第15話 親愛なる誘い
「ベヒトルスハイム....!」
思わずバッハは立ち上がる。
「どうした。何か知ってるのか?」
バッハは自分の顔についた2つの傷を指差しながら言った。
「この傷の原因だ」
「大事だな」
「ベヒトルスハイムが出資してる修道院が他にもあるか調べてくれ」
「んーー、同名義なのがもう1つだ」
「そこに兵を集めてくれ、頼めるか?」
「確証があるのか?」
「ああ、“必ず”そこにやってくる。」
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修道院の周りを兵たちが囲った。その向かいのカフェでバッハとジャスパーは現場を監視していた。
「なかなか....来ないな」
「辛抱強く待て」
「兵を堂々と並べてるからじゃないか?流石に....」
「人を愚弄するような奴らだ、挑戦だと受け取るだろう」
「わかったよ! あと1時間は居てやるよ」
-3時間後-
すっかり暗くなって、疲弊した兵士たちを見たジャスパーは言う。
「あの....そろそろ兵たち連れて帰るわ」
「奴らが現れたらどうするんだ」
ため息を漏らして、ジャスパーは立ち上がった。
「頑固な野郎だ....ペルキューダには黙っといてやるから今日は大人しく引こうぜ」
対してバッハはゆっくりと紅茶を嗜んでいた。
「ああ。俺はまだここにいる」
「ご自由にどうぞ」
それから数時間が経とうとも、誰かが現れる気配はない。気になって数分に一度は墓場を見に行っても、何も変化はない。
とうとう怒りが込み上がってきたのはジャスパー達が去って3時間の頃。ぼーっと変化のない墓を見ている時だった。
「クソ....アンデッドめ!」
この時は怒りに任せて墓標を蹴り飛ばそうとした、けれども寸前で脚を止める。修道院の窓から覗き込む子供たちが怪訝に自分を見つめていたからだ。
「ふーー....」
息を大きく吐いて冷静さを取り戻した。彼は襟を正し、そそくさと立ち去った。
「コケにしやがったか....」
――「ねえ」
背後から声がした。バッハは足音を止めて、呆れるように振り返った。
壊れてチカチカとする街灯の下。
不気味に光る赤いツノ、尖った尻尾の生えた黒髪の少年がそこに立っていた。スーツ姿の彼はバッハと目が合うとニヤリと笑みを浮かべる。
「悪魔か....小賢しいな。こちらの信用を完全に失わせたところでの登場か」
「....明後日午後7時より、王都で祝議が執り行われます」
少年は白い封筒のようなものを飛ばして、バッハはそれを受け取る。
「ミントちゃんはあなたを招待したいそうです....詳細はそこに」
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歩きながらバッハは封筒の表裏を確認した。魔法陣のような模様が描かれており、彼は舌打ちをする。
「この手紙を誰かに渡そうとした時点で、焼かれて消えるんだろうな」
封筒を破き、中に書いてあったのは集合時間とディナー、それから祝杯の詳細。バッハはなんたるVIP対応に妙な苛立ちを覚える。
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部署に戻ったバッハはやけに静かだった。当然怪しむのは監察官のジャスパー。
「何かあったのか?」
下手に彼らを巻き込めば、どうなるかは想像に難くない。あの悪魔の少年の表情が脳裏に浮かぶ。
「いいや....何もない。本当にだ」




