第4話 間違いなくゾンビ
足首を掴んだその腕の力は強く、わたしは顔から転んでしまった。
手はしっかりとわたしの足を掴んだまま、地面から這い出でる。
全身を見せたのは土に塗れた何か。
間違いない、ゾンビだ。
恐怖を顔に浮かべたわたしの方を見ている様子だったが、すぐに動きを止めた。そして数秒の静寂ののち、ゾンビはブルブルと犬のように頭を振る。
土の粒は無尽に飛び散り、わたしは目を覆い隠した。
「あれ? ここは?」
ゾンビの方から声がする。わたしはおそるおそる目を開けた。
そこにいたのは生き血を欲さんとする腐った死体!....ではなく、桃髪の明るい表情をした少女だった。同い年くらいだろうか。白のワンピースに身を包み、とても幼く見えた。
「....ゾンビ?」
「ゾンビとは失礼! わたしはエクサ・ベヒトルスハイム、人間よ!」
「エクサ....人間....?」
「うん、ところであなたは?」
彼女はまじまじとわたしの顔を眺めた。
「赤い目....ネコの耳....」
そして叫ぶ。
「ま、魔物....アンデッド?!」
「魔物はそっちでしょ。土から出てくるなんてゾンビみたい」
「え?わたし土から出てきたの?」
変だ、この子の現れ方はゾンビそのもの。なのに全くその気配は感じられない、ごく普通の少女だ。
「覚えてないの?」
「うーーーん。あー、そうかそうか」
彼女は深く考え込んだ、そしてその末に出た答えは。
「まったく覚えてないね」
「ああ、そう....」
「うん、でもどこから来たかは覚えてるよ。たしか....」
「たしか....?」
「あれ、思い出せないなぁ」
「....なんなの」
「まあいいや、あなたは誰?」
「わたしはミント」
「ここは?」
「ここは墓地」
「墓地....なんで墓地にいるの、地名が知りたいのよ」
「家の外なんてわからない」
「家は?」
わたしは林の近くの家を指差した。
「こんなに寒いのに、なんで外にいるの?」
「いまは追い出されてる」
「あら....どうすればいいんだろ」
「うちにくる?」
「....追い出されてるんじゃないの?」
「なんとかしてみる」
「やった」
「うん、わたしも寒い」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ごめんミント、さっきは....」
母親のルチアは少し気まずそうに扉を開けた、暖かい部屋の陽気が2人を包み込む。
「誰?」
ルチアはエクサを怪訝に見つめた。
「迷子らしい、今日だけうちに居てもいい?」
「ああ....いいわよミント、ご飯も少しだけどあるよ」
ルチアは2つの木製の皿に温かいスープを注いで、ミントとエクサの前の食卓に並べた。
残りのスープは小さい陶器に。
ミントとエクサは椅子に座り、ルチアは玄関の木箱をひっくり返してその上に座った。
「色々と覚えてないんだって」
「お家はどこか覚えてる?」
「いえ、ミントちゃんのお母様....」
「あら、礼儀が正しいのね....明日街にでも行って聞きにいきましょうか。ミントも来る?」
「え、いいの? ルチア」
ルチアはミントと目を合わせて頷いた。
「それで、お名前は?」
「エクサ....ベヒトルスハイムって言います」
「ベヒトルスハイム....」
ルチアは俯き、暗い表情でそう呟いた。
「ルチア....?」
「ええ....大丈夫よ。いきましょう、今夜はもう寝ようか」
ぐっすりと眠る2人をルチアは食卓から見つめた。
「....なんでこんなことに」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その晩、月明かりが眩しく彼女を照らした。ルチアは石畳の上を震えた足でゆっくりと歩く。
いつもは紅い唇も枯れたように乾き、その顔は青白い。
手には白い布に包まれた少女を抱えていた。布には赤黒い血が染み込み、滴っていた。




