう数回戦ったら、外に出ようか」


「えっ、早くない?」


「今日の目的は下見だ。初戦闘で興奮している今こそ、切り上げるべきだと思う」


 ステータスを表示すると、疲労度が3割を超えていた。自分だと興奮していて分からないが、初戦闘で随分興奮して必要以上に消耗してしまっているようだった。

 疲労度が増すとステータスが減少したり、スタミナの減少速度が増したりと悪影響がある。5割を超える前には引き上げた方が無難だろう。


 彼女は不満そうだったが、やがて頷いた。


「……分かった。無事に帰るのも冒険だもんね」



 洞窟を出ると、陽の光がまぶしかった。


 俺は荷物を置いた場所まで戻り、まず自分の体を確認した。腕や脚に傷はない。服の裾に小さな裂け目ができているが、動くのに支障はなかった。


 それから、ステータス画面を確認する。魔物の攻撃は受けていないため、HPは満タンだ。だが疲労度は5割近くまで増えていて、スタミナも3割を切っている。


「怪我は?」


「私は大丈夫。そっちは?」


「俺も大丈夫。ただ、スキルを使ったせいでスタミナが大分減ってる」


「そうなんだ。でも私も早く使いたいなぁ」


「次に手に入れたらミレアを優先するよ」


 だがスキルを使い過ぎるとスタミナを消費する。スタミナが無くなると碌に動けなくなってしまうので使いどころには注意が必要だ。

 スキルの有用性とスタミナ、疲労度の管理、覚えることは多いがそれでもすごい充実していた。



 俺たちは今日の戦闘を振り返った。


「こいつは突進してくる。動きは速いけど、方向転換の直前に少し鈍る。それから、斬撃は当たれば有効だけど、適当に振るだけじゃ浅い傷しかつけられない」


「うんうん」


「あと、俺たちが二人いるのに、こいつは俺を優先して狙ってきた。最初に気づいた方を狙うのか、それとも剣を持っている方を警戒したのか……」


「それ、帰ってから考えない?」


「……それもそうだな」


 俺は笑った。


 まだ分からないことは多い。


 経験値の仕組み。魔物が落とすお金や素材の規則性。スキルスクロールがドロップする条件。スキルの有用な使い方。


 ただ、今日一日で分かったこともある。


 この世界は、調べれば調べるほど面白い。


 そして、知識だけでは乗り越えられないこともある。


 実際に戦い、危険を感じ、考え、次に活かす。その繰り返しが、冒険者としての成長につながるのだろう。


「次は、もう少し安全に倒したいな」


「えっ、もう次の話!?」


「今回わかったことがたくさんあるからな」


 俺は剣を鞘に収めた。


「次は二人で戦う練習をしよう。片方が敵の注意を引いて、もう片方が攻撃する。ただし、どちらかが怪我をしたらすぐに撤退。スキルについても、どうやって使うのが一番効果的なのかを考える」


「なるほど。二人で戦う練習も必要なんだね」


「そう。せっかく一緒に冒険するんだから、二人でできることを増やしたい」


 彼女は少し驚いたように俺を見て、それから笑った。


「うん! 私も、ちゃんと強くなる!」


 その言葉を聞いて、俺は嬉しくなった。


 ただ一緒にダンジョンへ入るだけではない。


 お互いに学び、できることを増やし、昨日より少し先へ進む。


 それこそが冒険なのだと思う。


 ふと、俺はステータスを確認した。


 レベルは三のまま。でも経験値はしっかりと入っている。


 これらを積み重ねていけば、いつかもっと強い魔物とも戦えるようになるだろう。


「楽しかったな!」


 俺が言うと、彼女も満面の笑みで頷いた。


「うん! すっごく楽しかった!」


 初めての戦闘は、無事に終わった。


 俺たちはその日のうちに村へ戻り、手に入れた硬貨と素材を確認した。


 魔物の特徴。


 攻撃の動き。


 ドロップ品。


 必要な情報をしっかりと記憶して、次の冒険に備える。


 今回の収穫は、少額のお金といくつかの素材。それに、実戦で得た経験と、新しい課題だった。


 スキルスクロールこそ手に入らなかったが、簡単に見つかるものではない。


 いつか運よく手に入る日を楽しみにしながら、まずは目の前の一歩を大切にしよう。


 次に同じ魔物と遭遇したとき、もっと上手く戦うために。


 そして、いつかこの洞窟の奥へ進むために。


 冒険の第一歩は、小さな勝利と、たくさんの課題を残して終わった。



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