第16話 錬金術師への道、そしてレベル15ーレオン視点ー
ミレアに相談すると、彼女は意外にもあっさり頷いた。
「いいんじゃない? 困ってるなら、手伝ってあげようよ」
「もう少し警戒すると思ったんだけど」
「だって、あの子は一人でダンジョンに行こうとしてたんでしょ? それは止めた方がいいよ。それに、錬金術師っていう職業も気になるし」
ミレアは腰に手を当てた。
「ただし、危ないことはしない。それは絶対だからね」
「もちろん。その条件は本人にも伝えてあるよ」
「よし。じゃあ、話を聞きに行こう!」
俺たちは待ち合わせ場所へ向かった。
◇
「ほな、ほんまに手伝ってくれるんやな!?」
現れた小人族の少女は、俺たちを見るなり顔を輝かせた。
「まずは話を聞いてからだよ。必要な素材や、試したいことを整理しないと」
「わかっとる、わかっとる!」
少女は大きく頷いた。
「本当にわかってる?」
ミレアが疑わしそうに尋ねる。
「な、なんやねん! うちはちゃんと考えとるわ!」
「じゃあ、名前を教えて。いつまでも錬金術師さんって呼ぶわけにもいかないでしょ?」
「あっ……せやった」
少女は気まずそうに顔をそらした。
彼女は俺たちより年上の小人族で名前はコハク、現在の職業は商人。目標は錬金術師になることだった。
以前は仲間と旅をしていたが、レベル十五で転職した際、錬金術師が候補に表示されず、商人を選んだことで仲間から見限られたらしい。
「錬金術師になるために、何か心当たりはあるの?」
「素材を集めることやろ。あとは素材を加工する技術や、薬を作る知識も関係しとるんやないかと思う」
「それは誰かに聞いた情報?」
「……うちの予想や」
確定した情報は、ほとんどないようだった。職業に関する情報は書物や人づての経験による伝聞のみ、誰がどの職業になれたかなどは分かっても、その条件などは詳しく分かっていない。
ただ、考え方としては筋が通っている。錬金術師という職業名から考えれば、素材や加工、調合が条件に関係していても不思議ではない。
しかし、特定の素材を持っているだけでいいのか、自分で採取や加工をする必要があるのか、それとも素材とは無関係なのかは分からない。
「まずは、今まで何を試したのか教えてくれる?」
「ええで!」
俺たちは村の外れにある空き地へ移動した。
◇
彼女はこれまで、薬草を集め、木の実をすり潰し、鉱石を砕き、素材を混ぜ、簡単な薬を作ってきたという。
しかし、どれも錬金術師への転職にはつながらなかった。
「薬草を混ぜるだけやと、普通の薬草茶になったり、変な臭いになったりなあ……」
「それ、飲んだの?」
ミレアが尋ねる。
「飲むわけないやろ! 見た目からして怪しかったわ!」
「ならいいけど……」
俺は苦笑した。
実験では、何をしたかだけでなく、どの工程で何が起きたかも重要になる。素材を集めただけなのか、加工まで行ったのか。加工によって、元の素材とは違うものができたのか。
もし職業条件が行動の実績を見ているなら、結果だけでなく過程も関係するかもしれない。
「これからは、今までやったことを少し変えて試してみよう。ただし、危険な素材や正体の分からないものは勝手に混ぜないこと」
「わかったわかった!」
「……本当に頼むよ」
最初に、薬草の採取と選別を行った。
傷んだものと状態のいいものに分け、種類ごとに分類し、使える部分だけを切り取る。
商人である彼女は、素材の状態を見極めることには慣れていた。
「こっちは傷薬の材料、こっちは煎じて飲むもんや。こっちは……」
知識は確かにある。
薬草を乾燥させ、刻み、すり潰し、水に浸す。それぞれの工程を試したが、特別な変化は起こらなかった。
村で使われている傷薬の作り方を教えると、彼女は普通の傷薬を一つ完成させた。
「うーん……これだけやとあかんか」
「でも、作れるようになったのは悪いことじゃないよ」
ミレアが励ます。
「何をしたらどうなるか、少しずつ分かってきてる。何もせずに悩んでるよりは前進してると思う」
俺も頷いた。
成果が出なかったからといって、その方法が条件と無関係とは限らない。経験が足りないのか、別の条件と組み合わせる必要があるのかもしれない。
◇
次に、ダンジョンで採れる素材を試すことにした。
俺たちが普段狩っている入口付近で、灰牙ネズミの毛皮や牙、洞窟の壁際に生える植物、湿った場所にできる鉱物の欠片を集める。
コハクは素材を一つずつ手に取り、興味深そうに観察した。
「ダンジョンの素材は、普通の場所で採れるもんと違うんやな。魔力の影響を受けとる可能性がある。加工したときの性質が変わるかもしれへん」
俺たちは牙を削り、薬草と組み合わせ、毛皮から使える部分を切り取った。
いくつかの加工品はできたが、特別な反応は起こらなかった。
