第10話 さがし物
冷たい風が吹いている。晴れた空には再び雲がかかった。
ミントとエクサが去った数刻後、イーゼルの兵士たちは火災の通報を受けてやってきた。彼らは総員で焦げ臭い瓦礫の山をかき分けていた。
現場はただの火災というにはあまりにも異質。騎士のブルベルは馬に乗ったまま眉を顰め、現場を見つめていた。
突然、兵士の一人が手を大きく上に挙げて彼に訴える。
「騎士長、生存者が一名!」
「状態は!」
「虫の息です!」
「重要な証人だ、治療のできる“魔術師”を最優先で手配しろ!」
「了解です!」
二人の兵士がその“生存者”を瓦礫の隙から引き上げた。遠くから見てもわかるような出血と傷を目撃し、ブルベルは呟いた。
「ありゃ、助からねえな」
ほとんど間を置かず、馬の蹄が石畳を打つ音、がたごとと鳴る馬車の音が向こうから聞こえてきた。
「ん....?」
白銀の毛並みの軍馬たちが連れる4台の馬車はブルベルのそばで止まった。どの車体にも刻印がされており、誰が来たかは一目瞭然。
「教会....それも“聖域”の奴らか」
馬車の扉が開き、まず降りてきたのはプレートアーマーを立派に装着した二人の騎士。
彼らは扉の両端に立ち、続くように一人の人物が出てくる。
灰色の髪を三つ編みに束ね、黒を基調とした衣装の人物。10代半ばくらいにしか見えない少女であった。
右手には銅色のランタンを持っており、中に灯る炎は青色に見える。
少女はこちらに歩いてくると、ブルベルに告げた。
「あなた方はイーゼル共和国の騎士団ですか?」
「いかにも。そちらはわざわざ聖ルミナからお越しになったらしいな、それほどの事案なのか?」
少女は何も言わずにしゃがみ込み、近くに転がる頭蓋骨を左手で持ち上げた。頭蓋骨の歯にはべったりと血が付いている。
「ええ、そうよ。ここからは我々教会が現場を引き継ぐ、早急に撤収して」
「なんだよ....勅令もなしにそれは無理だな。国家を舐めてもらっちゃ困る」
「こちらに権限があるのは知っているのでしょう? 不満があるなら勝手に教会に申し立てて....ん、あの人は?」
少女は二人の兵士に運ばれる生存者を見て問うた。
「ああ、“生存者”だ。残念ながら既に治療の手配は済んでいるがな」
「なるほどね....では取引よ、調査は共同で行いましょう。“生存者”はこちらに預けてちょうだい」
ブルベルは鼻で笑った。
「交渉成立だ....まあ、今は生きているが10分後にはわからない状態だぜ」
「騙したのね」
「嘘は一つも言ってない」
「まあいいわ、こちらには優秀な治癒魔術師がいる」
「悔しがりか?」
――「よく言えたわね」
「そうだ、名前を教えてちょうだい。上への報告で必要」
「ブルベルだ、苗字は勝手に調べな。そちらは?」
「ペルキューダよ」
「ペルキューダか....それで、単なるアンデッド被害じゃないと言うのか?」
「答える義務はないわ」
「つれないね」
「捜索は邪魔しないでね。あと、“生存者”も死ぬ前にこちらへ運んで」
「はいよ」
それから数十分、捜索は続いた。生存者はやはり見つからない。
“生存者”も馬車で運ばれたきり、ブルベルにはただのアンデッドによる襲撃に思えた。確かにここらでのスケルトンの出没は稀有な事象、されども特別な何かがあるようには見えなかった。
だが、状況を変えたのは一つの知らせであった。
大地を掻きむしるほどの荒い蹄の音、身なりの乏しい農夫が馬に乗ってブルベル、ペルキューダの前に現れた。
「騎士の方々!大変です、一帯の墓がほぼ全て掘り返されています!」
瓦礫をいじっていたペルキューダは、にんまりとした笑顔をブルベルの向けた。
「ただ事じゃねえな....」




