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追放された雑用係、敗戦処理の天才だった ~崩壊寸前の辺境領を立て直す~   作者: 山田鰻
第七章 名もなき雑用係の価値

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止めない配給

白い布袋が二つ・薬草箱が一つ・釘箱が二つ・口の欠けた油壺が一つ。門前に並べると、量の少なさだけが残った。


配給列の人々がそれを見ていた。兵も、鍛冶場の者も、商人も見ていた。


「鍋を止めますか」


メイナが聞いた。


配給鍋の前で、女たちの手が止まりかけている。鍋の中身はまだ半分ほど残っていた。薄い粥だ。薄めてはいないが、濃くもない。


そこへ塩を入れれば、今日の配給は変わる。変わると知れば、もう受け取った者が戻ってくる。戻れば列が崩れ、先に椀を持っていた子どもが押される。


鍋ではなく、列を見た。


「止めません」


「塩は」


「鍋には入れません」


門前が少しざわつき、エルクの眉も動く。


「戻したばかりだぞ」


「はい」


「入れないのか」


「鍋に入れると、今並んでいる人と、もう受け取った人で分かれます」


「なら、最初から配り直せばいい」


「鍋が冷めます」


「冷めたら温めろ」


「薪を使います」


「では、どうする」


ミリアが聞いた。


彼女は塩袋の前に立ち、領民の目を背に受けている。


「塩湯を別にします」


そう告げた。


「鍋は今のまま配ります。受け取った人へ、別椀で塩湯を足します」


「もう受け取った者は」


「木札で戻します」


トマが顔を上げた。


「木札、足りますか」


「古い薪札を使います。半分に割ってください」


「何枚」


配給名簿を見た。今日の列・すでに受け取った数・まだ並んでいる数・病人分・幼児分・門番分・水運び分。


「百二十」


トマが目を丸くした。


「百二十枚を、今からですか」


「全部は書きません。切り込みを一つ入れて、塩湯済の印にします」


「名前は」


「病人分と幼児分だけ名前を入れます」


「二度取りは」


配給鍋の横を指した。


「受け取る時に札を割ります」


トマが少し考え、頷いた。


「できます」


それだけ言うと、薪札の束を取りに走った。


「塩湯、か」


ルシアが言った。


彼女は門柱にもたれて、商人二人と一緒に見ていた。


「商人の売り物としては、あまり景気がよくないね」


「景気のためではありません」


「知ってる」


軽く肩をすくめる仕草が返った。


「でも、いい。荷が戻った日に列を崩さないなら、次の荷も出せる」


「列を見るのですか」


ミリアが聞いた。


「見るよ。荷を入れた途端に奪い合いになる領地には、商人は入りたくない」


その指摘に、門前のざわめきが少し変わった。


ミリアの目が塩袋へ落ちた。


「奪い合いにはしません」


声は大きくないが、門前に通った。


「ただし、全員の粥を濃くすることもできません」


「戻った塩は二袋です。一袋を今日開けます。もう一袋は封をします」


「封をするのか」


列の中から、男の声が上がった。怒っていて、腹が減っている声でもあった。


「はい」


ミリアの視線がそちらへ向いた。


「明日も、明後日も、配給を止めないためです」


「今日食えなきゃ明日もない」


別の者が言う。


「今日食べる分は配ります」


ミリアが答えた。


「今日使い切る分は、配りません」


塩袋の紐を解いた。中の塩は湿りが少なく、商人が持ってきたものとしては悪くない。


メイナが升を出し、ガレスが鍵束と一緒に古い計量匙を持ってきた。


