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追放された雑用係、敗戦処理の天才だった ~崩壊寸前の辺境領を立て直す~   作者: 山田鰻
第二十二章 王都召還

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王都へ着く

王都南門の石畳は、雨上がりでも泥を残していなかった。


馬車の車輪が高い音を立てる。ハルヴェインから来た車は一台だけだ。幌の中には衣装箱より小さい封じ箱が二つ、ミリアの印箱、旅用の帳面。戦場を越えて来た荷にしては少ない。少ないからこそ、門番の目がそこへ寄った。


「ハルヴェイン領、召還命令による出頭です」


御者台の横に立った領兵が紙筒を差し出す。門番は封を見て、こちらではなく背後の小屋へ視線を送った。凱旋の門ではない。功績を迎える鐘もない。けれど罪人を入れる裏口でもなかった。


その半端さが、命令文と同じだった。


「領主代理ミリア・ハルヴェイン様、実務担当レイン・アストラ殿。降車は不要。南門内の控え道を進んでください」


声だけは丁寧だ。槍先は下がっている。だが左右の柵は、荷車一台分だけ広く開けられていた。人を迎える幅ではない。荷を検める幅だ。


ミリアが薄い手袋の上から印箱を押さえた。


「歓迎の列ではありませんね」


「歓迎なら、先に人を見ます」


「今は荷を見ていますか」


「はい」


封じ箱の札は、こちらから見える向きにしてある。誘引資材の封じ写し・押印写し・商人控え写し・片隅の受領印写し・戦後処理板の写し。原本は領に残した。出立前、王都用の写しは戦後処理板の写し一箱と、残る四種一箱に分け直した。王都へ持ち込むのは、写しと封じ順だけだ。


門内へ入ると、右側に荷待ちの列があった。小麦袋を載せた商人車、干し肉の箱を積んだ馬車、空の樽を積んだ荷台。そのさらに奥に、軍用の札を下げた二台が止まっている。


おかしいのは、止まる順番だった。


民の小麦車は車軸を検められている。干し肉の箱は封を開けられている。だが軍用札の二台は、荷台を見せずに南倉側へ通された。車輪跡は浅い。重い荷を積んだ跡ではない。


記録板だけが重い。


門小屋の横に掛かった板には、軍用二台、搬入済みとある。積み荷欄は布・油・革紐。全部、ハルヴェインで足りなかった物だ。


追うな。


胸の中で一度だけ線を引く。ここで門番へ聞けば、こちらの目が何を拾ったか先に知られる。王都は広い。どこで何が動いているか、まだ分からない。


門番の机には、通行札を置く皿が三つあった。民用・商用・軍用。軍用の皿だけが減っていない。札は出ているのに、皿へ残る数が多い。実際の車より、紙の上の車が多い形だ。


これも書かない。書けば、門の皿を見た者として記録される。


「どうしました」


「車輪跡が軽いだけです」


ミリアの目が一度だけ板へ動いた。すぐ戻る。聞き返さない。領主代理として同じものを見ても、ここでは口にしない判断ができる。


門内の控え道は、王都の大通りへ出る前に細く折れていた。両側に白い壁が続く。民の目から外し、官の目からは外さない道だ。道の端には青い札を付けた宿係が待っている。


「ご宿泊は南官宿の三番棟です。王城内ではございません」


「官宿ですか」


「召還者用です」


その言い方にも、勝った者を泊める響きはない。捕らえた者を閉じる硬さもない。南官宿なら出入りはできる。だがどこへ行ったか記録は残る。


宿係が幌の後ろへ回った。


「荷は検めますか」


「封じ箱は出頭時にお預かりする決まりです」


「原本ではありません。写しです」


「では写し箱を一つ、宿帳へ記載いたします」


「二つです」


宿係の筆が止まりかける。封じ箱二つ、と書く欄が足りないらしい。横の余白へ細く書き足した。王都の紙は立派だが、余白は狭い。必要なものを増やす場所が少ない。


南官宿の三番棟は、大通りの華やかさから半歩だけ外れた場所にあった。窓は大きい。寝台は広い。扉の外には呼鈴がある。監視の兵はいない。


代わりに、帳場の筆が多すぎた。


入室時刻・同行者・箱数・出入り予定・馬の預け先・持ち込み紙の種類。宿というより、動いたものの控えを作る場所だ。


鍵も一つではない。部屋鍵・外門札・馬屋札。外へ出るには帳場で外門札を受け、戻る時に返す。閉じ込める仕組みではないが、出入りは必ず紙に残る。


「外出制限は」


「ございません。夜半のみ門を閉めます」


自由に見える。けれど自由なものほど、どこを通ったか後で拾いやすい。王都のもてなしは、紐をゆるく見せるのがうまい。


「領兵は二人まで同宿可。残りは馬屋横の控えへ」


「二人で足ります」


ミリアが答える。王都へ連れて来た護衛は最小だ。領に人を残す方を選んだ結果だった。エルクは南門と道倉の間に残っている。ガレスとメイナは原本の箱を守り、ルシアは商人の線を先に流している。


王都へ来たのは、領の手が増えたからではない。紙だけが移動できるからだ。


部屋に入ると、窓から大通りが見えた。石造りの店、色つきの幌、白い馬車。華やかに見える。だが荷は流れていない。人だけが流れている。


「王都は変わりましたか」


ミリアの問いに、すぐ答えを出さない。レインが知っていた王都は、補給官見習いとして倉の裏を走っていた頃の王都だ。門前の札、倉の順番、商人車の待つ場所。表の飾りより裏の詰まりで覚えている。


「飾りは増えました」


「ほかは」


「荷の詰まり方が変です。けれど、まだ書きません」


「理由は」


「ここで書くと、こちらが何を見ているか宿帳に残ります」


ミリアが窓から離れた。


「では、見たものだけ覚えます」


「はい。南門、軍用札二台、軽い車輪跡。布・油・革紐、搬入済み」


声に出すのは一度だけ。帳面には書かない。封じ箱の横へ置いた旅用帳面は白いままにしておく。白い紙も、ときには持参物になる。


「白いままでよいのですか」


「はい。今日の紙は、まだ相手の紙です」


「こちらの紙にするのは」


「相手の癖が三つ並んでからです」


南門の軍用札。宿帳の余白。外門札の出入り控え。三つはまだ同じ線ではない。だが同じ王都の中で、荷と人の扱いが少しずつずれている。


夕刻、宿係が細い紙を持って来た。


「明朝、召還受付所へ出頭ください。封じ写しの持参を求めます。全てではなく、指定分のみ」


「指定分は」


「明朝、受付所で申し渡します」


紙はそれだけだった。


何を知っているのか分からない。何を知らないのかも分からない。


窓の外では、軍用札を下げた空に近い車がもう一台、南倉の方へ曲がっていった。


その車にも布の札が揺れていた。荷台は軽い。夕日だけが、空の板に赤く乗っている。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


少しずつ読んでくださる方が増えていて、とても励みになっています。

リアクションやブックマークも本当にありがたいです。


もし続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回も楽しんでいただけるよう頑張ります。

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