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追放された雑用係、敗戦処理の天才だった ~崩壊寸前の辺境領を立て直す~   作者: 山田鰻
第十三章 冬支度と人材再配置

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七日目の控え

「四つとも、済ではありません」


翌朝、若い吏員が言った。広間の台には四つの控えが並んでいる。村控え照合/門別控え聞き書き/欠番整理/通行金分類。腐った棚を封じた後に置いた四つの役割だ。七日だけと決めていたが、七日で終わるのではない。七日で続けられるかを見る。


メイナが最初の紙を開いた。


「南三村。荷車一台、石運びと麦種袋戻し後に戻り。村控えと門控え、一致。見張り手間なし」


南三村の確認役は台の向こうで両手をそろえていた。


「戻った荷まで見ました」


「荷の中身は」


「空袋が二つ多かったです。麦種袋の戻しではなく、石を包む布として使った分です」


控えの端には訂正線が残っている。麦種袋戻し後。その横に、石包み空袋二/戻し別扱い。


「消していませんね」


そう言うと、確認役は頷いた。


「消すと戻したことだけが残ります。何に使ったかが消えます」


次は門別控えだった。門の者が聞き書きを出す。声はまだ硬い。だが紙の端は揃っている。


「通行三十六。空荷十四/軽荷十七/濡れ荷四/別紙確認一。見張り手間を求めた者、なし」


エルクが目を細めた。


「なし、でいいのか」


「求めた者はありません。ただ、口で『前は取られた』と言った商人が二人いました」


「書いたか」


門の者は別紙を出した。


「名は商人控え側。門では荷の名だけにしました」


横からルシアの目が紙を覗く。


「いいね。門で商人名を並べると、すぐ噂が走る」


「商人控えの女に回しました」


商人控えの女は、銅貨を分けた時と同じ手つきで自分の紙を出した。


「二人とも前の見張り手間は払っていました。でも今回は払っていません。正式通行税との差引にも混ぜていません」


ミリアが小さく息を吐く。


「門の者と通行金分類は、組ませたままにします」


「はい」


返事は短かった。


門の者の肩はまだ硬い。それでも紙の端をそろえる手は、昨日より遅くなっている。急いで済にしない遅さだった。


三つ目は欠番整理だった。若い吏員が欠番札を並べる。


「欠番二十九は別封。新しい欠番はありません。ただし、村控え照合待ちが三件あります」


「済にしていない理由は」


「相手の紙がまだ来ていません」


「前なら」


若い吏員は一度だけ唇を結んだ。


「前なら、役所控えだけで済にしていました」


言い切るまで誰も助けなかった。


「今は」


「確認待ちです」


メイナが欠番整理の欄に印を置く。確認待ち三件/別封一件/新欠番なし。数字は地味だった。けれど地味な数字ほど信用できる。派手に直った紙は、たいていどこかを隠している。


四つ目は通行金分類だった。商人控えの女は銅貨を台へ出さず、紐で束ねた小札を置いた。空荷/軽荷/濡れ荷/別紙確認/損害時相手。


「銅貨は金箱に入れました」


「なぜ台に出さないのですか」


問いが出る。


「ここで出すと、数え直したくなる人が増えます」


横でルシアが笑いを噛み殺した。


「正しい」


女は顔を上げない。


「小札と金箱の控えが合えば足ります。銅貨を出すのは合わなかった時です」


金箱控えと小札を見比べる。一枚だけ端が折れていた。


「これは」


「濡れ荷です。油壺と一緒に来たので別紙へ回そうとしました。でも荷は濡れただけで油壺は空でした」


「誰が見ましたか」


「門の者/荷の持ち主/私です」


三つの印がある。単独で済を押していない。


「四つとも、続けられます」


ミリアが言った。


その場にいた者たちは喜ばなかった。喜ぶには早い。続けられるということは、仕事が残るということでもある。


「本配置にしますか」


メイナが聞く。


「冬前配置として確定します。ただし、七日ごとの再確認と二人確認は残します。席を与えても、一人で済は押させません」


四つの札が仮配置表から冬前配置表へ移された。村控え照合/門別控え聞き書き/欠番整理/通行金分類。その下には倉番/薪束確認/井戸番/屋根補修/馬飼葉/冬前の配給が並ぶ。


四つの役割は、棚を封じるための仮の手ではなく、冬の入口を支える席になった。


その時、エルクの兵が広間へ入った。


「北方砦からの定期便です」


濡れていない紙だった。急報ではない。封の赤も通常のもの。エルクが受け取り、台に置く。


「兵糧の残/矢束/馬の蹄鉄/見張り交代/周辺巡回」


メイナが読み上げる。いつもの項目が並んでいる。


兵糧は残三十一日。矢束は補修待ち二箱。蹄鉄は割れ三。北谷筋、魔物三群。例年より二日早く南斜面へ移る。被害なし。見張り交代は予定通り。


一行だけ、紙の中で温度が違った。


エルクは眉を寄せたが、口を開かなかった。急報ではない。被害もない。砦は定型の欄へ入れて送ってきている。


砦の書き手は異変として扱っていない。いつもの欄に、いつもの筆圧で入っている。それがかえって目に残った。


控えの余白に短く写した。


北谷筋、二日早い。


それ以上は書かない。


「蹄鉄の割れ三は、馬飼葉の控えへ」


紙を戻した。


「矢束二箱は、屋根補修の釘と混ぜないでください。鉄を同じ棚に入れると、後で数が歪みます」


メイナが頷き、北方砦の紙を別束にした。


ミリアは余白へ写された一行を見た。問いは出さない。今、動かすのは冬前配置だ。


昼過ぎ、ルシアがフェネル商会の回状控えを持ってきた。


「冬前の荷受日を出せるよ。ただし、いつもの小口じゃ足りない。通行税の第一案が動き始めたなら、まとめて受ける方がいい」


ミリアが顔を上げる。


「まとめて、とは」


「塩・油・縄・釘・乾いた薪。売るだけなら高くなる。けど、こっちが買うものもある」


ルシアは通行控えの上へ別の紙を置いた。


「フェネル商会の名で、一度だけ大きく組める。条件を間違えると冬前に領の金が空になる。うまく組めば、現金が入る」


エルクが眉をひそめた。


「金が入る話なのか、出る話なのか」


「両方」


ルシアは笑わなかった。


「だから明日、帳簿と倉を一緒に見せて」


冬前配置表を見た。人を置いたばかりの表だ。置いた人が本当に動くなら、荷も金も動かせる。


「明日、見せます」


ルシアは頷き、紙を畳んだ。


「なら、商売の話にしよう」


広間の台には冬前配置表/北方砦の定期便/フェネル商会の控えが並んだ。


三つとも、まだ答えではない。答えにするには、明日、置いた人と倉の中身を同じ台へ載せる必要がある。けれど領を冬へ動かす紙になり始めていた。

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