第27話 信条に駆られて
「その剣は、魔術で固めたものか? フィストを使うのかと思っていたぜ」
エクサの手に握られているのは赤色に煌めく剣。瞬間移動のように男に接近。そして杖と剣が打ち付け合う。
火花を散らした鍔迫り合いの最中、エクサは自慢のようにいう。
「威力も自由に変えられるしね!」
赤色の剣は眩しく光だす。杖ごと押し除けられて、男は後方に吹き飛ばされる。
空中で男はすぐに体勢を立て直し、床杖を立てて、タイルを削りながら減速した。
聖堂の正面、イルミニャス像の前で男は停止。
――彼とエクサの間には数十メートルの距離が開いた。
「その剣が純粋な魔術でできているがゆえにその量をたやすく調整できうるわけか」
「ルゾルコスの教団にはない技術なのかな」
「手土産にはちょうどいい....」
男は杖を地面に叩きつけるとつぶやいた。
「怠惰な節制」
青色の光のドームが男を中心に広がっていった。反応する間も無く、エクサもその領域に飲み込まれた。
――体感に変化はない。
「無条件のデバフかな、注意しないと」
次に男の、長い杖の先が青色に発光する。そして青い光球が弾幕のように一斉に放たれた。
十分な時間。数十発の光球が矢のように飛んで来る、杖の先一点からの放出なので近づけばモロに食らう。
「しかたないな....」
男との距離を縮めるのは諦めて、光球の着弾点を見極めた。すぐに光球は、大砲のような音を鳴らしながら聖堂の壁や床を砕いていった。
質量を持った雨をエクサは躱わす、破片や埃が周囲を舞う。
数秒後。それらの音が止むと同時にエクサは剣を振る。風を起こして周囲の煙を吹き飛ばした。
「増えてる....?」
イルミニャス像の前で佇んでいるはずの男は、横一列に並ぶ5人へと増えていた。エクサが凝視をしてもまるで見分けがつかない。
「奴の能力は何かしらのバフではなかったのか! いいや.....」
周囲にはハエが飛び回っている。
「加護か」
加護とは、己が魔術の一部を信徒に使わせることができるというもの。
奴らの主人であるルゾルコスのハエ魔術。それを寄せ集め、男は自身のデコイを作っていた....ってところだろうか。
「どれが本物!」
隙もなく、すぐにエクサの背後から嘲笑の混じった声がする。
「到着ぅう」
男はエクサの肩にそっと触れた。彼女の脳内は疑問で渦巻いてゆく。
――加護を行使されることは別になんともない、デコイに攻撃力はないだろう。
しかし弾幕の途中に自身の背後に回る余裕などなかったはず。
たとえそれが可能だったとしても、自身の背後に周り切るまで気づかないはずがない。
エクサは土壇場で赤色の剣を背後に振るう。横目だが男の胴体を確実に捉えた。
――しかし、剣が男の身体がまるで幽霊であったかのようにすり抜けてゆく。
そこからバサバサとコウモリが飛び出した。そのまま男の全身がコウモリとなって、イルミニャス像の前のデコイ集団に紛れた。
既にどれが本物かがわからない。
「西のヴァンパイアね。全身をコウモリに変えられるなんて固有能力、噂でしか聞いたことがないよ」
そしてバフ行為の後に触れられたことで、エクサの体に今度は確実な変化があった。
――身体が重いのだ。水中を動くときのように体の一動作一動作が鈍い。
「自分の身を案じたらどうだ? 俺の魔術のせいで鈍っているだろう、体の動きが遅いだろう」
横一列に並んだ男らの杖、青く光ってゆく。またあの弾幕だろう。どこから飛んでくるかわからない、それ以上にこの体でまともに避けられるはずがない。
やがて青い光が臨界点を迎えたところで、エクサは口を開く。
「私の大切な人もヴァンパイアなの、でも....あなたより可愛い」
その時、スケルトンの大群が扉の向こうから押し寄せる。
「使わせてもらうよミントちゃん....あなたの“加護”を」
エクサの瞳が紅く光った。




