第24話 はえー!
エクサたち教団の部隊は東の地へと赴いていた。目的は目覚めた“英雄”の安全な場所への移送。
ミントの発言からその存在がヴァニタスよりもはるかに重要であるとエクサは察した。
部下のダークエルフ・テラをはじめとした主力を引き連れる、馬車の数は30以上にも及び、いまだ回復中の英雄を運び行進する。
平原の夕方、エクサの軍服を風が揺らし、馬車の上で周囲を見守っていた。
「ねえテラ、ちょっと来て」
車内で座っていたテラはその屋根に飛び乗る。
「お呼びですか、エクサ様」
「テラって目が良いんだっけ」
「はい、私達ダークエルフは数里先の本の文字だって見えます。フォルス・エイダの山岳地で暮らしていたわけですから」
エクサは前方の丘を指差した。
「向こうに見えるのって、あれは人?」
――「人と言えば人ですが....あれらは死体です」
「そっか、ありがと」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
馬車の列が近づくと、その全貌が明らかになった。数十名の銀色の鎧を纏った兵士たちの死体である。無数のハエがたかり、その場からは粘っこいような異臭がした。
「うわぁ....やだね」
彼らの盾に描かれた模様は周辺国のもの。馬車の列は止まり、それをエクサは屋根の上から眺めた。
「スケルトン部隊! 何をしている!」
テラの怒号が周囲に響き渡った。馬車の中で怯えているスケルトン兵士たちは縮こまってカタカタと震えている。
「死体が怖いの? まじ?」
「いえ。スケルトンたちは普段かた死体の調査などもしておりますので、そんなはずは」
「もしかしてハエが怖い?」
「ハエなのか? たかがハエ?」
テラがスケルトンたちに問うと彼らは一斉に頷いた。
「仕方ないね。私達が調べよ、テラ」
「はあ....承知しました」
エクサは馬車を飛び降りて、何の音も立てずに着地した。テラと二人で異臭の中、兵士たちを調べていく。
「にしてもハエが多いね、気持ち悪いー」
テラは指で息絶えた兵士の頬を押した。
「まだハリがある、彼らが死んでからそこまで経っていないようです。ハエのたかり様も異常です」
「死体に一切の傷がない、嫌な予感がするよテラ。まさかだけどさ....」
エクサはテラを見つめた。
「ええ....必要ないのでは?」
「....」
「私だってハエは気持ち悪いですよ、エクサ様」
エクサは笑顔で見つめ続ける。
「あーもう、やりますよ!」
「えぇ?! やってくれるの?」
エクサはわざとらしい猫撫で声で言った。
「....なんてパワハラだ」
「え。なんか言った?」
「いいえ」
エクサはいつのまにか早く馬車に戻っており、その扉と数重の鍵を閉めていった。テラはその様子を睨むと、死んだ兵士の口を手でこじ開ける。
――まるで黒い風のように、何百、何千ものハエがその口より飛び出した。
「うわわわぁ!!」
テラはそのおぞましい光景に腰を抜かした。ハエは周囲を縦横無尽に飛び回って、テラは目に涙を浮かべる。
「テラ、ごめんよ」
テラは腰を抜かしたままエクサの隣の馬車に這い上がる。
....この日からテラの悪夢には毎回ハエが現れるようになるのだった。




