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追放された雑用係、敗戦処理の天才だった ~崩壊寸前の辺境領を立て直す~   作者: 山田鰻
第十九章 損耗を押しつける戦い方

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同じ折り目の出所

壺を封じた後に板の端に残った紙をもう一度並べた。


早すぎる鈴の紙/北から来た南の紙/車中央寄せの紙。


どれも字も泥も持ってきた者も違う。だが折り目は似ている。二つ折りの位置が浅く、端が少しだけずれている。


メイナが紙の端へ細い糸を当てた。


「同じ幅です」


「偶然では」


本体兵が言う。


「偶然でも控えます」


紙は命令そのものではなく命令に見せるための形だ。怖い言葉を先に置き、次に車か槍を動かし、最後に戻る口を詰まらせる。


同じ順番/同じ折り目/同じ急がせ方。


ルシアからの返しが届いた。商人控えと古書商経由で写された古い書式の断片。個人名はなく印の形だけが写してある。


「名前は」


エルクが聞く。


「まだありません」


メイナが写しを板へ置く。


王都便で使われた古い補助印。兵站ではなく会計側の紙につく印で、今は使う場所が限られている。


「会計側」


エルクが顔を上げる。


「王都の紙か」


「王都の紙に似ています」


断定しない。だが橋や井戸の話とは違う線が板へ入った。敵側の足だけではない。こちらの車の動かし方を知る者が王都の紙の形を使っている。


ガレスが補助印の写しを見た。


「前にも見た」


「どこで」


「役所の棚だ。黒塗りの宛名の横に、似た補助印があった」


役所の棚を開けた時の細部は脇へ置く。照合に要るのは、同じ形が前にも紙の上にあったという一点だ。


メイナが別紙を出す。


棚控え照合/補助印は似/折り目は同幅/命令順は同型。


「似ばかりだな」


エルクが言う。


「似で止めます」


「決めないのか」


「今決めると敵側より先にこちらが乱れます」


本体前では疑いを名にしない。名前を置けば兵は隣を見る。車引きは縄を見る前に顔を見て、戻る口が狭くなる。


今必要なのは同じ形の紙が来た時に先に止めることだ。


板に新しい欄を作る。同じ折り目/怖い言葉が先/車・槍・戻る口を動かす/補助印の癖あり/命令紙として扱わない。


「来たら」


エルクが聞く。


「保留へ」


「持ってきた者は」


「止める。責めない。見たものを聞く」


「書いた者は」


「今は追いません」


「またか」


「追う場所を間違えると、敵側に時間を渡します」


エルクは不満そうだった。だが、前へ出るとは言わない。


「では俺は何をする」


「同じ折り目の紙で動こうとした足を止めます」


「紙を斬るわけにはいかない」


「足を止めてください」


「分かった」


返事は短く、剣を抜かない返事だった。


橋から返しが来る。


敵側は橋前で押し合い/井戸へ向かう足減/補給倉へ寄る足増/敵側の奥は決めろと急がせる声あり。


「決めろ」


メイナがその言葉だけを小さく写した。


敵側にも選ばせる者がいる。だが向こうは急がせ、こちらは分ける。


「焦っている」


本体兵が言いかけた。


「急ぎが強い」


そう書いた。敵側急ぎ強/橋停止継続/倉寄り増/水探し減。


急ぎが強くなれば見る場所が減る。橋と倉だけを見て、井戸の縄がないこと・粉麦が別に移っていること・乾き縄が床下にあることを見落とす。


見落としたまま決める。その決め方をこちらが選ぶ。


ルシアの二枚目が届いた。


商人網照合/補助印は古い王都会計筋/今も使う者は少ない/辞めた者・移された者・私用の写しに残す者あり。


「辞めた者」


エルクが読む。


「王都を離れた者か」


「その可能性があります」


「敵側にいるのか」


「まだ書きません」


「だが王都の紙の癖を持つ者が敵側の紙にいる」


「それは書けます」


板へ写す。王都会計筋の癖/敵側の命令紙に混入。


その言葉は強すぎるか迷った。だがここでは紙の形の話だ。人の話ではない。


「混じっている」


ガレスが言った。


「水に混じるものより厄介だ」


「なぜ」


「水なら捨てる。紙は読んだ後に残る」


だから同じ折り目は捨てない。軽くしない。名を探して騒がない。形として残す。


夜の前にミリアから返しが入った。


南門は避難民移動継続/火前二列維持/ハルヴェイン本館側は受け入れ余地あり/決戦地判断は次返しで可。


「決戦地」


エルクが言った。


「ここではなく」


「ハルヴェインです」


まだ確定ではない。だが街道・橋・井戸・補給倉で敵側の足を細くした先に選ばせる場所が見えてきた。


敵側は早く決めたい。こちらは決める場所を絞る。


板の端に同じ折り目の紙を三枚重ねた。


次に来た時に命令ではなく証拠として扱うためだった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


少しずつ読んでくださる方が増えていて、とても励みになっています。

リアクションやブックマークも本当にありがたいです。


もし続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回も楽しんでいただけるよう頑張ります。

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