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追放された雑用係、敗戦処理の天才だった ~崩壊寸前の辺境領を立て直す~   作者: 山田鰻
第二十章 ハルヴェイン攻防戦

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補給を断つ

「補給をどこで断つ」


エルクの問いは、剣の場所ではなく荷の場所を指していた。


本館前の板には、第一波の記録が残っている。一台目は荷軽し。二台目は遅れ。歩兵は橋前と車前で二分。矢を使わず継続。魔物影の一行は、板の端へ寄せてある。今は意味を決めない。見えたものだけを置く。


北道の細い線を指で押さえた。


「ここではありません」


「橋では断たないのか」


「橋で断つと、向こうは後ろへ戻ります」


「戻らせない方がいい」


「はい。前へ出したまま、届かなくします」


敵の一台目は軽い。先に見せる車なら、荷は少なくていい。だが、歩兵三十を動かすには水がいる。矢がいる。替えの車軸もいる。軽い車一台では足りない。


二台目はまだ見えない。


見えないものを探すより、届くはずの場所を狭くする。


「こちらの補給を先に分けます」


メイナが新しい札を三つ置いた。南門・本館前・道倉。昨日と同じ名でも札の中身は少し変わっている。


南門には半食と火前・布・湯。本館前には医箱と空車・負傷兵用の水。道倉には乾き縄・矢束・粉麦・車軸。


「矢束は本館前ではないのか」とエルクが聞く。


「撃つ場所に置くと、撃ちたくなります」


「撃たないために遠ざける」


「必要になれば、札で呼びます」


矢はまだ温存する。矢を撃てば敵の足は止まるかもしれない。だが南門の民も動く。火前の列が乱れれば本館前の戻り車も乱れる。


こちらの補給は、勝つために前へ積まない。崩れないために後ろで切り分ける。


ガレスが道倉の札を見た。「粉麦は南へ寄せろ」


「南門ですか」


「いや、南門の手前だ。門の中まで入れるな。袋を見たら民が寄る」


「半袋ずつ出します」


「袋の口は縛れ。見える白は人を動かす」


白い粉は旗より強い時がある。腹が減った者には袋の口だけで列が崩れる。粉麦の札を南門手前へ移した。


「本館前の水は」


「桶三つだけ。残りは井戸から出しません」


「井戸は渡さない」


「はい。ですが、こちらも使いすぎない」


使えるものを見せすぎれば、敵にも民にも場所が知られる。水は助ける。水は人を寄せる。寄せすぎれば、道を塞ぐ。


メイナが本館前札へ書く。桶三・医箱二・空車二。負傷兵は石段右。


「石段右?」エルクが本館の前を見た。


「左は戻り車。右は負傷兵。真ん中を空けます」


「真ん中を空けるのか」


「敵が来ても味方が戻っても真ん中が詰まれば終わります」


本館前は守る場所ではなく、通す場所だ。そこで人を寝かせれば、助けたつもりで次を殺す。負傷兵は石段右。泣く子と老人は南門の座り場。車は左。真ん中は空ける。


「では、敵の補給は」とエルクの指が橋の向こうへ伸びた。


「二台目を探します」


「探すだけか」


「見つけたら、通れる道を一つ残します」


「残す?」


「全部を塞ぐと、荷を捨てて人だけ来ます。水と矢を持ったまま迷わせます」


道は三つある。橋を通る北道/畑跡から回る細い踏み道/林沿いの古い搬入道。古い搬入道はいまは荷車には向かない。だが軽い荷なら運べる。二台目が消えたならそちらへ回した可能性がある。


「林沿いへ兵を出すか」


「出しません」


「なぜ」


「魔物影がありました。兵を薄く出せば、そちらを守るために本館前が薄くなります」


「なら、どう見る」


「戻りの目を使います」


南門から本館前へ戻る空車はただ戻すだけではない。車輪の泥・車引きの息・荷台の揺れを見る。北道と南門の間を動く者は敵の後ろへは行けない。だが回り道から出る煙や音は拾える。


