第17話 新たな職業ーレオン視点ー
教会の中は、いつもと変わらず静かだった。
正面の祭壇には柔らかな光が差し込み、奥では神官が訪れた人々の相談に応じている。俺たちは神官に声をかけ、レベル十五に到達したことを伝えた。
「転職ですね。では、こちらへどうぞ」
案内されたのは、祭壇の脇にある小部屋だった。
部屋の中央には、複雑な模様が刻まれた石板が置かれている。転職の際には、この石板に触れることで、自分が選べる職業を確認できるらしい。
「まずは、初めてのお二人から」
「では、次の方へ」
神官に促され、今度はミレアが石板の前へ進んだ。
彼女は緊張した面持ちで石板に手を置いた。
――転職可能職業一覧。
表示された職業を見た瞬間、ミレアの目が輝いた。
「剣士……! あ、こっちもある!」
前衛向けの職業が複数表示されたらしい。ミレアは説明を読み比べ、しばらく考えた。
やがて、彼女は一つの職業を選択する。
――剣士。
剣による近接戦闘を得意とし、前線で敵と戦う職業だ。剣術の基本スキルを持ち、剣を使った基本的な戦闘に補正が掛かる。
「よしっ! 決めた!」
ミレアは拳を握った。
「あたしは、やっぱり剣で戦いたいからね。これからもっと強くなるよ!」
「うん。これからも一緒に頑張ろう」
「もちろん!」
ミレアは短い期間だが、剣の扱いを磨き、俺と同じようにレベル十五まで成長してきた。剣士の職業補正が加われば、前衛としてさらに強くなるだろう。
残るのは、俺の転職だけだった。
「では、最後にあなたですね」
神官に促され、僕は石板の前へ進んだ。
右手を置くと、視界に半透明の文字が浮かび上がる。
――転職可能職業一覧。
村人から転職できる一般職はいくつかあった。剣を扱う職業もあれば、採取や生産に向いた職業もある。
その中に、俺が探していた職業があった。
魔法剣士。
剣と魔法を両立させる、僕の目標に近い職業だ。
説明を確認すると、剣術を主体としながら、魔法を組み合わせた戦闘を得意とする職業だと分かった。剣士ほど近接戦闘に特化してはいないものの、近接戦闘や魔法に関して若干の補正が掛かる。魔法使いよりも前線で戦いやすい職業だ。
まさに、俺が望んでいた方向性の職業だった。
俺はほかの候補も確認したうえで、魔法剣士を選択した。
――職業が変更されました。
身体の奥がじんわりと温かくなる。
ステータスの表示が変化し、職業による成長補正が加わったことが分かった。
職業により使用不可となるスキルがあるとは聞いていたため、スキルの確認を行う。
剣技・斬撃は、引き続き使用可能だった。
職業が変わっても、これまで身につけた技術がすべて失われるわけではない。職業によって使用できるものと、できないものがあるだけだ。例えば魔法剣士の職業が剣技・斬撃のスキルが使えなかったとしても、元の村人の職業に転職しなおせば再び使えるようになる。
「終わった?」
小部屋の外で待っていたミレアが、顔を覗かせた。
「うん。魔法剣士になれたよ」
「魔法剣士! いいじゃん! 前に言ってた、剣と魔法を使える職業でしょ?」
「そう。でも、まだ魔法は使えない」
「だったら、これから覚えればいいんだよ!」
ミレアは自分のことのように喜んでくれた。
「魔法剣士として、まずは魔法を使えるようになる必要があるね」
そうやってふたりで喜び合った。
「最後に、そちらの方、どうぞ」
二人が希望の職業に転職できたが、最後は当初は希望の職業になれなかった、コハクだ。
「うちの番か……」
コハクは少し緊張した面持ちで歩き始める。
彼女は以前、レベル十五になったときに商人へ転職している。その後、錬金術師を目指して薬草を集め、素材を加工し、薬を作り、何度も実験を繰り返してきた。
しかし、錬金術師への転職条件は分からないままだった。
今回、そもそも転職できるのか。それすら確実ではない。
「それでは、石板に手を置いてください」
「よっしゃ!」
コハクは勢いよく石板に手を置いた。
