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追放された雑用係、敗戦処理の天才だった ~崩壊寸前の辺境領を立て直す~   作者: 山田鰻
第三章 崩壊寸前の辺境領

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王都からの厄介者

「王都からの支援要員の方ですね」


若い女は、息を整えるより先に荷台を見た。


薬箱。


釘箱。


麦袋。


塩樽。


荷の少なさを数える目だった。


それから、レインへ向き直る。


「ミリア・ハルヴェインです。領主館の実務を預かっています」


淡い栗色の髪を後ろで結び、袖口にはインクの跡がある。飾りで役所に出入りしている手ではない。紙に触り、荷札に触り、たぶん人の苦情にも触れている手だ。


「レイン・アストラです。王国軍第三兵站隊から、支援要員として参りました」


第三兵站隊。


そう言った瞬間、彼女の後ろにいた男の目が鋭くなった。


二十代半ば。鎧を身につけ、腰に剣を佩いている。肩幅があり、足の置き方に無駄が少ない。


ただの飾りではない。


剣を使う者の足だ。


「王都軍の人間か」


男は低く言った。


「兄上」


ミリアが止める。


「エルク・ハルヴェインだ」


男は名乗ったが、歓迎の形ではなかった。


「王都から来た者は、いつも紙だけは立派だ。荷は三台。口は何台分だ?」


護衛兵が身じろぎした。


レインは頭を下げた。


「口数を減らすことはできます。荷は増えません」


エルクの眉が動いた。


「皮肉か」


「現状です」


「王都の厄介者らしい返しだな」


王都の厄介者。


その扱いは、早い方がいい。


ミリアは二人の間へ一歩入った。


「長旅の後です。まず領主館へ。父は病床ですが、支援要員の方には正式に」


「その前に、井戸、倉庫、厩舎を見せてください」


言葉が終わる前に、エルクの顔が険しくなった。


「着いて早々、領主への挨拶を飛ばす気か」


「挨拶で水は増えません」


「無礼だぞ」


「無礼は認めます。ですが、薬箱が二つしかありません。兵舎に熱のある者がいるなら、薬箱の置き場を先に決める必要があります」


ミリアの視線が門番へ向いた。


門番は、わずかに目を伏せた。


門番の沈黙で、彼女は察したらしい。


「熱のある兵がいるのですね」


門番はうなずいた。


「三人。昨日から」


「昨日から、なぜ」


ミリアの声は強くならなかった。


強くならない分、門番は余計に縮こまった。


「薬が、兵舎になく」


エルクが唇を結んだ。


レインは荷台から薬箱を一つ降ろした。


「開封は兵舎で。濡らさない。熱のある者から」


「お前が決めるな」


エルクが言う。


「では、エルク様が決めてください」


「何?」


「薬箱を領主館へ運び、印を受けてから兵舎へ戻すか。今、兵舎で開けるか」


エルクは薬箱を見た。


次に門番を見た。


最後に、ミリアを見る。


ミリアは小さくうなずいた。


「兵舎へ」


エルクは短く言った。


命令を受けた門番が薬箱を抱え、走った。


レインの指示ではなく、エルクの命令で薬箱が動いた。


「井戸、倉庫、厩舎と言いましたね」


ミリアが言った。


「はい」


「なぜ、その三つを」


「門は半分しか開きませんでした。道中の宿場の井戸は死んでいました。支援物資は少なく、塩も足りない気配があります。まず、水、食料、運ぶ力を見ます」


「領主館の会計台帳ではなく?」


「台帳は後で見ます」


エルクが鼻で笑った。


「補給記録係なのに、帳簿を後回しにするのか」


「帳簿だけ先に見ると、帳簿に合わせて現物を見てしまいます」


エルクは言い返さなかった。


完全に納得した顔ではない。


だが、反論の順番を失った顔だった。


ミリアは少しだけ考えた。


「分かりました。ただし、領主館へ一度来てください。父への正式な挨拶は後にできますが、あなたの扱いを決めなければ、役所が動きません」


「扱いは、雑務補佐です」


「王都の紙では、そうでしょう」


ミリアははじめて、少しだけ苦い表情をした。


「この領でどう扱うかは、こちらが決めます」


エルクが妹を見た。


「ミリア」


「兄上。警戒はしてください。ですが、薬箱は今動きました」


「薬箱一つで信用するのか」


「信用ではありません。確認を続けます」


「倉庫は、倉庫番に開けてもらいます」


ミリアは門の奥へ視線を向けた。


「先ほど鍵を受け取ったのですね」


門番がうなずく。


「では、倉庫で待つよう伝えてください」


エルクが嫌そうな顔をした。


「あの爺を最初から使うのか」


「倉庫を見るなら、兄上より倉庫番です」


「俺より、か」


「はい」


はっきり言った。


エルクは一瞬だけ傷ついた顔をしたが、すぐに顔を戻した。


「井戸は」


「兵舎裏と領主館裏にあります」


ミリアが答える。


「厩舎は」


「東側です。馬は少ないですが」


少ない。


その言葉を、レインは拾った。


見栄を張る領なら、まず「足りています」と言う。ミリアは言わなかった。エルクも否定しなかった。痛い数字を隠しきれていないだけかもしれないが、隠しきれていないなら、まだ入口はある。


「では、順番を変えます。兵舎の薬箱を確認した後、厩舎。倉庫。最後に井戸」


「井戸が最後?」


エルクが聞く。


「今すぐ死ぬ水なら、門前で匂います。先に、運ぶ力を見ます。馬がなければ、倉庫から出す物も動きません」


ミリアはうなずいた。


「案内します」


エルクはまだ不満そうだった。


だが、先に歩き出したのは彼だった。


次は、その少ない荷を受け止める領地の腹を見る番だった。

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