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追放された雑用係、敗戦処理の天才だった ~崩壊寸前の辺境領を立て直す~   作者: 山田鰻
第三章 崩壊寸前の辺境領

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崩れた城門

門は、半分しか開かなかった。


レインは荷馬車を降り、右側の扉の下へ目を落とした。泥を噛んだ蝶番が、開ききる前に止まっている。門番が二人がかりで押しているが、木の腹が石畳を擦っていた。


領境で書いた通りだった。


まずは、門が開くかどうかを見る。


答えは、半分。


「押せば開く」


門番の一人が言った。


痩せた男だった。鎧の肩当ては片方だけ磨かれている。もう片方は曇り、革紐は別の装備から取ったものを結び直していた。


「押す前に下の木片を抜いてください」


「木片?」


「右下に噛ませてあります。雨を吸って膨らんでいる」


門番は不審そうにしゃがんだ。


指を入れると、黒く湿った木片が出てきた。


押していたもう一人が、気まずそうに目をそらす。


「昨日、閉まらなくてな」


「閉めるために噛ませた木が、今日は開ける邪魔をしています」


責めるつもりはなかった。


だが、門番の顔はさらに硬くなる。


レインは荷台を振り返った。


「釘箱を一つ、門番詰所へ。全部ではありません。三分の一です」


「勝手に荷を分けるな」


護衛兵が低く言った。


「支援物資です。門が閉まらなければ、薬箱も倉庫も守れません」


護衛兵は言い返しかけ、城門を見た。


半分しか開かない門。


その前に立つ痩せた門番。


そして荷馬車三台。


現物は、説明より早かった。


「三分の一だけだ」


彼はそう言って、釘箱の蓋を押さえた。


門前に商人の列はなかった。


税の順番を待つ荷車も、旅人が宿を探す声もない。城壁の外には古い轍だけが残り、最近通った荷馬車はレインたちの三台を除けば二筋ほどしか見えない。


静かすぎる。


領都の門前で流れがないのは、物と人と銭が止まっているということだ。


城壁は低いが、作りそのものは悪くない。北側の角には焦げ跡があり、石の継ぎ目から草が出ている。旗は色あせ、端が裂けていた。


それでも旗は落ちていない。


誰かが上げ直している。


レインはそこだけを覚えた。


門の内側には、小さな詰所があった。


扉は閉まらず、革紐で柱に結ばれている。中の壁には当番表が掛かっていたが、日付が二日古い。消し忘れではない。次の当番を書く手が止まっている。机の上には割れた砂時計と、底の欠けた杯が一つ。


見張りが怠けているのではない。


見張りを回す仕組みが薄くなっている。


門番二人のうち、片方は槍を持つ手が少し震えていた。空腹か、寝不足か、熱か。どれか一つなら持つ。二つ重なれば、門の前で倒れる。


「王国軍からの支援便か」


門番が荷台を覗き込んだ。


薬箱二つ、釘箱三つ、革紐、補修布、麦袋十、塩樽一、乾パンの小袋。


見た瞬間、門番の肩が少し落ちた。


期待していた量ではないのだろう。


「荷は三台だけです」


レインは先に言った。


「薬箱はどこへ運びますか」


「まず領主館で印を」


「熱のある負傷者はいますか」


門番は答えに詰まった。


いる。


その顔だった。


「なら、薬箱は領主館へ運ぶ前に兵舎で確認してください。印はあとです」


「そういう手順では」


「手順で熱は下がりません」


門番二人は互いに顔を見合わせた。


片方が門の内側へ走る。


もう片方は、レインを王都から来た面倒な人間として見始めていた。


その視線は予想通りだった。


王都の紙を持ち、王都の荷札をつけて来た者が、着いて早々手順を変えようとしている。歓迎される理由は少ない。


歓迎が薄いなら、それでいい。


レインは城門の内側を見た。


石畳の一部が沈み、雨水が細く溜まっている。馬車が通るたびに、水が左右へ跳ねる。その先の水路は詰まり、藁くずと泥でふさがっていた。


水路の詰まりは門の問題だけではない。


雨が強ければ、門前が泥になる。泥になれば車輪が沈む。車輪が沈めば、荷が遅れる。荷が遅れれば、薬も塩も届かない。


門前だけで、もう三つの手当てが見えた。


蝶番。


水路。


見張りの当番。


どれも大きな改革ではない。だが、放置すれば次の荷馬車を止める。


止まれば、薬箱も止まる。


門。


井戸。


倉庫。


記録冊子に書いた順番は、まだ変えなくていい。


「領主館から人を呼びに行きました」


門番が戻ってきて言った。


「それまで、荷は門前で待機です」


「門を半分開けたままですか」


「閉めると、また開かなくなる」


正直な答えだった。


「なら、荷馬車は一台ずつ中へ。門の下で止めない。薬箱を積んだ車から」


「誰が許可を」


「門が許可していません」


門番は顔をしかめたが、馬車を通した。


門の内側、詰所の奥に低い倉庫が建っていた。


屋根の端は沈み、扉の下には古い木片が噛ませてある。倉庫の前には、灰色の髪の老人が一人立っていた。背は高くない。だが、荷台を見る目だけは門番より遅く、細かい。


「倉庫の鍵を」


門番が声をかけた。


老人は返事をしなかった。


腰の鍵束へ手を伸ばし、すぐには外さない。レインの顔、荷札、薬箱、釘箱を順に見てから、ようやく一本だけ外して門番へ渡した。


怠けている遅さではない。


何をどこへ入れるか、自分の目で量ってから渡す手だった。


城門脇の倉庫番。


顔だけを覚えた。


一台目が石畳を越える時、右の車輪が小さく跳ねた。沈んだ石だ。次に重い荷を通せば、そこで軸を痛める。


レインはその位置を目で測った。


半分しか開かない門。


痩せた兵。


商人のいない門前。


少ない支援物資。


そして、まだ落ちていない旗。


この領地は、壊れたまま動いている。


門の内側から、若い女の声がした。


「王都からの支援要員の方ですね」


レインは振り向いた。


次に見るべきものが、歩いてきた。

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