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追放された雑用係、敗戦処理の天才だった ~崩壊寸前の辺境領を立て直す~   作者: 山田鰻
第十三章 冬支度と人材再配置

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空欄の表

「空欄が六つあります」


朝の広間でメイナが仮配置表を広げた。村控え照合/門別控え聞き書き/欠番整理/通行金分類までは、昨日のうちに人を置いた。


その下が白い。倉番/薪束確認/屋根補修/井戸番/馬飼葉/冬前の配給。紙の上では六つの空欄にすぎないが、冬が来れば人のいない場所から順に凍る。空欄のまま誰かが兼ねれば見落としが出て、済の印だけが先に増える。冬はそこを待たない。水場も薪も、遅れた分だけ取り返しに人を食う。


ミリアは表の端に指を置いた。「今日、全部を埋めますか」


「名前だけなら埋まります」


「でも、名前で埋めるとまた腐ります」


広間の隅で若い吏員の筆が止まった。昨日までなら空欄を見て、先に済と書いたかもしれない。今は空欄を空欄のまま見ている。


冬支度は紙を埋める作業ではない。誰をどこに置けば紙が嘘をつかずに済むか、それを決める作業だ。


エルクが腕を組む。「倉番なら兵を二人出せる。腕の立つ者を置けば盗みは減る」


「倉の外には兵を置いてください」


「中は違うのか」


「中で必要なのは強さではなく減り方を見る目です」


エルクは不満そうに眉を寄せたが、言い返さなかった。兵で押さえられる場所と、兵で押さえると歪む場所がある。倉の中は後者だった。


荷を運ぶ者が兵の顔色を見るようになれば、濡れた袋も崩れた薪も割れた壺も隠す。隠された物は数の上では残り、使う日にだけ腐って出てくる。


「候補を見ます」


ミリアの声で、広間に呼ばれていた者たちが前へ出た。門の兵二人/荷車番の男/右肩を布で吊った古兵/西畑組の馬番/東井戸村の農夫/昨夜門の外で寝た流民の炭焼き。


名簿だけなら兵が上に来る。字が整う者も、声が大きい者もいる。だが倉番の欄に必要なものはそこではない。


倉へ向かった。封じた貸借棚や金庫とは違い、冬備蓄の倉は動かさなければならない。麦種の空袋・塩・油壺・釘・縄・干し草・薪束。全部を止めれば領の手が止まる。


戸を開けると冷えた匂いが流れた。


ガレスが先に入り、薪束の端を靴先で軽く押した。崩れない。次に手前の塩袋を持ち上げず、下の板を見る。


誰にも何も言わない。


右肩を吊った古兵が、その動きを見ていた。


「袋を数えればいいのではありませんか」


門の兵の一人が言った。


「数えるだけなら、紙で足ります」


塩袋の前に立つ。


「冬に必要なのは、数えた袋が本当に使えるかです」


古兵が左手で袋の端を触った。


「手前の袋だけ乾いています。奥の二つは、下が冷たい」


ガレスの眉が少し動いた。


「持ち上げていないな」


「肩が上がりません」


古兵は布で吊った右肩を見た。


「だから下を見る癖が残りました。戦場で袋を担げない者は、袋の下を見ろと言われました」


ガレスは答えず、板を一枚ずらした。奥の塩袋の下に薄く湿った跡がある。腐ってはいない。だがこのまま置けば、袋の底から固まる。


ミリアが息を止めた。


「気づかなければ、冬の途中で使えなくなりますね」


「今なら移せます」


古兵を見た。


「倉番は荷を担ぐ仕事ではありません。担ぐ者を止め、置き方を直し、使える順を残す仕事です」


古兵はすぐには返事をしなかった。


「剣は振れません」


「倉で剣は振らないでください」


エルクが低く笑った。


「なら、外は俺の兵で見る。中はそいつか」


「七日です」


ミリアが言った。


「七日ごとに、メイナと別の者が控えを見ます。倉番一人で済は押させません」


古兵は左手で胸に触れた。


「分かりました」


一つ目の空欄に倉番と書かれた。


次は薪束だった。薪置き場は倉の北側にあり、数は多い。見た目はそろっている。そろっているものほど、悪い束が混じる。


流民の炭焼きが積まれた薪束の前で立ち止まった。服は薄い。役所に置けば浮く。門に立たせれば商人に軽く見られる。字も遅い。けれど薪の前では動きが変わった。


一本抜くのではなく束の紐を見る。次に指の背で木口を叩く。音を聞いてから、別の束へ移った。


「これは、上だけ乾いています」


炭焼きが言った。


「中は湿っています」


荷車番の男が顔をしかめた。


「見ただけで分かるのか」


「見ただけでは分かりません」


炭焼きは薪を一本だけ抜いた。割れ目の内側が暗い。


「軽い音がしない。あと、紐の締めが急いでいます。乾いた薪は締め直すと少し浮きます」


ルシアが感心したように覗き込む。


「商人なら上の乾いたところだけ見せて売るね」


「買う方が急げば売る方もそこだけ整えます」


「嫌なことを言う」


「冬は嫌なところから燃え残ります」


ミリアは表を見た。


「薪束確認に置けますか」


「置けます」


炭焼きの手元を見る。


「ただし支払いは薪の本数ではなく、確認した束の控えで出します。多く崩せばよい仕事にしない」


炭焼きは頷いた。


「崩した薪は、戻す者が必要です」


「荷車番を付けます」


エルクが言った。


「力仕事を嫌がる男ではない」


荷車番の男は肩をすくめた。


「薪の良し悪しは分からん」


「分からないままでいい」


薪束の列を見る。


「分かる者が見る。動かせる者が動かす。両方できる者を探している時間はありません」


メイナが薪束確認の欄へ二つの役割を書いた。確認=炭焼き/積み直し=荷車番。その横へ二人確認と小さく足す。


若い吏員がその文字を覗いた。


「一つの欄に、二人ですか」


「一人で終わる仕事に見せると、また一人で済を押します」


メイナの声は昨日より少し硬かった。


「分けて書きます」


広間へ戻る頃には昼の鐘が鳴っていた。


表の空欄は二つ埋まった。倉番、薪束確認。まだ四つ残っている。屋根補修/井戸番/馬飼葉/冬前の配給。


南三村の確認役が門から戻った。


「荷車は戻りました。石運びと麦種袋戻し、両方済みです」


「見張り手間は」


ミリアが聞く。


「取られていません」


門の者が控えを差し出した。訂正線は残っている。村控えと領控えの字も合っていた。


その時、外から濡れた足音が近づいた。


東井戸村の農夫が、桶の縄を肩にかけたまま広間へ入ってくる。袖口まで泥が跳ねていた。


「井戸の底で、縄が一本切れました」


農夫は息を整える前に続けた。


「水はまだ戻っていません。明日まで待つと、もう一人落ちます」


表の上で、井戸番の空欄だけが急に濃く見えた。


筆は取らない。


先に、濡れた縄を見た。

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