14、◆ペテン師一家の新生活?
◆ペテン師スタンダードグレー一家の新しい生活?
── 王子とパールとの今後の関係はいったいどうなることやら? ──
侯爵とマグナの陰謀は、少しずつ明らかになっていった。2人は廃鉱山が実はマナ石の鉱山であることを知り、それを手に入れるために伯爵家を潰そうとしていたが完全に暴かれたからだ。
しかし、彼らが想定していなかったことが2つあった。
1つは、伯爵家の女性たちがこれほどまでにタフだったこと。
もう1つは、第二王子エリナセウスがパールに本気で恋をしたことだ。
「お忍びで市井に出入りしているらしい」
と噂されていた王子は、実はパールが働く「シャン・パン」の常連客でもあったのだ。パン屋のサンド店主と仲良くしているところをパールによく目撃されていたのに、パールは気付いていなかったそうだ。
「殿下、どうしていつもこんなところに?」
ある日。
パールが王子の正体を見抜いた時に問いただした。
エリナセウス王子は照れくさそうに答えた。
「君に会いたかったからさ。それに調べている内に……君の家族が不当な借金を背負わされていることを知ったからね」
結局。
そんな王子の協力もあり、侯爵とマグナの陰謀は完全に暴かれたというわけだ。
裁判の結果、大白金貨50枚という50億の借金は不当である事が認められたために全額無効となり、むしろ生前のグレイ伯爵からありもしない投資話で無用な資金を余分に騙し取ったことが判明した。
もちろんグレイ伯爵家だけでなく、ブラント騎士団長や他の貴族たちにも似たような偽の投資話で最初から大損させるように私財を騙し取られていたことがバレて、其々の貴族へ全額正規の補償金を返金することを命ぜられた。
マーシャル女公爵から騙し取った宝石、ブレイズ子爵を脅して奪った領民の土地や奴隷にされた人材たちも全員本来の居場所に帰すため、情報提供も求められた。
そのためアグーチ侯爵は1部の領地を覗いたほとんどの領地没収の上、生涯北方の残された領地に幽閉状態となることを王命で誓約させられた。もちろん、監視付きで。
隣国から入り込んでいた異国人のマグナはスパイ罪で投獄され、売り渡した奴隷とされた人々に関する情報や関係者を洗いざらい提供させた後に、隣国との取引で処刑が決まった。
隣国に国の情報を売っただけでなく、大事な国民と言う人材を奴隷として渡していた罪を、国が重く受け止めたからである。
そしてスタンダードグレー伯爵家は、見事に王家に建て替えてもらった分の借金を……というより、本来借金自体がないことになったので普通に返済しただけでなく、マナ石鉱山は正式にベルベット夫人のものとして認可され採掘権を得ることになった。
しかもその収益を詐欺を働いた貴族達への慰労金として国への利益として充てるどころか、伯爵家をも以前より豊かにした。
*****
── ペテン師スタンダードグレー伯爵一家、家族たちの新しい生活が始まるのかも? ──
「でもお母様、私たちがしたこと……詐欺や泥棒は、本当は悪いことだったよね」
ある夜。
パールがベッドの中で呟いた。
ベルベットは娘の頭を優しく撫でた。
「そうね。でも私たちは、誰かを傷つけるためにしたわけじゃない。ただ生きるために、家族を守るために必死だっただけだもの。
そして最終的には、むしろ多くの人を救うことになったみたいだけどね」
「これからは、ちゃんとした方法で生きていくわ」
エボニーが隣の部屋から声をかけた。
「鑑定士として、デザイナーとして、薬師として、シェフとして……」
「そして王子の婚約者として?」
ベージュがからかうと、パールは布団にもぐり込んだ。
「まだ婚約だけだから! それに、王子が私のどこを気に入ったかっていったら、使い潰した靴なんだよ?」