「昔の塩匙じゃ」


彼はそう言って、机に置いた。


木の匙は黒ずみ、柄の端が欠けていた。


「倉の奥に残っていました」


「残しておくものですか」


メイナが聞く。


「塩が足りん時ほど要る」


ガレスが短く答えた。


匙を手に取り、重さを確かめた。軽いが、一杯の量は決まっている。目分量よりずっといい。


「一袋を三つに分けます」


小机に線を引いた。今日の塩湯、病人・幼児、夜間見回り・水運び・道補修。


「兵は」


エルクが聞いた。


「全員ではありません」


「なぜだ」


「全員に回すと、門番と夜番の分が薄くなります」


「兵を選ぶのか」


「持ち場で選びます」


エルクの顔が険しくなる。


「夜番、門番、護衛帰還者、水運び、道補修。汗をかいた者と、倒れると流れが止まる者へ先に回します」


「訓練組は」


「今日は通常粥です」


エルクの目が門の外へ向いた。訓練組の兵が数人こちらを見ている。彼らも空腹で、誰も余っていない。


「俺が言う」


低く繰り返した。


「訓練組には、俺が言う」


「お願いします」


「ただし、ロナとユードには回せ」


「護衛帰還者です」


「ならいい」


バルドが何も言わず、エルクの言葉を兵へ落とすため、訓練組の方へ歩いていく。


「幼児分と病人分は、私が受け持ちます」


ミリアが言った。


「名前を聞きます。家族の分として取りに来た者は、病人か幼児の名を言ってください」


列の女たちが顔を上げた。子を抱いた女・空の椀を二つ持った老女・熱のある夫の分を取りに来たらしい若い娘。全員が少しずつ前へ出ようとする。


「列は崩さないでください」


ミリアが言った。


「名を聞く場所を別にします。粥の列は止めません」


横の木箱を指した。


「病人、幼児の名は、あちらでメイナが控えます。粥を受け取った後に塩湯を渡します」


「先にください」


子を抱いた女が、震える声で言った。


「この子、朝から泣いていて」


ミリアがすぐに近づいた。


「名は」


「ニナです」


「熱は」


女は子の額へ手を当てた。


「少し」


ミリアの目がメイナへ移った。


「幼児、熱あり。先に塩湯を」


口を挟まなかった。


「ニナ。幼児、熱あり。塩湯先渡し」


メイナが書く。


子を抱いた女は何度も頭を下げた。その後ろで男が不満そうに舌打ちした。


「子どもを抱けば先か」


エルクがそちらへ向きかけたが、ミリアの方が早かった。


「違います」


彼女の声が通った。


「熱がある幼児だから先です。子を抱いているだけでは先にしません。病人名、幼児名、状態を聞きます」


男は黙った。


その横で塩湯の釜を用意した。大釜は使わず、小さな鍋を二つ。一つは一般配給の後渡し、一つは病人と幼児用だ。


同じ塩でも、鍋を分け、匙を分け、札を分ける。


「面倒だな」


エルクが言った。


「はい」


「だが、揉めにくい」


「はい」


エルクが少しだけ息を吐いた。


「嫌な面倒だ」


「はい」


そのやり取りを聞いて、ルシアが笑った。


「若様も、だいぶ帳簿の嫌さを覚えてきた」


「嬉しくない」


「嬉しい顔はしていないよ」


「なら黙っていろ」


「はいはい」


黙ったまま、ルシアの目は配給列を追っている。彼女は商人で、塩を売った後、その塩がどう扱われるかを見ている。ここで崩れれば次の荷は減り、回れば増える。その判断が彼女の目の中にあった。


鍋は止まらなかった。粥の椀が渡され、横で塩湯が渡される。もう受け取った者は割り札を持って戻り、札はその場で折る。トマが折った札を籠へ入れ、同じ顔がもう一度来れば籠を見て分かる。


