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追放された雑用係、敗戦処理の天才だった ~崩壊寸前の辺境領を立て直す~   作者: 山田鰻
第十九章 損耗を押しつける戦い方

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匂い袋

捕虜の荷物は三つに分けて置かれた。


食えるもの/使えるもの/触る前に見るもの。


名前は聞かず持ち場もまだ書かず、先に荷を見る。人から入れば言い逃れになり、荷から入れば紙に残せる。


メイナが布を一枚ずつ開いた。


乾いたパン/折れた針/短い縄/黒ずんだ布包み。


そこでガレスが手を止めた。


「開けるな」


メイナの指が布から離れた。


「匂いがある」


布包みは小さい。掌に収まるほどの大きさだった。外側は油を塗った革で、紐で強く縛ってある。普通の荷なら濡れないようにするための包み方だ。だがこれは濡らさないためだけではない。中のものを外へ漏らさないための包み方だった。


「外へ」


ガレスが言う。


倉の風下へ持っていき、火のそば・井戸・粉麦の袋から離す。


「そんなに悪いのか」


エルクが聞いた。


「悪いだけならまだいい」


ガレスは革の端をナイフで少しだけ切った。


先に出たのは鉄に似た匂いだった。


血。


布の内側に黒く乾いた染みがある。新しい血ではなく、乾かしてまた濡らしたような跡だった。


メイナが別紙へ書く。血の染み/乾きあり/再湿りあり。


次に出たのは脂の腐った匂いだった。小さな肉片だが獣か人かは書かない。ここで決める必要はなく、腐らせてあることだけが要る。


腐肉。


ガレスが顔をしかめずに見た。


「食うためではない」


「腐らせたのですか」


「腐ったものを持ったのではない。持つために腐らせた」


メイナの筆が止まりかけてすぐに動いた。


腐肉/食用でなし/保持のため油革包み。


最後に細い袋が出た。


中は粉ではなく乾いた草と砕いた何か。甘いようですぐ鼻の奥を刺す。血と腐肉の匂いを隠すのではなく別の匂いへ重ねている。


「これは」


ルシアから来ていた商人控えを開く。香料でも薬でもない。商人の荷札にはない混ぜ方だった。


「売り物ではありません」


メイナが書いた。特殊な匂い袋/商人荷札なし/中身不明。


ガレスが袋を遠ざけた。


「これは自然のものではない」


その言葉を誰も大きく受けなかった。メイナは筆を動かし、本体兵の視線も捕虜ではなく三つの現物へ戻った。


「魔物が寄る匂いがする」


短い声だった。


板の上で三つの行が並ぶ。血/腐肉/特殊な匂い袋。


「魔物用か」


エルクの声が低い。


「断定しません」


「だが寄る匂いだと」


「ガレスがそう見ました」


ガレスが袋の口を縛り直す。


「見たのではない。嗅いだ」


「控えには匂い確認と書きます」


「それでいい」


捕虜は縄の向こうで座っている。誰も顔を見ず、壺と控えへ目を戻した。


「誰が持たせた」


本体兵が言った。


「今は聞きません」


「聞かないのか」


「聞く前に物を封じます」


問いを先に増やせば答えが増える。答えが増えれば欲しいものだけを拾いたくなる。今必要なのは三つの物が同じ包みに入っていたことだ。


メイナが封じ紙を出した。


一・血染み布/二・腐肉片/三・匂い袋。捕虜荷物より発見/包みは油革/紐は二重/井戸・粉麦・火前から離して保管。


「火前から離すのか」


「匂いを燃やすと広がるかもしれません」


ガレスが答えた。


「水に入れるな。土にも埋めるな。革ごと壺へ入れろ」


「壺は」


「割れてもいい壺だ」


補給倉の奥から欠けた壺を出す。水には使えないが匂いを閉じるには使える。壺の底へ灰を少し入れ、革包みを置く。上から板をかぶせ、縄で縛る。


「敵側がこの匂いを使っていたなら」


エルクが言いかけて途中で止めた。


「なら何だ」


ガレスが促す。


「魔物が来る場所を選べるかもしれない」


「かもしれない」


その言葉だけを拾った。


板へ書く。魔物が寄る可能性/場所は未定/使った者は未定。


「未定ばかりだな」


エルクが言う。


「未定のまま封じます」


「決めたい」


「決めれば間違えた時に戻せません」


「分かっている」


それでもエルクの手は剣の柄へ寄っていた。すぐに離した。


「聞く。これを見つけた後に俺は何を斬らない」


「捕虜です」


「だろうな」


「荷の出所を切らないためです」


「斬れば出所が止まる」


「はい」


エルクが縄の向こうを見た。


「なら聞く順番を出せ」


メイナが新しい紙を置いた。


質問は三つだけ。どこで受け取ったか/何に使うと言われたか/誰へ渡す予定だったか。


「誰がではないのか」


「誰から聞くと、名前を作ります。どこからなら、道が残ります」


「道から追う」


「はい」


血・腐肉・匂い袋は壺の中で動かない。けれど板の上では道になった。


橋/井戸/補給倉。


そこへ別の道が重なる。


魔物が来る道。


まだ誰の道かは書かない。ただ自然に落ちていたものではない。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


少しずつ読んでくださる方が増えていて、とても励みになっています。

リアクションやブックマークも本当にありがたいです。


もし続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回も楽しんでいただけるよう頑張ります。

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