家族の笑い声が屋敷に響いた。
「でもね、お母様」
パールが尋ねた。
「これって……シンデレラの逆バージョンみたいじゃない?」
ベルベット夫人は優しく微笑んだ。
「そうね。でも、私たちはかぼちゃの馬車も魔法使いもいらないわ。だって、私たちには『家族』という魔法があるもの」
エボニーが付け加えた。
「それと、ちょっと変わったペットもね」
その言葉に、チーラは得意げにドライフルーツをほおばった。
彼女たちは確かにペテン師だった。しかしその手口は、いつしか本当に人を助ける手段へと変わっていった。
そして今、彼女たちは新たな出発を迎えようとしていた。
「さて、次はどこに悪徳貴族が潜んでいるかしら?」
ベルベットが窓の外を見つめながら言った。
「母様、もう詐欺はやめるって言ったばかりじゃない」
エボニーが呆れたように言うと、
「詐欺じゃないわよね。『懲らしめ』るだけでしょ」
ベージュの目もきらりと光った。
「この世界にはまだアグーチ侯爵のような人物がたくさんいるのよ。私たちの経験と才能を、そんな人たちから無辜の人々を守るために使うことは、そんなに悪い事かしら」
4人の女たちと1匹?の魔法獣は、顔を見合わせてうなずいた。
彼女たちの戦いは終わっていなかった。むしろ、新たな章が始まろうとしていたのだ。
*****
── 新しい家族の形を作るのもありかも ──
それから数ヶ月 ──
伯爵夫人と娘たちはそれぞれの才能を活かして、とりあえず表向きは真っ当な職業についた。
スタンダードグレー伯爵家の状況は少しずつ変化していった。
ベルベット夫人は、ドレスデザイナーとして名声を博し、「パラエ・キヌス」を王都随一のドレスショップに成長させた。
それだけでなく王室御用達の店とまで謳われるようになった。ヘミエとメッセは繁盛しすぎて、新たな店員を雇うほどで、夫人のデザインしたドレスは「動く宝石」と称され、貴族女性たちの憧れとなった。
それにベルベットは、ブレイズ子爵と「親友」としてよく会うようになった。2人とも亡き配偶者を忘れることは確かにできないだろうが、お茶をしたり観劇に出かけたり、時には事業の話をしたりする仲になっていた。
「何度も言う様に、お互いに失くした伴侶の事を忘れることはできませんわ」
ある日、ベルベットが紅茶をすすりながら言った。
「もちろん、本音では子爵からの求婚は光栄とは想っているのですが……でも、親友同士でも会うことはできますわよね」
ベルベット夫人はブレイズに優雅に微笑んだ。
「それとこれも何度も言わせていただきますが、もちろん、ドレスデザイナーの仕事は続けさせていただくわよ。王家御用達でもあることですし」
「そっ……それなら、もちろんかまわない! それで充分ですよ、ベルベット。あなたのドレスは、亡き妻もきっと気に入っていることでしょう」
ブレイズ子爵は優しく微笑んだ。
「それに、無理に婚姻を勧めるつもりもない。親友のままでも構わない。ただ、君と一緒に店の経営を投資や出資などで手伝うのはかまわないだろうか?
実は私も紳士服だけにはこだわりがあってね……」
もちろん、娘たちもそれぞれの道を歩み始めている。
エボニーは、宰相ダウリア大公の協力で正式に王国初女性美術鑑定士として認められ、贋作を見破る天才として名を馳せ偽造防止の研究に活用された。
さらに宰相ダウリアの支援で画廊まで開いていた。
もちろん、贋作作りはとうにやめていたが、その技術は絵画修復の分野で大いに役立ち、何人もの修復師と言う後進を育てていくことになった。
「でもたまには……」
エボニーは悪戯っぽく笑った。
「誰も見破れない完璧な贋作を作りたくなるのよね」
ただし、時々「本物より美しいレプリカ」を作っては関係者を悩ませているらしい?