配給鍋の横で薬草箱を開けると、薬草の匂いが粥と塩の匂いに混じった。


薬草商の女が、眉をひそめた。


「湿っていません」


メイナが確認する。


「粉落ち、少し。虫なし」


「半分は兵舎薬箱へ」


レインが告げた。


「半分は診療小箱へ」


「兵舎が先だ」


エルクが言った。


「ユードの頬を洗う。ロナの袖も泥を落とす。護衛に出た兵が後回しでは、次に出ない」


「兵舎に半分は行きます」


「全部では駄目か」


「セムの熱が戻っています」


南門の門番セムは、前に空腹と熱で倒れた兵だ。兵でもあり、病人でもある。


「分けろ」


エルクが続けた。


「ただし、ユードはすぐ洗え」


「はい」


レインが頷くと、エルクがユードを呼んだ。


「顔を出せ」


「この程度なら」


「薬草が戻った日に膿ませるなと言った」


ユードが渋々前へ出た。


薬草商の女が傷を見て、手早く洗い方を教える。兵舎薬箱の者も、診療小箱の者もそれを聞く。同じ薬草を、同じ手順で使うためだ。


「薬草も紙に残すのか」


ルシアが聞いた。


「残します」


「湿りなし、虫なし、粉落ち少し、半分ずつ」


「はい」


「嫌な客だ」


「次も持ってきてください」


ルシアが一瞬だけ笑い、それから薬草商の女を見た。


「聞いた?」


女は小さく頷いた。


「次も湿らせないように包みます」


商談は配給鍋の横で進んでいた。


釘箱を開けると、鍛冶場の若い男が前へ出た。手が黒く、爪の間まで煤が入り込んでいる。


「蝶番を先に」


彼は言った。


「門の?」


「西門と南倉。西門はまだ片側が鳴る。南倉は昨夜直したが、二本足りない」


ガレスが頷いた。


「南倉は足りん。鳴りが残っとる」


「荷車軸は」


レインが聞く。


「一本、鳴りが強い」


若い男は門外の馬車を見た。


「今日戻った馬車です。あれを次に使うなら、先に軸を留め直した方がいい」


「釘は二箱です」


メイナが言った。


「全部は使えません」


若い男は苦い顔をした。


「分かっています」


「優先は」


レインが聞く。


「西門四。南倉二。荷車軸六。桶枠に二」


「桶枠?」


「水運びの桶です。昨日から一本、枠が浮いている。水が減る」


昨日の古井戸道を思い出した。水がこぼれなくなった道も、桶が壊れれば同じことになる。


「桶枠を入れます」


「門より桶か」


エルクが言った。


「門は四本で鳴りを止めます。桶は二本で漏れを止めます」


「荷車軸は」


「六本」


「残りは」


メイナが数える。


「一箱の半分弱」


「封をします」


ガレスが言った。


「使い切ると、次の鳴りを止められん」


鍛冶場の若い男は少し残念そうにした。


一番最後になった油壺は、欠けた口を布で押さえ、薄い板で挟んである。


鍛冶場の者が早く修理したい顔をしていた。夜番の兵も、水運びの女も見ている。


「鍛冶場には回しません」


レインが言うと、鍛冶場の若い男が肩を落とした。


「理由は」


ミリアが聞いた。


「鍛冶場は昼の火を使います。夜に回すと、油で仕事は増えますが、見回りの足元が暗くなります」


「夜番へ」


「はい。古井戸道と南倉の見回りです」


エルクが油壺を見た。


「俺が持つ」


「保管はガレス様です」


「またそれか」


「使用時に若様が受け取ってください。戻した量も書きます」


エルクの顔は不満そうだったが、今回は長く押さなかった。


「分かった」


ガレスが油壺を受け取る。


「割れ口は今塞ぐ。使う量は夜に出す」


「お願いします」


「半分強しかない。強の部分を強く見すぎるな」


その言い方に、何人かが小さく笑った。


配給列はまだ動いている。塩湯の鍋は一度、足りなくなりかけた。


トマが焦って、匙を大きく入れようとする。


「増やさない」


レインが止めた。


「でも、後ろが」


「湯を足します。塩は足しません」


「薄くなります」


「薄いと書きます」


トマが唇を噛んだ。


後ろの列から不満の声が上がる。


「前の方が濃かったのか」


「後ろは薄いのか」


ミリアが前へ出た。


「前半と後半で塩の濃さが変わりました」


