第9話 綺麗なところ
「....私は一度死んだ。あの墓場もきっと私が埋められていた場所なの」
「でもなぜだか今こうしてここに居る、死んだらそこで命はおしまいなのに」
「じゃあ....」
「そうだよミントちゃん、あなたが私を甦らせてくれた」
心当たりはあった。手のひらから湧き出る漆のような魔術。地面に流れて、それがエクサの埋まっていた場所だとしたら辻褄が合う。
「あの魔術....」
わたしの魔術が死者を甦らせた、そうとしか言えないのだ。
「この命はミントちゃんのもの。あなたのために生きたい、けどね.....」
エクサは苦しそうに向こうを向いた、涙が頬を伝っていることはわかった。
「お父様のこと考えると....やっぱり許せないんだ」
「....自分のために生きるのがいいよ、エクサ」
その言葉で少しエクサの心は解けたようだ、少し微笑んだ顔でわたしに問う。
「ありがとう、ミントちゃんはどうする?」
俯き、言葉を探す。わたしに家なんてもうないのだから。
そうなれば....もう、わたしに残っているものはひとつだけ。
そこで朝日が差し込んだ、ミントの純白の髪が金色の光を反射していた。
「わたしには帰りたい場所があるの。花が咲き誇って、日差しが心地のいいところ....」
「そうなんだね....この国のどこか?」
日のふもとで羽ばたく蝶を見ながらミントは言う。
「少しちがうかも、でもエクサもきっと通りかかったことのある場所だよ」
「そうなの? なんて言うところ?」
「“メメント・モリ”、綺麗なところだよ」
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これから宴会でもあるかのようなルビーレッドのドレスに身を包み、金色のシャンパンは片手で揺れていた。
へスター・ベヒトルスハイムはふかふかのソファに寝そべり、夫に猫撫で声で言う。
「ねえレオン〜、家で飲むはつまんないわ、あのビストロに連れて行ってよ」
脚を組んで本を読む夫は、少し意地悪く返答する。
「へスター、君はあそこに行けば飲みすぎてしまう。それに子供たちと遊ぶって約束してたじゃないか」
「子どもぉ? どうでもいいよ、うるさいだけじゃん。そもそもレオンが欲しかったから産んだだけで、ちゃんと世話してよ〜」
媚に負けた夫はため息をひとつ、本をぱたりと閉じて立ち上がった。
「仕方ないなぁ、馬車を準備させてくるよ」
へスターは寝そべったままシャンパンを一口含み、にやりと笑みを浮かべる。
襟を整えながら廊下を抜け、レオンは蝋燭ひとつ灯っていないエントランスにたどり着く。
「馬車を用意してくれ、早くしろデイヴァル」
そこに立っている使用人にレオンは話しかけた。しかし突っ立ったまま何も言わない。
「聞いているのか?」
「わたくしは....わたくしは、アルバートでございます」
暗がりでも分かるくらいに顔を覗かしてきた彼、その見覚えある様にレオンは絶句した。
「へ....あぁ!?」
わかりやすく腰を抜かして恐怖するレオン。目の前にいるのは間違いなく兄のアルバートが雇っていた使用人だ、自身の目の前で死んだ彼がそこにいたのだ。
「近づくな近づくな!」
構わず使用人のアルバートは右手首をゆっくりと擦りながら、こちらに近づいてくる。
「レオン様....あれからずっと....右手が痛み続けてるのです....あぁ痛い痛い痛い....」
「く、来るなぁっ!!」




