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ミントは世界を楽園に!  作者: 溟yuu
教団のはじまり
14/29

第14話 アンデッドにはお気をつけて

 イーゼルの市街地、寂しげな修道院に一人の少女が訪れた。


 「あら、侯爵のお嬢様でいらっしゃるようですね」


 「ええ、父に修道院の手伝いをと言われまして」


 「“かわいい子には旅をさせよ”ですかね。では子供たちに紹介するわ」


 ぞろぞろと集まる修道院の子供たちは目を丸くした。


 「今日から数日間よろしくね、リン・ペネイラって言います」


 ――「リンお姉ちゃんって呼んでいい?」


 ――「あそぼ!」


 修道院は内戦で親を失った子供を引き取っていた。そこでの彼女の存在は灯火のようだった。


 3日が過ぎた頃、子供達に惜しまれながら修道院を去る。泣く子だっていた。


 たまに寄り添い、不思議な遊びだっていっぱい教えてくれた。リンが子供たちに教えた“おにごっこ”という遊びは特に人気。


 「もう旅立ってしまうの? 寂しいわリンちゃん」


 「また会えますよ」


 「つぎは旧市街地の修道院に行かれるのでしたっけ?」


 「ええ」


 「イルミニャス様のご加護を....」


 「ありがとうございます。それと....最近は増えてるみたいなので“アンデッドにはお気をつけて”」


 次の修道院でも子供たちに尊敬される姉となった。落ち着いた口調なのに、包み込まれる母親のような居心地を感じる。


 「リンお姉ちゃん、どこかに行っちゃうの?」


 「わたしはいつでも近くにいるよ」


 「子供たちも惜しいみたい....また来てねリンさん」


 「ええ、“アンデッドにはお気をつけて”」


 その次も、またその次も。3日おきに修道院を移動した。


 “アンデッドにはお気をつけて”

 ――彼女はそう残して去っていく。


 彼女は5番目の修道院を後にした。濃い霧の日だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 通報があったのはその夕方。シワひとつない襟付きを着た監察官は男に言う。


 「バッハ、お前の好きな案件だぜ」


 バッハはサングラスを拭きながら気だるげに言う。


 「どうせくだらねえ....また酒泥棒か?」


 「墓荒らしだよ。数件の」


 「へえ、面白いじゃねえか」


 教会の気まぐれ聖務監察官がイーゼルの旧市街へと足を運ぶ。彼の顔には大きな傷跡が二つ。


 「遺体が数体なくなっていますね」


 「神父さん....やっぱりアンデッドなのでしょうか....」


 バッハは掘り起こされた棺の金具を手で触りながら答える。


 「棺が中から開けられています。“ネクロマンサー”でしょう。

ただ、ここらでの出没はよくあることです....駆除業者を呼びます」


 「最近は増えてるみたいで....本当、恐ろしいです」


 「そうなのですか。それは誰から聞いたのです?」


 「数日前までここで手伝いをしていた貴族の女の子です」


 「名前は?」


 「リン....ペネイラって子です」


 それ以上の手がかりはなくて、自分の部署へと戻っていった。


 「駆除業者をあの修道院に手配してやってくれ」


 「駆除対象は“ネクロマンサー”でいいのか?」


 「ああ、問題ない」


 翌日も同様の通報があった。また別の修道院である。そこも同じく“リン・ペネイラ”という貴族の娘が宿泊していたそうだ。


 「リン・ペネイラ....この名前に聞き覚えは?」


 「ないね。調べようか?」


 「頼む、ジャスパー」


 同日の黄昏時、別の修道院でも墓荒らしの被害があった。そして同様の名前が浮かぶ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「その“リン・ペネイラ”はいくら調べても出てこないね」


 「ネクロマンサー....アンデッド風情が人間に化けてやがるのか」


 「東方の狐のアンデッドも人に化けるらしいぞ。でも馬鹿だよなぁ、貴族に化けるなんて。嘘をついてるって秒でバレるのに」


 監察官のジャスパーは、部下からいくつかの資料を渡される。


 「お....」


 椅子にふんぞり返るように座ったままバッハは言う。


 「なんだよ、いい情報でもあったか?」


 「お前が行った修道院はどれも、同じ貴族が出資してるな」


 「ほう、なんて貴族だ?」


 「なんて読むんだこれ。ベヒ....ベヒトルスハイム?」

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