13、◆王宮での決着?
◆王宮での決着
── 王宮を舞台に迎えてのブルーパッチド侯爵との決戦の結果は着くや ──
証拠書類はすぐに王宮に届けられた。
ハードウィケ国王とソマリー王妃を始め、アラレリクス王太子とケープ王太子妃、重鎮たちの前で、侯爵の全ての悪事が明らかにされていった。
しかし侯爵もただでやられているわけではなかったようだ。スタンダードグレー家が詐欺で得た金で借金を返済していることを調べた上で、彼女たちを逆に告発しようとした。
捕縛されそうになった侯爵は、最後の悪あがきとしてベルベット夫人を指差したのだ。
「国王陛下! スタンダードグレー伯爵家は詐欺師ですぞ! 彼らは大公殿下、女公爵閣下、騎士団長殿、子爵閣下をも騙しましたのですぞ!」
場内が再び騒然とする。
けれどそこで驚くべき事実が明らかになっていった。
なぜなら、最初に王弟殿下でもある宰相ダウリア大公殿下が勢いよく立ち上がったかと思うと、その証言をし始めたおかげで、侯爵の思惑とは違う方向に流れが変わっていったからだ。
「侯爵、あなたの言葉は全て誤りです。私はスタンダードグレー家の長女エボニー令嬢の才能に心から惚れ、自らの意思で彼女と結ばれたいと思っています。
ですから彼女たちの行いは詐欺などではなく、真の愛情故なのです。
それにブルーパッチド侯爵は、実は以前から私に偽の絵画を何度も売りつけようとしてきました。スタンダードグレー伯爵夫人と娘たちは、むしろその詐欺から私を守ってくれていたのです」
宰相ダウリア大公は、エボニーが描いた「贋作」を手にしながら、苦笑した。
「確かに私はこの絵に金貨180枚を支払いました。だが、それ以上に、彼女の才能には価値があるのです」
それを皮切りに次々と証人が現れた。
ブラント公爵、マーシャル女公爵、ブレイズ子爵、エリナセウス第二王子……すべてスタンダードグレー家の「詐欺の被害者」たちだが、実は彼女たちのおかげでより大きな詐欺から救われていたのだと。
ブラント騎士団長がダウリアの続きを引きとった。
「ベージュ令嬢の化粧水は、私の肌だけでなく、騎士団の怪我人たち全員の傷を実際に改善してくれました。
その行為は決して詐欺などと言えるものではなく、優れた製品の提供をしてくれただけです。
それにこちらの侯爵に関する資料、どうやら私の名前もはっきりとリストにあるでしょう? スタンダードグレー伯爵が持ち掛けられた投資話、実は私もまったく同じ話を侯爵から持ち込まれたのを覚えておりますとも。
そのためにお恥ずかしい話でありますが、私産のほとんどの資金を失いました。ですからベージュ令嬢、私もそれほど多くの香水や化粧水を購入できるほどの資産家ではないのだよ?」
近衛騎士団長ブラント公爵は、ベージュに深々と頭を下げた。
「むしろ彼女の化粧水販売のおかげで、私は肌の手入れの重要性を学び、香水のおかげで精神的にリラックスできるようになり、人との対話がスムーズにいくようになりました。感謝しているくらいです」
マーシャル女公爵も加わる。
「エボニー令嬢が鑑定した宝石は、偽物ではなく、どんな小さくて歪な石や不格好なガラス製品だろうと、宝石のカットや研磨時に出た屑だと思われた欠片1粒からでも、真の価値を見出してくれたのです。
それに、私は以前マグナと言う異国の行商人に騙され、偽の宝石を高額な値段で購入させられました。その時からでございます、碌に審美眼もないくせに下手な宝石に無駄金を費やすしか能のない女公爵が、と侯爵に脅されるようになったのは。
女性だてらに公爵としての地位を脅かされたくなければ、宝石と資金を渡せと……バカでしたわ。たかが宝石の事で脅迫までされたのに、その資金が何に使われたのかも知らないふりをして」
マーシャル女公爵は、ベージュが開発した化粧品の小瓶を大切に抱えていた。
「それにこの化粧品ね。実は効果がなくても……使っているととても気分が明るくなるの。先程シルバーパイド団長が言っていたように、本当にリラックス効果があるみたいよ。
本物のリラクゼーション用化粧品として発売してくれないかしら?」
それからブレイズ子爵は、奴隷解放の書類にサインしながら、安堵の表情を浮かべた。
「侯爵の悪事が明るみに出て、ようやく……家族の仇が討てました」
さらに、エリナセウス第二王子は、父母と兄夫妻に向かって大事に懐に仕舞っていた小さなボロ靴を見せる。
「このように、靴の底をすり減らす程働き、ただの靴1つでも大事に使い続けている女性とその家族が悪人であるはずがありません。
それに、彼女が作った料理は、本当に心の内側まで温かめてくれる優しい味だったのです」
「侯爵、これはどういうことか!」
ハードウィケ国王は、5人の証言と書類を侯爵に突きつけた。
「彼らの証言以外にも、其の方がスタンダードグレー伯爵に押し付けた借金の元本は、とっくに利息だけで返済済みのようだが?
