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ミントは世界を楽園に!  作者: 溟yuu
爆発的パーティー
26/29

第26話 黒の方々

 黒い外装の大聖堂。ぎぎぎと重苦しい音で扉は開く。入場するのはエクサたった一人だ。


 だだっ広いチャペルに整列された椅子の数々。墨のような少し油っぽい匂いが漂っており、人の気配はまるでない。


 こつこつとエクサの足音が響く。


 「エクサ....ベヒトルスハイムだな」


 いつのまにか席の一つに誰かが座っていた。黒いローブに顔を隠した男だ。


 「あれれ、先客がいたのね」


 男は大聖堂に低く響き渡るような野太い声で答える。


 「兼ねがね噂は聞いているぞ。

世界の半分を消し炭にできるほどの凄まじい魔術のことも....お前の“余命”のことも」


 「詳しいね、いったいどこから情報漏れちゃったのだろ」


 「聞けば聞くほど惚れ惚れするぜ....俺くらいであれば簡単に殺れるだろう、何もしないのか?」


 「あいにく下手には目立ちたくないんだよね」


 「イルミニャス教会か....お互い様だな」


 「一個だけ教えて欲しいんだけど、蝿の女王“ルゾルコス”が現れたって本当?」


 「ああ、数年の呼び出しにも応じなかったのに、お前らのミントが姿を出すのと同時にいらっしゃった。

ちなみにミントは殺してブタの餌にする予定だぜ、イラつくか?」


 ――男は大きな魔術の杖を構えた。


 「いいや、楽に死んでもらっては困るなって」


 ――エクサの手には炎がまとわりついた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 イーゼルの宿にて。


 わたし、ミントにはお金がない。ばか高いスナイパーは無料で譲ってもらったものの、スケルトンたちに細かい武器を買っていたら、いつのまにか財布が軽くなっている。


 キョンシーディスカウントが30%、わりと値引きをしてもらったので今更文句はなし。ベヒトルスハイム家からのお小遣いにも頼ってるわけにはいかないしなぁ....。


 しばらく滞在する予定のこの宿は、上の階の足音が非常に響くワンベッドと机だけ。日光もまともに入ってこないしご飯に関しては格別にまずい....けれども虫がいない!


 なんならそれが一番重要かもしれない、どんなにサービスが素晴らしい高級ホテルでも虫がいたら本末転倒。埃やススもないし、清潔感は値段の割にある方だ、正直かなりのアタリ。


 わたしはあまり寝心地のよくないベッドに横たわった。


 「....ってあれ?」


 ぶぅんと羽音が聞こえる。褒めたばかりなのに、空気も読めずにハエが登場したのだ。まあいい、ハエ1匹くらいはノーカウントとしてやろう。


 「おいおい....」


 部屋の中のハエがいつのまにか3匹、いや4匹となっている。


 「ええ....フロントに行くべきか? というかいつの間に.....」


 下の階のフロアのおじさんに言おう、部屋を変えてもらうしかないな。小さな部屋を出て、暗い階段を降りる。


 ――階段のすぐそこ、フロントには誰もいない。


 「いないのか」


 フロントのカウンターを覗き込んだ、ハエ叩きがあれば良いのだが....


 「ないな」


 とぼとぼと階段を登って部屋に戻る。廊下にも何匹かのハエがいた。まあハエは嫌いの部類に入るが、特別苦手なわけではない。にしてもこれだけいたら汚いな....


 早めにチェックアウトしよう。とりあえず部屋にいるの個体はどうにかしたいな。


 ルチアと一緒に住んでいた頃からハエはよく見る虫だが、窓を開けてもなかなか出て行かないんだよな。


 よし、ハエ叩きがないのであれば作れば良い!


 どろどろで真っ黒の魔術が手のひらから滴る。それを握り、だんだんとハエ叩きの形に整形してゆく。


 完成だ。長い持ち手に平たい網目。さっそく食らわせてやろうではないか。


 「喰らえっ!」


 壁に止まった1匹のハエに狙いを定めて、(個人的に)凄まじいスピードで叩きつけた。


 ――しかしハエが網目を潜り抜けて、ひょろひょろと飛び立っていった。


 「あれ、当たんなかった?」


 それから何度も4匹のハエを目掛けて渾身の一撃を喰らわせたつもりだった。でも、毎度網目を潜り抜けてしまう。


 魔術を込めても全く効いている様子はない。いかがなものかと頭を抱えた。


 「鬱陶しい、窓の外に誘導すればいいか」


 魔術で形成したハエ叩きは瓦解して、そのまま風の一部となって消えた。わたしは窓に近づき、金具が噛み合っていない持ち手を掴んで力一杯に持ち上げた。


 がしゃりと窓は開いた。引き戸タイプの窓が現代にはほとんどない理由がよくわかる。


 「え、え?」


 窓の外には絶望的な風景が広がっていた。塵のような黒い粒が縦横無尽に飛び回っていた。火山灰とも見間違えるような、ハエの嵐であった。


 「きも!!!!」

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