さらに世界初の女流画家としても有名になり、多くの新進気鋭の芸術作家たちを見出す大公夫人としても社交界を揺るがせることになる。
ベージュは、暫くはナミのヘアーサロンと共同で美容師兼調香師として経営していたが、やがて独立し化粧品工房を設立し天然素材の化粧品ブランドを立ち上げた。
ブラント騎士団長は、開発のスポンサーとして名を連ねていた。
もちろん、ナミのヘアーサロンとは競合しないよう提携する内容で、安全で効果的な商品を庶民にも手の届く価格で提供し始めた。
「肌に優しい化粧品で、王国の女性たちを美しくするのが私の夢なんです」
ベージュはそう言いながら、新しい口紅の試作品などを作ったりした。しかし彼女が開発した「若返りクリーム」は、50歳の貴婦人を20歳に見せるという噂まで立った。
近衛騎士団長ブラントは、香水詐欺の被害者ではあったが、投資家でありスポンサーとして参加してから後、やがて2人は婚姻し、ベージュは公爵夫人となった。
婚姻後はさすがに工房は信頼のおける経営者に譲ったが、彼女の開くリラクゼーションサロンは多くの参加者で毎回盛況となる。
パールは、王宮の厨房でシェフ見習いとして働き始めていた。
「パールさん、また第二王子殿下があなたの作ったケーキを褒めてましたよ!」
厨房の同僚がからかう。
「エリナセウス殿下は甘いものがお好きですから」
パールは冷静に答えたが、耳の先が少し赤くなっていた。
それだけでなくエリナセウス王子は、よく厨房を訪れては試食をねだった。
「君の作る料理は……本当に心が温かくなる味がするんだよ」
王子はそう言いながら、また1つパイを頬張った。
パールは照れくさそうに笑った。
「殿下、それはただのアップルパイですよ」
「いや、違う」
王子は真剣な表情でパールを見つめた。
「君の料理には、家族を想う気持ちが込められている。それが一番のスパイスなのかもしれない」
さらにパールは、時々エリナセウス王子とともに貧民街の食堂でボランティアをするようにもなった。
王子は彼女の料理の腕と、誰にでも分け隔てなく接する態度にますます惚れ込んでいった。
「君は本当にすごいよね、パール」
ある日、王子が野菜を切りながら言った。
「ん? 王族なのに、こんなことしてるのって変かい?」
「変じゃないわよ。むしろ、その……す……素敵だしえらいと思う」
パールは笑顔で答えた。
「それに、私だって伯爵家の娘なのに、泥棒や詐欺をしてたんだから」
2人は顔を見合わせて笑った。
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それから数年後。
スタンダードグレー家は、王国で最も尊敬される家柄の一つとなっていた。
マナ石鉱山は順調に採掘が進み、その利益は孤児院の設立や、元娼婦たちの職業訓練プログラムに活用された。
もちろんスタンダードグレー伯爵家の女性たちは、それぞれの分野で王国を代表する存在になるほどの大成功を収め続けてもいた。
ベルベット子爵夫人のデザインしたドレスと、夫となったブレイズ子爵の紳士服も、対となるドレスの生地をワンポイントに使ったり、斬新で大胆な色使いが、恋人同士や、婚約者、夫婦に評判がいいようだ。
もちろんベルベット夫人のデザインしたドレスは常時、王妃様から注文が入り続けているし、夫婦2人の被服事業は国際的にも評価され、隣国でも流行の最先端を担うほどの大人気となっていた。
エボニー大公夫人の鑑定士研究所と修復師育成事業や画廊には各国から依頼が殺到するようになっていた。
ベージュ公爵夫人の考案する化粧品ブランドは王室御用達指定にされ、彼女が主催するリラクゼーションサロンは予約が取れないほど人気を誇り続けている。
パールは……王宮の厨房の副シェフとして、アラレリクス王太子とケープ王太子妃夫妻……いや、ハードウィケ国王の退位後、アラレリクス国王とケープ王妃となった彼らの食卓を支える重要な料理人の1人となっていた。
その上、後進を育てたり、登録レシピの収入で貧民街の食堂を支えてもいた。
さらに婚約者となった第二王子とともに、王国の難事件を解決する「特別顧問」にもなっていた。
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