第6話 復活のとき
鼓動がどくどくと聞こえた。わたしを突き飛ばす衝撃、トラックに轢かれた転生前を思い出す。
苦しい....痛い....痛い。
今回は明確な痛みがあった。そして仰向けに倒れたわたしの顔を頭上から覗き込む、一つの影。
この花の香り、この不自然なほどの安らぎ。
「“メメント・モリ”....」
またこのせん妄か。
「汝がやるべきことはただ一つ、我を愛して我に成るべきだった」
ため息の後に彼女は続ける。
「....初めての情熱を捨てたな」
「....この人生も悪くないと思ってしまった」
「ふん。運命はそう甘くなかった。この世界は我を、汝を、あの景色を欲しているぞ」
「なぜわたしを....?」
「分かってるだろう、特別だからだ」
「特別....? どういうこと?」
「愚か者、自分で考えろ」
会話は短く終わった。十分な感じがして....でも心は痛かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「安心しろ。今打ち込んだのはアンデッドに“必殺”の弾だ」
「バッハ神父....あなたも“聖域”上がりだったのですか?」
「はぁ? 今更どうでもいいだろうが」
神父は蝋燭を持ったまま涙を流すルチアに言う。
「というか....早くそのガキを燃やせ女」
「はっ....はい」
――「誰を燃やすの」
再び声がした。同時に布越しでもわかるくらいに、エクサの瞳が紅く発光。
「まじかよ....早く火をつけろ!」
しかし、もうすでに立ち上がっていたエクサはルチアの首を鷲掴みにしている。
刃物のように鋭利な爪はルチアの喉に食い込み、その人間離れした力はもがくルチアを離さない。
神父は素早くエクサを目掛けて引き金を3回引く。
――彼女は瞬間移動をするかのようにして左右に全て躱した。
流れ弾の2発はルチアの腹部を貫き、彼女は倒れた。血飛沫はイルミニャス像を濡らす。
エクサは一歩ずつ近づいてくる。
倒れた蝋燭は床に引火し、ゆっくりと油の足跡を伝って広がっていく。たちまちの恐怖に司祭たちは雪崩れるように逃げていった。
「....!!」
そこで神父は嫌な気配を感じ取る。すかさずミントの方へと銃口を向けた。ミントもまた、紅い瞳を光らせながらこちらに向かって来ている。
彼女の目からは涙が流れていた。
そしてどうしてか、神父はその引き金を引けなかった。まるで力が入らないのだ。
そうこうしているうちに、神父の拳銃を持っていた手首はエクサに掴まれていた。
「くそ....いつの間に?!」
ここからは意地だ。拳銃を奪われまいと神父は歯を軋ませながらエクサを蹴り飛ばす。
軽い体重もあってか、3メートルほどの距離が空いた。
すぐにエクサは起き上がる。神父も応えるかのように拳銃を向けた。
(一歩でも向かってこい....頭を吹き飛ばしてやる)
鼓動が高まり、心臓の血管が弾け飛びそうであった。
....だが、拍子を変えたエクサはすっと踵を返して、ミントの方へと歩いていくのだった。
「なんだ....?」
胸の傷の痛みでうずくまるミントにエクサが駆け寄る。ついに油まみれの彼女に教会の炎が移り、けたたましい炎に燃え上がった。
そして焼け落ちる白い頭巾は炎の冠のようになって、彼女の表情を明るみにする。
「笑ってるのか....?」
神父の拳銃を構える手は震えた。そして涙を流すミントの口元は笑みへと変わり、神父と目が合う。
――「うあああああ!!」
悲痛の声が聞こえる。大きな扉の向こうに見えるのは、幾多もの骸骨に襲われる司祭たち。
やがて最後の1人が喉を噛みちぎられると、骸骨たちは神父の存在に気づいた。
骸骨たちは、ミントとエクサを避けて神父の方へと全速力で走ってゆく。
神父の頭の中が不気味なほど静かになった。自身の荒い呼吸だけが聞こえる。
額に汗を浮かべ、骸骨たちに向けて発砲をした。けれども構わずその群れはやってきた。最後に彼の目に焼きつくのは笑顔の骸骨たち。
苦痛の声を上げる間も無く、彼は屍の波に呑まれるのだった。




