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追放された雑用係、敗戦処理の天才だった ~崩壊寸前の辺境領を立て直す~   作者: 山田鰻
第十九章 損耗を押しつける戦い方

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補給倉の影

補給倉は外から見ると空に近かった。


戸口に置いた俵は二つだけ。片方は中身が少なく、もう片方は藁を詰めて形だけ作った。粉麦の主分は井戸裏へ移し、乾き縄は床下/火種は本体寄りの石陰。


倉を守っているように見せる。だが守るものはそこに置かない。


「空なら捨てればいい」


本体兵が言った。


「空に見える倉は捨てません」


「なぜだ」


「敵側が見ます」


倉を完全に捨てれば敵側は中を確かめずに通る。少しだけ残せば開ける。開ければ人が止まり、橋と井戸から遅れがつながる。


補給倉は食わせる場所ではなく、今は確かめさせる場所だ。


エルクが戸口の影を見た。


「中に伏せるのか」


「伏せません」


「なら開けさせるだけか」


「開けさせて軽いと思わせます」


「軽い?」


「取る価値がないように見せます。でも空ではない」


ガレスが床板を踏んだ。乾いた音がした。


「床下の縄は残せ」


「使いますか」


「夜に使う。今は見せるな」


乾き縄は火持ちにも車を縛ることにも使える。濡れた縄しか残っていない相手には乾いた縄だけでも値がある。見せれば取られ、隠せば残る。


メイナが倉の控えを作る。


戸口は藁俵二/床下は乾き縄三/奥板は空/粉麦は井戸裏/見せる損は藁俵一/渡せない損は乾き縄。


「渡せない損」


エルクがその行を読んだ。


「損なのに渡せない」


「失えば次が止まるものです」


「戻る口と同じか」


「はい」


エルクが倉の戸口に立った。剣は抜かない。


「聞く。ここで敵が来たら俺は何を守る」


「戸口ではありません」


「中でもない」


「床下を見せないことです」


「斬るより難しいな」


「はい」


「では戸を少し開ける。中は見せる。床は踏ませない」


エルクが自分で言った。


その言い方が昨日より少し変わっている。何を斬るかではなく何を見せるかを先に聞いている。


板へ書く。補給倉は戸を開ける/床下は踏ませない/藁俵一は渡す/乾き縄は残す。


橋から二度目の返しが来た。


敵車二は橋前停止/水探し戻り二/歩兵は補給倉側へ目を向ける/敵側の奥から前へ出せと急がせる声あり。


「急がせている」


メイナが読む。


敵側の中で待ちが増えている。橋で止まり、井戸で戻り、倉へ目が移る。急がせる声が出るなら止まっている証拠だ。


「焦っているのか」


本体兵が聞いた。


「急ぎが出ています」


断定しない。だが急いでいる相手は損を選びにくい。目の前の袋へ手を出し、見える倉へ寄り、車を前へ押す。


そこへ軽い損を置く。


藁俵一/塩に見える空袋/水のある井戸/通れる橋。


どれも本物に見える。だが本当に渡せないものは少しずつ奥へ外してある。


ルシアから商人控えが届く。


敵側の買い取り声あり/縄・粉・馬飼葉を高値で求める/持ち主不明でも受けると言った者あり。


「持ち主不明でも」


エルクの声が低くなる。


「盗ませる気か」


「買う形にしたいのでしょう」


「形があれば奪っていないと言える」


「はい」


ルシアは余白へ短く書いていた。


高値は焦りの形だが今は売らない。


その一行を板へ写す。売らない/見せる。


「商人が売らないのは珍しい」


ガレスが言う。


「売った後に道がなくなるなら、商売にならないよ」


ルシアの代わりに届いた言葉は短かった。


補給倉の影に空車を半分だけ見せる。荷台は空だが布をかける。布の下に何があるか分からないようにする。


敵側が寄れば倉を見に来た足と車腹を狙う足が重なる。


重なれば橋より南へ戻る足がまた増える。


「ここで俺が出ればまとめて斬れる」


エルクが言った。


「出ません」


「分かっている。聞いただけだ」


「出れば床下を見られます」


「だから出ない」


短く返し、倉の戸を片手で押した。少しだけ開くと中の藁俵二つが見え、奥は暗い。


「見せるのはここまでだ」


戸の幅を見た本体兵は中へ入らず、床板を踏ませない戸外の位置に立った。


北側から敵側の歩兵が三人補給倉へ寄った。一人は戸の中を見ようと身を傾け、別の一人は井戸側を振り返る。三人目は橋の列へ戻るか迷っている。


足が三方向へ割れた。


そこへ橋の返しが入る。


敵車三は動けず/後ろの歩兵は井戸と倉へ散る/前列は戻し声あり。


戻し声。


敵側が前へ出すだけではなく戻そうとしている。戻せば列が乱れ、橋はもっと詰まる。


板へ数字を足す。橋停止三/井戸戻り二/倉寄り三/敵側戻し声あり/こちら損は藁俵一まで。


「藁俵一まで」


エルクが読んだ。


「これ以上は」


「乾き縄を渡せません」


「粉麦も」


「渡せません」


「戻る口も」


「渡せません」


エルクがうなずいた。


「なら俺が守るのは倉ではない。渡せないものの前だ」


その理解を板の下へ残した。補給倉で守るのは戸口ではなく床下。


敵側の急ぎは橋・井戸・倉の間で細くなっていた。


次に必要なのはなぜこの道へ来たのかを知る紙だった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


少しずつ読んでくださる方が増えていて、とても励みになっています。

リアクションやブックマークも本当にありがたいです。


もし続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回も楽しんでいただけるよう頑張ります。

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