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追放された雑用係、敗戦処理の天才だった ~崩壊寸前の辺境領を立て直す~   作者: 山田鰻
第十九章 損耗を押しつける戦い方

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橋を残す幅

石橋は二台並べば渡れない幅だった。


それでも車輪跡は二本あった。昨日まで本体側の車が急いで通った跡で、右の轍は深く左の轍は浅い。浅いほうを潰せば向こうの車は右へ寄る。


「橋を壊さないのか」


本体兵が聞いた。


「壊せばこちらも戻れません」


「敵も渡れない」


「敵が橋を直し始めます。直す者を守る者も来ます」


壊した橋は目立ち、守りたい場所だと教える。残した橋は使いたくなり、相手はそこへ車を入れる。


橋は罠ではなく通れる場所で、通れるから詰まる。


ガレスが橋板を一枚持ち上げた。商人が持ってきた薄い板だ。見た目は頼りないが、泥の上へ置けば車輪が少しだけ浮く。


「置くなら右だ」


「右を通しやすくします」


「左は」


「泥で消します」


水を含んだ土を左の轍へ入れる。草を混ぜ、割れた箱の板を沈める。踏めば沈み、見た目には道に見える。車輪を入れれば重くなる。


右だけが通れ、入れば一列になり、後ろが止まる。


メイナが板へ写す。


橋右は通す/橋左は重くする/橋上は戦わない/橋前は待たせる。


「橋上で戦わない」


エルクが読んだ。


「斬りやすいぞ」


「落ちれば橋が止まります」


「相手が落ちてもか」


「落ちた者をどかすために橋が止まります。こちらの戻り車も止まります」


「なら橋で斬らない」


口に出してからエルクが顔をしかめた。


「本当に嫌な戦だ」


「嫌なまま使います」


橋の手前に空袋を三つ置いた。中には石を少しだけ入れる。重そうに見えるがすぐ動かせる。向こうが見れば荷を守っているように見える。


実際の粉麦は動かさない。補給倉の底に一部だけ残し、主分は井戸裏へ回す。


ルシアの商人車が橋の南へ止まった。荷台には縄と薄板だけで塩は載せていない。塩袋に見えるものは空袋を布で巻いたものだった。


「商人には嫌がられます」


「もう嫌がっているよ」


ルシアが車の横で言った。


「でも塩を失うより塩に見える袋を失うほうが安い」


板へ書く。見せ荷は塩袋風/中身なし。


「風まで書くのか」


「あとで本物と混ざると困ります」


ルシアが笑わないまま肩をすくめた。


「商売でも同じだね。似た袋が一番危ない」


北から偵察戻りが入る。


敵側は右下の泥を避ける/車二は橋方向へ寄る/歩兵は車腹を見る。


「車腹」


撤退戦から続く言葉だった。敵側は車の腹を押せば流れが止まると知っている。戻る口を直接狙わず車を詰まらせる。


「橋でも同じです」


橋の右へ通れる道を残し、車腹を押したくなる場所を見せる。だが橋の手前で押せば車は斜めになり、後ろの車と向こうの足が止まる。


「押させるのか」


エルクが低く聞く。


「押したら向こうが止まります」


「こちらの車は」


「手前で切ります。橋へ入れる車は空に近いものだけです」


「荷のある車は」


「井戸裏へ回します」


エルクの指が地図の井戸へ移る。


「次は井戸か」


「はい」


「橋で止めて井戸で待たせる」


「水を欲しがるまで待ちます」


「敵に水を飲ませない戦か」


「飲める水を遠くします」


橋の北側で敵側の土煙が少し太くなった。まだ姿はない。だが車が増えれば土も増える。橋へ寄れば土は細い線になり、線が細くなれば数えられる。


メイナが橋の右へ小さな印を入れた。


敵車は橋へ寄せる/こちら車は橋前で切る/商人車は見せるだけ/粉麦は井戸裏へ。


ガレスが橋板を叩いた。


「残す幅は広すぎても狭すぎてもいかん」


「どのくらいですか」


「車輪ひとつ分楽に見える幅だ」


楽に見えるが実際には楽ではない。右へ寄れば左の泥が車輪を吸い、左へ逃げれば橋板から外れる。止まれば後ろが詰まる。


敵側に見せる損は小さくなければならない。大きければ警戒され、小さければ踏む。


「橋で勝とうとするな」


ガレスがエルクへ言った。


「分かっている」


「顔が分かっておらん」


「今聞いている」


エルクは橋から目を離さずに言った。


「どこまで待つ」


今度はレインへ向いた問いだった。


「一台目が橋へ入るまでです。二台目が入る前にこちらの見せ荷を下げます」


「一台目を逃がすのか」


「逃がすのではなく入れます」


「二台目を止める」


「はい」


エルクが橋の幅を見た。


「一台目は損として渡す。二台目から止める」


「そうです」


「なら一台目を斬りたくなったら」


「橋を見てください」


「人ではなく」


「幅です」


エルクの手が剣の柄ではなく橋の縁へ伸びた。


「分かった。幅を見る」


橋の南で商人車の空袋が揺れた。中身のない袋が塩袋のような顔で荷台に座っている。


敵側へ渡す最初の損は塩に見える空袋だった。


本物の水と粉麦は井戸の手前へ移り始めていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


少しずつ読んでくださる方が増えていて、とても励みになっています。

リアクションやブックマークも本当にありがたいです。


もし続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回も楽しんでいただけるよう頑張ります。

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