門前が静まる。


「理由は、こちらの量の見誤りです。後半分は、明朝の病人、幼児分で調整します。今日の後ろの方の札には印を二つ入れます」


ミリアを見た。


「私の名前で貼ります」


そのまま続けた。


「塩湯後半、薄め。明朝調整」


トマがすぐに書く。手は少し震えていたが、文字は読めた。


「そんなことまで貼るのか」


エルクが低く言った。


「貼らないと、明朝の調整がひいきになります」


ミリアが答える。


列は崩れなかった。


ルシアが小さく息を吐いた。


「今のは高い」


「何がですか」


ミリアが聞く。


「信用」


ルシアの目が門前掲示へ移った。


「失敗を小さく書いて残す領地は、商人にとってありがたい。大きく隠してから揉めるより、ずっと安い」


「安いのですか」


「高くつくけど、見える。見える高値は払える。見えない高値は、商人が逃げる」


ミリアの返事は、すぐには出てこなかった。


配給鍋を見て、塩湯の列を見る。薬草を分ける者・釘を数える鍛冶場の者・油壺を抱えるガレスへと、ミリアの目が動いた。


「では、見えるようにします」


ミリアが告げた。


「ただし、見せるだけで終わらせません」


「それも商人が聞きたい言葉だね」


ルシアが笑った。


「次の荷は、一・五倍でいけるかもしれない」


「まだ条件を見てからです」


レインが言うと、ルシアが肩をすくめた。


「言うと思った」


夕方までに、配給は終わった。遅れたが、止まらなかった。


塩湯は途中で薄くなったが、その失敗も貼った。薬草は二つに分け、釘は使う分と残す分に分けた。油はガレスの鍵で封をし、鍛冶場には釘だけが行って油は行かなかった。訓練組の兵には塩湯が回らなかった。


エルクがその説明を兵の前で自分で言った。不満は出たが、兵は列を崩さなかった。


夜番の名札にも、水運びの女たちの名札にも、塩湯済の印が入った。


ロナとユードが薬草で傷を洗い、すぐに休むよう命じられた。休むことも命令になり、それをエルクが言った。


門前の紙を最後に確認した。試験荷は帰還、配給は停止なし。塩は一袋開封、一袋は封。塩湯後半は薄め、明朝調整。薬草は兵舎半分・診療小箱半分。釘は西門・南倉・荷車軸・桶枠へ。油は夜間見回り用でガレス保管、エルク使用時受領。支払いは全額済。


「今日は勝ちですか」


トマが聞いた。


声には疲れがあった。朝から札を割って印を入れ、貼り替えに走り回っていた。


「大勝ちではありません」


「塩湯を薄くしました」


「でも、止まりませんでした」


トマの目が門前の列が消えた場所へ向いた。


「止まりませんでした」


小さく頷いた。


「なら、小さい勝ちでいいですか」


トマの問いに、レインが少し考えた。


「明朝、後半の人へ調整できたら」


「厳しい」


トマが小さく笑った。疲れた笑いだったが、それでも笑えた。


ミリアが小机へ戻ってきた。外套の袖に塩湯のしみがついている。領主代理の袖としてはひどい汚れ方だったが、彼女はそれを気にしていない。


「レイン」


「はい」


「今日の配分を、三日分に直してください」


「三日分ですか」


「はい。今日の失敗も入れて」


ミリアの目が門前掲示へ向いた。


「明日だけで直すと、また別のところが薄くなります。三日で戻す形にしてください」


新台帳を開いた。


「分かりました」


新しい欄を作った。三日配給――病人・幼児、夜番・水運び・補修、一般配給、調整分。残りは、塩封残・薬草残・釘残・油残。


その下に次走条件の欄をもう一つ作る。


ルシアが机を覗き込む。


「もう商談に戻るのか」


「配給が変わったので」


「荷が戻ると、仕事が増えるね」


「はい」


「いいことだ」


ルシアが笑った。


「止まっている領地には、仕事も増えない」


夕暮れの西門で、塩袋の残りと釘箱が封をされた。薬草箱は二つの小箱へ分かれ、油壺は欠けた口を塞がれてガレスの鍵の下へ入った。


配給鍋は空になっている。焦げつきはあるが、底は見える。


最後に台帳へ「配給、停止なし」と書き付け、その下へ次の行を置いた。暫定再建計画、作成。

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