数秒後、彼女の前に半透明の文字が浮かび上がる。
――転職可能職業一覧。
コハクは表示を凝視したまま、突然声を失った。
「……え?」
「どうしたの?」
ミレアが心配そうに尋ねる。
コハクは震える指で、表示の一部を指した。
「出た……」
「何が?」
「錬金術師や!」
叫び声が小部屋の外まで響き渡った。
僕とミレアは、すぐにコハクの隣へ駆け寄った。
表示された職業一覧の中に、確かに錬金術師の文字がある。しかも、選択可能な職業として表示されていた。
「ほんまや……。錬金術師や……!」
コハクは何度も表示を確認した。
以前は、どれだけ探しても候補に現れなかった職業だ。僕たちと一緒に素材を集め、薬を作り、魔物に試し、錬金術に関わる経験を積んだことが条件だったのかもしれない。
ただ、正確な理由は分からない。
「もしかして、あの実験が条件やったんかな……?」
「可能性はあるね。でも、今は断定できないよ」
「せやな。でも、出たんや!」
コハクはすぐに笑顔を取り戻した。
「うちは、錬金術師になれるんや!」
彼女は迷うことなく、錬金術師を選択した。
――職業が変更されました。
その瞬間、コハクの表情から勢いが消えた。
「……なれた。ほんまに、なれたんやな」
これまで、彼女は何度も失敗してきた。
仲間に見限られ、一人で条件を探し、知識不足なのか経験不足なのかも分からないまま試行錯誤を続けていた。
それでも、諦めなかった。
「よかったね」
ミレアが優しく声をかける。
「うん……。二人のおかげや。ありがとう」
コハクは目を潤ませながら笑った。
彼女の初期ステータスは、すべて八だった。小人族は人間よりも身体能力の基準が低い一方、器用さや生産適性に恵まれている。
商人として活動し、錬金術に強い関心を持っていたのも、種族としての適性が関係していたのかもしれない。
錬金術師になったことで、今後は生産系の能力が伸びやすくなるはずだ。
「これで、コハクの転職は終わりました」
神官が告げる。
コハクは自分の手を握りしめ、何度も職業名を確認していた。
「錬金術師……。これで、もっといろんな薬を作れるようになるんやな」
「そうだね。今まで集めてきた素材も、無駄にはならないはずだよ」
「せやな。これからは、もっと効率よく調合できるようになるかもしれへん」
コハクは新しい職業を得た喜びを噛みしめるように、胸元へ手を当てた。錬金術師は錬金術という基本スキルを保有し、手作業で行っていた調合を魔力を消費してできるようになる。また、習熟度を上げればさらに品質を上げた品を調合できるようになるかもしれない。
「うちは錬金術師になったばかりや。お互い、これから覚えることが多そうやな」
コハクが笑う。
「それは俺も同じだよ。魔法剣士になったばかりで覚えることはたくさんある。でも、急ぐ必要はないよ。まずは新しい職業に慣れて、それぞれの能力を確かめよう」
教会を出ると、空は夕方の色に染まっていた。
俺たちは近くの広場へ移動し、これからのことを話し合う。
「これで、みんな目的の職業になれたね」
ミレアが嬉しそうに言った。
「僕は魔法剣士、ミレアは剣士、コハクは錬金術師」
「ええ響きやなあ……。錬金術師……」
コハクは自分の職業を何度も口にした。
俺はこれからの冒険を思い浮かべた。
魔法剣士として剣と魔法を使いこなし、ミレアは前衛として敵を引き受ける。コハクは錬金術で薬や道具を作り、俺たちを支えてくれる。
それぞれの役割がはっきりすれば、今までよりも効率よく戦えるはずだ。
もちろん、新しい職業を得たからといって、すぐに強くなるわけではない。
能力を確認し、技術を磨き、実戦で試す必要がある。
簡単な道ではないだろう。
それでも、楽しみだった。
新しい職業、新しい力、そして新しい仲間との冒険。
「よし。明日から、また頑張ろう!」
俺がそう言うと、ミレアとコハクも笑顔で頷いた。
俺たちの冒険は、ここから新しい段階へ進んでいく。