「なかなかうまくいかへんなあ」
「条件が複数あるか、特定の素材が必要なのかもしれないね」
彼女は落ち込んだものの、手を止めなかった。
口では大きなことを言うが、夢を叶えるために努力する気持ちは本物らしい。
◇
次の実験を考えていたとき、俺はふと思いついた。
「ポーションを魔物に投げつけてみるのはどうかな?」
「ポーションを魔物に?」
ミレアが不安そうに聞き返す。
「確か、昔どこかで、薬を投げつけて攻撃する錬金術師がいたような気がするんだ。詳しくは知らないけど、そういう使い方ができるなら、錬金術師の条件に関係するかもしれない」
我ながら、かなり適当な理由だった。
「……本当にそんな錬金術師がいたの?」
ミレアは疑わしそうに俺を見る。
「たぶん。少なくとも、聞いたことはある」
「たぶんって……」
コハクも眉をひそめた。
「薬を投げるって、普通に考えたらもったいないだけやろ。回復薬なら飲んだ方がええんとちゃう?」
「それはそうなんだけど、試す価値はあると思う。まずは弱い魔物で、投げるのも俺がやるよ」
「レオンが言うなら試してみるけど……」
ミレアは納得しきれない様子だった。
俺たちは入口付近で灰牙ネズミを一匹だけ誘い出した。
まず、水の入った小瓶を投げる。瓶は魔物の足元で割れたが、灰牙ネズミは一瞬身を引いただけで、すぐにこちらへ向かってきた。
「次はポーションや!」
俺は小瓶を受け取り、魔物の背中へ投げつけた。
瓶が割れ、中身が毛皮に広がる。
しかし、傷が癒える様子も、動きが鈍る様子もなかった。
「普通に元気だね」
「傷を負わせてから試そう」
俺たちは灰牙ネズミに浅い傷を与え、同じポーションを投げつけた。
結果は変わらなかった。むしろポーションにより元気になった気さえする。
「失敗や……」
「いや、もしかしたらこれで条件を満たしたかもしれないだろ」
「そんなわけないやろ、何でそんな自信満々なんや」
「まあ、物は試しともいうことで」
不満そうにしながらも、彼女は頷いた。
実験は転職条件に関係あるかは分からないが、思いつくことは何でもやってみようと考えた結果だ。
◇
数日間、俺たちは探索と実験を繰り返した。
危険の少ない素材を集め、加工し、結果を確認する。村人や教会にも話を聞いたが、はっきりした答えは得られなかった。
特殊職業の条件は一律ではなく、本人の経験によって候補に表示される職業が変わるらしい。
「レベル十五で転職したとき、錬金術師は候補に出なかったんだよね?」
「せやで」
「なら、条件を満たしていなかった可能性が高いね」
「せやと思う」
転職するのは教会にいけば何度でもできる。多少のお布施は必要だが、大した金額ではないのだから。
「焦って一つの方法に決めない方がいい。いろいろ試して、何か一つでも条件を満たせばそれで成功なのだから」
「……うん。そうやな」
彼女の表情から、出会ったときの焦りが少しずつ消えていった。
◇
そして、ある日のダンジョン探索。
いつもの狩場で灰牙ネズミを倒した直後、身体の奥に不思議な感覚が走った。
視界の端に、見慣れた表示が浮かび上がる。
――レベル十五。
「……来た」
「どうしたの?」
ミレアが振り返る。
「レベルが十五になった」
「ほんと!? やったじゃん!」
彼女は笑顔で俺の肩を叩いた。
初めて灰牙ネズミと戦ったときは、剣を振るうだけで精一杯だった。それが今では、魔物の動きを見て攻撃を避け、仲間と連携しながら戦える。
まだ未熟ではある。それでも、積み重ねてきた経験は確かなものだった。
そして、レベル十五。
教会で転職できる条件を満たしたことになる。
「これで、いよいよ転職だね!」
「探索が終わったら、教会に向かおう」
「すぐ行くの?」
「ここまで準備してきたんだ。候補を確認するだけでも早い方がいい。それに、転職条件について教会で聞けることがあるかもしれないからね」
ミレアは嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、今日はもう少しだけ探索して、終わったら教会に行こう!」
コハクも、真剣な顔で俺を見た。
「うちも一緒に行ってええか? ここらで一回、条件を満たしているか確かめてみたいんや」
「もちろん。俺たちも、君のことを教会で聞いてみるつもりだったから」
「ほんまか! 助かるわ!」
俺たちは残りの探索を慎重に終え、村へ戻った。
素材を整理し、装備を確認する。怪我がないことを確かめ、必要な道具を片づける。
そして、三人で教会へ向かった。
レベル十五になった俺に、どんな職業が提示されるのか。
錬金術師を目指すコハクに、新しい手がかりが見つかるのか。
期待と不安を胸に、俺は教会の扉を開いた。
転職という新たな節目が、いよいよ始まろうとしていた。




