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追放された雑用係、敗戦処理の天才だった ~崩壊寸前の辺境領を立て直す~   作者: 山田鰻
第十二章 腐った役所の解体

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試験の控え

「字を写すだけの者は、今日は要りません」


ミリアの声で役所棟の広間が静まった。


机は四つ。門控え・支払控え・貸借控え・村控えを別々に読ませるための席で、多く見せる飾りではない。


広間の外には今の役所の吏員が立ち、その後ろに門の者と村の確認役、商人控えを持ってきた者が並んでいる。全員が役人になりたいわけではないが、今の役所だけに紙を預ければ同じ穴へ落ちる。昨日の棚がそれを証明していた。


「試験は三つです」


メイナが白紙を配り、一枚目の上に内容を書く。控えの違いを見つける・払ってよい金と止める金を分ける・分からないものを分からないと書く。


「三つ目も試験なのか」


門の端にいた男が聞くと、ガレスが鼻を鳴らした。


「分からんものを済にするやつが、いちばん危ない」


広間に小さな笑いが落ち、すぐ消えた。台の上には笑って済ませられない紙が並んでいる。


写しは三組。門別控えは軽荷三枚・濡れ荷四枚・見張り手間一枚。臨時雇人払は南三村の荷車見張り二名/東井戸村の井戸見張り四名/西畑組の馬替え見張り一名で、末尾に支払済とある。村控えは明朝の荷車一、東井戸村は明後日から二人ずつ三日、西畑組は干し草二束先納と馬の再確認。


本物は査察官の前に封じてある。受験者に渡すのは写しだけだ。


「書き方は自由です。文でも表でも構いません。ただし決定済・徴発済・支払済と書くなら、根拠も横に書いてください」


奥の席で主簿が片方の眉を上げた。


「試験というより、取り調べですな」


「取り調べなら答えを先に決めます」


ミリアは引かず、「今日は誰が何を見落とすかを見ます」と続けた。


責められる場ではなく見られる場だと分かった者から、紙へ目を落としていく。


最初に手が動いたのは南三村の確認役だった。字は遅く筆も太い。だが村控えの荷車一の横へ、迷わず印を付けた。


「荷車二名の見張りとありますが、うちはまだ荷車一台も出していません」


「明朝の予定だからか」とエルクが聞く。


「はい。石運びの後です。見張りなら、荷車が出てからです」


隣の若い吏員は先に臨時雇人払へ支払済と写した。早く、字も整っている。


メイナがその紙を見て、何も言わずに戻した。


若い吏員の指が止まる。


「何か不足が」


「試験中です」


短く返され、吏員はまた紙を見た。支払済の横に小さく受取印なしと書き足す。


最初から腐っている者ばかりではなく、早く写す癖を疑う癖が追い越せていない者もいる。ただ、癖だけで済まない紙もあった。


二つ目の机で、門の者が顔を上げる。


「見張り手間は、門で受けた金です」


「誰の指示で」と査察官が聞いた。


「門吏から。商人が払いたければ受けろ、と」


「任意か」


「任意とは聞きました。けれど、払わない荷は後に回せとも」


広間の奥がざわついた。


ルシアが商人控えの束を軽く叩く。


「払わない荷を後に回すなら、それは任意じゃないね」


門の者は唇を噛んだ。


「私は、紙に書けと言われていません」


「では、今書いてください」


ミリアが白紙を差し出す。「見た通りに」


門の者はためらった。主簿の方を見かけて、やめる。筆を取り、短い文を書いた。


払わない荷は後回し。門吏より口頭。


その紙に査察官が確認待ちの印を押す。押されたのはレインの印ではない。王都へ出すための職務印で、役所の中だけでは消せない紙になった。


「次」


メイナが二組目の写しを入れ替える。


今度はわざと一枚を抜いてある。番号は二十七・二十八・三十。前日に見つけた欠け番号だった。


「足りないものを書いてください」


多くの者はすぐに二十九と書いた。そこまではいい。


「では、二十九がない時、三十を使ってよいですか」


広間の手が止まる。


答えは割れた。今の役所の吏員の何人かは破損控え/門の者は分からない/村の確認役は、三十を使うなら二十九の場所を空けて門に貼る、と書いた。


メイナが顔を上げる。「門に貼る理由は」


「村で後から言われます。二十九に何か入っていたのだろう、と」


「誰に」


「取られた方にです」


その答えにガレスが低くうなった。「いい。紙を取られる側の目だ」


若い吏員は二十九欠番・破損控えなし・三十使用不可と書いていた。字は先ほどより乱れたが、内容は整っている。


主簿の顔が少し暗くなった。


「試験としては、誘導が強すぎます」


「誘導ではありません」と査察官が返した。


「欠番をどう扱うかは、王都報告でも基礎です。破損なら破損控え、紛失なら紛失控え。空番なら空番理由。どれもないなら使ってはいけない」


「辺境では、そこまで人手が」


「だから再任用試験をしている」


エルクの声が割り込んだ。言葉は荒いが広間には合っていた。人手がないことを理由に紙を腐らせてきたなら、その席を入れ替えるしかない。


三つ目の試験で、小さな木札を台へ置く。荷車・人足・馬・干し草・井戸、どれも昨日の紙に出た名だ。


「この五つを、払ってよい金と止める金へ分けてください」


「金ではないものがあります」と商人控えを持ってきた女が言った。


「干し草と井戸は金にできません」


「続けて」


「干し草は現物納付の候補で、井戸は作業の理由です。荷車・人足・馬は徴発の対象ですから、払うなら貸借控えが要ります。見張り手間から差し引くものではありません」


ルシアが笑わずに聞いていた。「商売したことある?」


「夫が荷を運んでいました。戻りの銅貨が合わないと、家で分かります」


「それは強いね」


主簿が今度ははっきり口を挟んだ。


「領主代理。家計と役所の会計は違います。素人の感覚で」


「違うからこそ、素人にも分かる穴を残してはいけないのです」


ミリアの返答は早かった。「この試験は、役所の仕事を軽くするためではありません。領民が見ても壊れていない紙にするためです」


広間の外で、誰かが小さく頷いた。


だが試験はそこで終わらない。


メイナが採点用の紙を重ねると、下から薄い写しが一枚滑り出た。


混ぜた覚えのない紙だった。


「これは」


紙の上には支払控えの形式で短く書かれている。


二十九。通行補修手間受領、南三村/東井戸村/西畑組分、代替充当。受取は主簿預かり。


広間の音が消えた。本物ではなく写しだが、書式は昨日の臨時雇人払と同じだった。


「誰が入れましたか」


査察官の声が低くなる。


紙を持つ手はどれも動かない。主簿は初めて席から立った。


「その紙は、正式なものではありません」


「正式でないなら、なぜ番号がある」


エルクが一歩だけ前へ出る。


「写し元はどこですか」


ミリアが聞いた。


メイナの顔色が変わる。採点用の紙束は朝、査察官の前で封じた写しから作った。触れた者は限られている。


閉じたままの貸借棚へ目を移す。


札の下、錠の縁に新しい傷があった。


昨日はなかった傷だ。


「棚を開けた者がいます」


主簿の手が袖の中で動き、鍵が鳴った。エルクが出口をふさぐ。


試験の前半は、合格者を選ぶ場では終わらなかった。


欠けていた二十九が、貸借棚を開ける理由になった。

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