第25話 羽音は近くなる
「獄獄、ボスに必要なのは手数じゃないか? あんたが好きなような....まあ私も好きだけどびっくり箱みたいな武器じゃないのが良さそう」
「ギガ、それは許せない! ミント様こそ素晴らしい武器を持つべきなのです!」
獄獄は剣に変形する斧を高々と持ち上げた。
「その《《素晴らしい武器》》のせいでボスが怪我でもされたら、どうすんの? あぁ?」
「ミント様の安全が最優先....なのです....」
結局、スケルトンたちは各々の武器を手に入れた。とくに人気であったのは魔術のステッキ、向けた方向に弾丸のような光子を放つというシンプルながらも使いやすい武器である。
他にも剣やら手榴弾なども購入した。けれどもミントの武器だけはなかなか決まらない。
これまでは魔術と信徒の命に頼りっぱなしであった。ずっとそうやっているわけにはいかないので、武器が必要なのだがどのような武器を持つべきかがわからない。
「ボスは何にするのですか?」
「わからない....ギガは何を買いにきたの?」
「今日は定期購入している特注の火矢を受け取りにきたんです。
まあ、私は魔術のおかげで武器でさえあれば何でも持つことができるので、普段はここの奇天烈な武器を買います」
「いい魔術だね、火矢のサブスクなんてあるのね」
「“さぶすく?”」
「何でもないよ」
――「でもやっぱりミント様は剣なのです!英雄復活のときも魔術の剣を持っていたの、みんなも眺めてましたよ!」
「でもボスが前に出て戦うことはないだろ」
「そうか....んん〜、あっ!」
獄獄は飛び跳ねた。
「取って来るのです!」
そのまま獄獄は薄暗い店の奥へと走っていった。
(あ、ふつうに走るんだ)
その時。ぶぅん、とミントの耳元で聞こえた。すれすれで濁点のついた不快な音が舞い続ける。
右へと左へと、うざったくミントとギガの周りを飛行した。
「ハエかよ。獄獄のやつ、いい加減店を片付けろよ....」
「ほんと、綺麗にすべき」
そしてうきうきとした足取りで獄獄がやって来る。両手で何やらを抱えていた。
――銃である。彼女の身長と同じくらい、マットな質感、黒の銃身のところどころに紫色の魔石が装着されている。スコープなどもついており、見るからに重厚感漂うボディ。
それを掲げて言う。
「魔石誘導砲ラベンデュラ!! これが打ち出す威力は.....」
そこで例の如く獄獄は硬直した。
....
「この人、いつも硬直するの?」
「まじでよく固まります」
そして動き出した。
――「ハ....ハエなのです!!! 食われるう!」
「え?」
「やべ、伏せろ!」
ラベンデュラの魔石が眩く光りだし、瞬く間に光線が放たれた。店内には粉塵が舞っており、ハエは跡形もなく消えた。
間一髪でギガはミントに覆い被さり、難を逃れる。
「安心なのです....」
「てめぇ! 己のボスを殺す気か!」
ギガは拳を構えた。
「ひぇっ?!」
ミントは自身についたホコリを振り払いながら立ち上がる。振り向くと店の表の壁に大きな穴が空いていた。
「すごい威力、わたしもマグ・メルを使わなくて良さそう」
「ごめん....なのです、ミント様」
獄獄は俯き、もじもじと謝った。
「大丈夫だよ獄獄、キョンシーは死体だから食べられちゃうかもしれないしね。それで、そのラベンデュラはいくらなの」
「これは250万ゴ....」
――「わたしを消し飛ばしそうになったこの銃が欲しいなって、エクサに言わないと」
「あ....はい、差し上げますなのです....」
ミントは獄獄に顔を近づけ、妖しい笑みを浮かべながら指で彼女の唇に触れた。
「ありがと、ゆーゆー」
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エクサたち馬車の列は平原を超えてとある都市に到着していた。沈みそうな夕日とどこか物静かな街。
エクサは馬車の窓を覗き込んだ。
「誰もいないね、テラ」
「ええ。異臭もします、警戒準備をしてもよろしいかと」
「警戒準備はしてあるよ」
小さな火の粒がエクサの手袋の周りを飛んでいた。彼女はじっとそれを眺める。
「イルミニャス聖典の悪魔....蝿の女王、“ルゾルコス”」
テラの目を見て続ける。
「....関わってたりしない?」