ルシアの紙が届いた。


南の小商いは油を売らず。敵側の買い声は油と水袋に寄る。値は上げず、数だけ控える。


「油?」エルクが顔を上げる。


「車軸と火です」


「火を使うのか」


「使うかもしれません。使わなくても、ほしいと言えば足りていないものが見えます」


敵が水と油を欲しがっている。なら、前へ出た歩兵は長くは立てない。矢を撃つ前に、喉と車軸が先に鳴る。


「敵に油を売る商人がいるのか」


「今は売らせません」


「捕まえるか」


「捕まえれば、別の者が隠します。今日は数だけ控えます」


ルシアの紙は、いつも人を名で追わない。銀と数で追う。誰が買ったかより、何が足りないか。いま必要なのはそちらだった。


板の右へ新しい枠を作った。敵補給は水袋・油・車軸・矢束。


「これを断つ」とエルクが言った。


「奪うのではなく、前へ届かなくします」


「届かなければ同じだ」


「奪えば取り返しに来ます。届かなければ、前の兵が待ちます」


待つ兵は腹と喉で弱くなる。命令が強くても足は動かない。第一波はすでに三つに割れている。補給がそこへ届かなければ三つの列は互いに待つ。


「偵察戻り」外から声が上がった。


泥のついた兵が道倉側から入ってきた。肩で息をしている。橋の正面ではない。林沿いを回った足だ。


「古い搬入道、車輪跡あり」エルクの目が細くなる。


「二台目か」


「跡は一台。軽くありません。深いです。荷はあると思います」


「どこへ向かう」


「林沿いから畑跡の裏へ。ですが、途中で止まっています」


「なぜ」


「倒木です。昨夜の風で落ちた枝ではありません。幹が道へ置かれています」


本館前の板の前で、誰かが息を整える音がした。置かれた幹。偶然なら助かる。だが、助かったからといって味方のものにはならない。


「こちらの仕掛けではないな」とガレスが言った。


「違います」


「敵の荷も止まっている」


「はい」


「なら、触るな」


古参の声は短かった。


「なぜ」とエルクが聞く。


「誰の幹か分からねえ。触れば、こっちの手形が付く」


小さく頷いた。助けになるものほどすぐ使いたくなる。だが由来の分からない障害物はあとで道の責任になる。いま必要なのは幹を動かすことではない。幹で止まった荷がどう動くかを見ることだ。


「偵察を二人戻します。幹には触れない。荷車の向きだけ見る」


「向き」


「前へ押しているのか、後ろへ返しているのか」


エルクは少し考えた。


「前へ押しているなら、まだ届けたい」


「はい」


「後ろへ返しているなら」


「第一波を捨てるか、別の道を探します」


「どちらも嫌だな」


「だからまだ決めません」


メイナが板へ書く。古い搬入道に荷車一。倒木で停止。幹には触れない。向き確認。敵の応手は未定。


「未定ばかりだ」とエルクが言った。


「未定を埋めるために兵を出すと、確定した損が増えます」


「待つのも損だ」


「はい。だから、待つ場所を選びます」


本館前では空車二台が左へ寄せられていた。石段右には医箱が二つ。南門へ向かう道では粉麦の半袋が布で包まれている。道倉では乾き縄が一束だけ出た。どれも多くない。多く出せば多く守ることになる。


補給を断つとは、敵の荷を奪うことだけではない。


こちらの荷を、余計に前へ出さないことでもある。


夕方前、林沿いへ出した偵察が一人だけ戻った。


「一人は」エルクの声が低くなる。


「奥で見ています。荷車は前へ押しています。倒木を越えられず、荷を下ろし始めました」


「何の荷だ」


「水袋らしきもの。油壺らしきもの。矢束は見えません」


「らしきもの」


「近づけませんでした」


「よく戻った」とエルクが短く言った。


板の未定の下に、線を一本引いた。


水袋と油壺は荷下ろし。矢束は不明。搬入道の先、敵の応手不明。


矢束が見えない。


その一つが、板の上で重く残った。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


少しずつ読んでくださる方が増えていて、とても励みになっています。

リアクションやブックマークも本当にありがたいです。


もし続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回も楽しんでいただけるよう頑張ります。

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