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追放された雑用係、敗戦処理の天才だった ~崩壊寸前の辺境領を立て直す~   作者: 山田鰻
第十九章 損耗を押しつける戦い方

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渡す損の地図

夜明け前の本体前に四つの印が置かれた。


街道。


橋。


井戸。


補給倉。


昨日の板には戻る口と捨てる荷が残っている。濡れ毛布三枚/割れ盾二つ/壊れ箱一つ/空車一/戻り十四/追撃遅れ。


損は選ぶ。


その行だけを残して夜が明けた。


「守る場所を増やすのか」


エルクが板を見下ろす。


「逆です」


板の上で街道の線を少し削った。


「守らない場所を先に決めます」


「守らない」


「全部を守ると全部が薄くなります」


昨日は戻る口を守るために空車・濡れ毛布・割れ盾を捨てた。今日も同じことをもっと大きい場所でやる。


本体前の土ではなく領の形で。


メイナが地図を広げた。道倉から本体前へ伸びる北道/途中の低い石橋/橋手前の古井戸/少し外れた小さな補給倉。道は細く横へ逃げる場所は少ない。


「ここを取られると」


エルクの指が橋へ落ちた。


「戻る車が遅れます」


「なら橋を守る」


「守り切るためではありません。渡す時間を選びます」


エルクの眉が寄る。


「橋を渡すのか」


「橋そのものではなく、橋の前の待ち時間を渡します」


敵側が橋を取れば細い幅へ寄り、車は一列になる。一列になれば後ろは止まり水も火も届きにくい。


石橋は強い場所ではなく細い場所で、守るだけでなく詰まらせるためにも使える。


ガレスが石を三つ置いた。橋の手前/井戸の横/補給倉の影。


「井戸はどう使う」


「水を渡しません」


本体兵の一人が顔を上げる。


「水を捨てるのか」


「捨てません。井戸の縄を外します」


縄を外せば水は残るが汲むには時間がかかる。桶を壊さず水を汚さず、使える井戸のままにする。奪われてもすぐには使えない形にする。


「嫌な残し方だな」


エルクが低く言った。


「使えるものを使いにくくして渡すのか」


「はい」


「壊せば早い」


「あとで戻せません」


「敵が使えば」


「すぐには使えません」


板に書く。橋は渡す幅を細くする/井戸は縄を外す・桶は隠す・水は濁さない/補給倉は空に見せて底の乾き縄だけ残す/街道は轍を二本にしない。


エルクが最後の行を読んだ。


「轍を二本にしない」


「敵が車を二列にしたら押し切られます。片側だけ通れるようにします」


「どうやって」


「左の轍を泥で消します。右は残します」


「通れる道を残すのか」


「残さなければ向こうは横へ広がります。残せばそこへ入ります」


街道は壁ではない。だが足と車は通りやすいところへ集まり、そこから止める場所を選べる。


昨日は濡れ毛布で足を少し右へ寄せた。今日は街道で敵軍の腹を細くする。


ミリアから南門の返しが届いた。


半食継続/火前二列/避難民は南倉裏へ移す/車三は北へ出せる/戻り車は夕前まで二。


「南から車は三台」


メイナが写す。


「全部は使いません」


「一台残すのか」


エルクが聞く。


「一台は見せます。二台を動かします」


「見せる車」


「敵側にまだ車があると思わせるためです」


荷のない車を補給倉の影に置き、車輪だけ見えるようにする。荷を積んでいるように見える位置へ置き、実際の粉麦は井戸裏の浅い穴へ移す。


ルシアからの紙も入った。


塩商二/縄商一/橋板持参/商人車は戦列に入れず/荷を見せるだけなら可。


「商人車を使うのか」


「使うのは見え方です」


「また嫌な言い方だ」


エルクが板の横へ膝をついた。


「聞く。橋を渡すならどこで斬る」


その問いに手が止まった。


斬る場所を聞いているのではない。斬らせない場所を知ろうとしている。


「橋の上では斬りません」


「橋の前か」


「橋の前でもありません」


地図の井戸側を押さえた。


「橋へ入る前に車を待たせます。待たせたところへ水の手間を重ねます。斬るなら向こうが水を取りに降りた後です」


「降りたところを斬るのか」


「斬らなくても戻るのに時間がかかります」


エルクはしばらく地図を見ていた。剣の柄へ手をやらない。


「俺が出る前にどこで止まるか聞けばいいんだな」


「はい」


「分かった。先に聞く」


板に新しい欄を足した。


助言前/前進前に橋・井戸・倉の損を確認。


書きながら、この行はエルクだけでなく本体兵にも要ると思った。


朝の土に街道の線が引かれた。


守る地図ではなく、渡す損を決める地図だった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


少しずつ読んでくださる方が増えていて、とても励みになっています。

リアクションやブックマークも本当にありがたいです。


もし続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次回も楽しんでいただけるよう頑張ります。

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