しかも其の方が請求している利息は、我が王国法に則っても法外な利率で違法ではないか!」
「そ、それは……」
アグーチ侯爵は最早言い逃れできない状況に追い込まれ、あわあわと慌てふためいていた。
そこへベルベットがしずしずと進み出た。手には伯爵が生前に残した書類を持っている。
「失礼ながら陛下、実はこれが本物の借用書でございます。侯爵閣下が私に見せたものとは利率が違っておりますでしょう?」
「さらに最も重大なことが」
エボニーが最後の証拠を提出した。パールとチーラが侯爵の屋敷から盗み出した書類だ。
「侯爵閣下は隣国のスパイ、マグナと組んでおります。『パス・バレー』を通じて、有害な商品を流通させているのです」
場内が騒然とした。
「いいえ、それだけではございません。『パス・バレー』では、生地の染料に周辺諸国で違法とされているヒ素を隣国から密輸させ使用しているのです。
しかも、生地だけでなく、許されないのが絵画の絵の具にまで混入させて使っていることです。あの素晴らしく美しいと思い込まされていた緑色が全て毒の色だったなどと。
ご婦人や絵に造詣の深い貴族の方に、心当たりのある方が多いのではないでしょうか?」
宰相が宣言すると、顔色を青くした夫人や令嬢、家族の為にドレスを仕立てたり、絵画を買い漁った貴族の男達が騒然となった。
「さらに。その問題の『パス・バレー』ですが、化粧粉の原材料にも違法とされている鉛を添加しております。
肌荒れや、体調の不調を訴えておられた方々にはお気の毒ですが、早々に医師にご相談なさるか、医療所への受信をお勧めします……」
近衞騎士団長も追加で情報を提示すると、気を失うご婦人たちまで出てしまった。
アグーチ侯爵は蒼白になり、とうとう膝から崩れ落ちた。
「では、アグーチ・ブルーパッチド侯爵、其の方の罪状は……」
国王が宣告を始めた。
その時、ベルベットが進み出た。
「恐れながら陛下、1つだけお願いがございます。侯爵閣下への罰として、あの廃鉱山の管理を私たちに任せていただけないでしょうか?」
「廃鉱山? しかしあれは価値のない……」
「実はそうではなかったのでございます」
パールが小さく言った。
チーラが彼女の肩に飛び乗ると、自分の手柄のおかげだとも言うかのように誇らしげに胸を張る。
「チュイ!」
パールはよくやったと、チーラの頭を撫でながら、持ち歩いている餌袋からドライフルーツを渡した。
「私達が調べたところ、あの鉱山はマナ石が採れるのです」
一同が息を飲んだ。
前述のようにマナ石は魔法のエネルギー源として貴重な鉱石だからだ。
「侯爵は最初からそれを見抜いていたのでございます」
エボニーが続けた。
「だからこそ、父様を騙してまで手に入れようとしたのです」
国王はこの状況を俯瞰し、ある結論に達した。侯爵の悪事は明白であり、スタンダードグレー家の行動 ── 詐欺と呼ばれるものは、全て侯爵の策略による借金から家族を守るための苦渋の選択でしかなかったのだと。
「スタンダードグレー伯爵家よ」
国王が宣言する。
「其の方たちの行動は、法の厳格な意味では違法かもしれない。しかし、その背景には侯爵の悪質な策略のせいでもある。
私は、其の方たちの借金を王室が肩代わりすることを提案しよう。ただし、今後は正式な手段で ── 例えば、伯爵夫人のドレスデザインを妻……うおっふぉん。王妃と王太子妃が偉く気に入っておるので、最新のデザインを真っ先に献上すること。
長女の鑑定技術に対する正式な役職への就任。次女の化粧品と香水の開発、もちろん最新の商品は王家優先に。
さらに三女の料理技術やレシピの登録 ── それらで収入を得ること」
ベルベット夫人は深く頭を下げた。
「陛下、ありがとう存じます。私たちは、この恵みを決して無駄にしないと誓いましょう」
こうしてアグーチ・ブルーパッチド侯爵は、全ての罪を認めると、領地と財産を没収された。スタンダードグレー伯爵家の大白金貨50枚の借金は帳消しとなり、廃鉱山……いや、マナ石の宝庫は正式にベルベット夫人のものと認められた。
「やったわ……!」
娘たちは泣きながら母に抱きついた。
「「「終わったのね、本当に終わったのね……!」」」
ベルベット夫人も涙をぬぐった。
「ええ、終わったわ。これで……ようやく普通の生活に戻れるのよ」
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侯爵との対決はやっと終結した。
結果。
侯爵は逮捕、拘禁され、スタンダードグレー伯爵家は王室の保護を得ることになった。借金は肩代わりされ、彼らは合法の手段で才能を発揮する道を得たのだから。
しかし、これは終わりではない ── 侯爵の背後には、隣国のスパイのマグナや「パス・バレー」のネットワークが未だ残されていることだろう。
スタンダードグレー伯爵一家は、半ば公認の「悪徳貴族懲らしめ部隊」として、さらなる悪事と戦う運命に立たされただけなのかもしれない。
そんな帰路の馬車の中で、エボニーが言った。
「それにしても、まさか第二王子殿下までもが私たちを擁護してくださるとはね」
ベージュが笑う。
「でも、パールは料理人として真っ当に働いた方がいいのかもしれないわ」
ベルベット夫人は窓外の夜空を見つめた。
「夫が守ってくれた鉱山 ── マナ石の宝庫。私たちはそれを正しく活用し、王国のために貢献しましょう。それが、グレイへの最高の報いになるでしょうから」
パールは黙って考えていた。王子の求婚 ── それは彼女の計画外だったが、もしそれが家族を守る新しい手段なら?
しかし、まずは侯爵の残党と、マグナの陰謀を解決することが先決だろう。
チーラがパールの膝の上でドライフルーツを貪りながら、満足そうに鳴いた。小さな魔法獣も、今夜の成果を誇っているようだった。
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