表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミントは世界を楽園に!  作者: 溟yuu
教団のはじまり
11/29

第11話 その子の母親

 シャンパンは飲み干され、へスター・ベヒトルスハイムは空のグラスを退屈そうに揺らした。


 「レオンはまだなのぉ....?」


 誰かが廊下の影が部屋の前を通り過ぎる。


 「レオン〜、やっと?酔いが覚めちゃうところだったよ」


 酔ったへスターは前ふらふらと立ち上がり、廊下に出た。


 並んだ窓ガラス、月光の差し入る廊下に佇んでいたのは一人の子供。


 暗さと後ろ姿では誰かまでは分からないが、娘の一人が深夜まで起きているとは、へスターは憤りを覚えた。


 「ベル? それともロー? なんでこんな時間まで起きてるのよ!」


 その子供は、ゆっくりと振り向いた。そして氷のように冷たい眼差しで彼女を見つめる。


 「え....エクサ....?」


 月光が彼女の顔に当たる。陶器のような素肌からは骨が透けて見えた。


 (あや)しくも美しい死の模様、へスターは目を疑った。同時に少女が11年前に死した自分の娘だということを確信する。


 そしてへスターの横目に映る、窓の外で列を成す死者たち。もう既に逃げ場などないことを示していた。


 彼女は咄嗟に手に持っているグラスをエクサに投げつける。


 「墓に帰れゴミクズ!」


 恐怖と食い意地。それらが下衆にも酔いと合わさり、虚構の鬱憤を生んだ。


 「気持ち悪い....怨念ぶら下げて戻ってきたのか?!ほら殺してみなさいよ!」


 いつだって子供は親を信じたい、そんな淡い希望がエクサの奥底に残っていたのだろう。


 エクサは何も言わずに立っていた、震えながらじっと涙を堪える。母の口から飛び出す有象無象の言葉を一つ一つ受け止めた。


 やがて狂乱に満ちた母親は、廊下の机に置かれていた白い壺を手で振り上げる。

 

 「....あんたなんか! もう一度殺してやる!!」


 金切り声が廊下に響き、それをエクサ目掛けて振り下ろそうとした。

 ――その瞬間、壺はぱらぱらと砕けた。


 そして、窓際に姿を現した一人の少女がその紅い瞳を光らせる。


 ミントであった。彼女の両隣にはスケルトンが(はべ)っている。


 「エクサの....泣いてるところはあまり見たくない」


 へスターは少女の不思議な気配に後ずさりした。


 「....なんなのよ、お前!」


 「わたしはその子の母親」


 ミントは窓際から飛び降りて、黙ってエクサの手を取る。そしてへスターに背を向けて歩き出した。


 「....行きましょう、エクサ」


 「何を言っているの....その子の母親はわt....」


 背後に現れたスケルトンがへスターの口を強く塞いだ。


 ミントは口を開く。


 「いいよ....別に、何を言わせても」


 スケルトンは手をどけて、ただへスターを見つめる。


 「私は、どうすれば....?」


 へスターは震えた声で言う。


 ミントはエクサの手を繋いだまま、去り際に言う。


 「あなたのことは知らないよ」


 2体のスケルトンはへスターに一歩ずつ近づいて行った。怯える彼女に慈悲はない。


 「やめて....助けてぇ!!」


 その夜に響いた、最後の悲鳴であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