第14話 アンデッドにはお気をつけて
イーゼルの市街地、寂しげな修道院に一人の少女が訪れた。
「あら、侯爵のお嬢様でいらっしゃるようですね」
「ええ、父に修道院の手伝いをと言われまして」
「“かわいい子には旅をさせよ”ですかね。では子供たちに紹介するわ」
ぞろぞろと集まる修道院の子供たちは目を丸くした。
「今日から数日間よろしくね、リン・ペネイラって言います」
――「リンお姉ちゃんって呼んでいい?」
――「あそぼ!」
修道院は内戦で親を失った子供を引き取っていた。そこでの彼女の存在は灯火のようだった。
3日が過ぎた頃、子供達に惜しまれながら修道院を去る。泣く子だっていた。
たまに寄り添い、不思議な遊びだっていっぱい教えてくれた。リンが子供たちに教えた“おにごっこ”という遊びは特に人気。
「もう旅立ってしまうの? 寂しいわリンちゃん」
「また会えますよ」
「つぎは旧市街地の修道院に行かれるのでしたっけ?」
「ええ」
「イルミニャス様のご加護を....」
「ありがとうございます。それと....最近は増えてるみたいなので“アンデッドにはお気をつけて”」
次の修道院でも子供たちに尊敬される姉となった。落ち着いた口調なのに、包み込まれる母親のような居心地を感じる。
「リンお姉ちゃん、どこかに行っちゃうの?」
「わたしはいつでも近くにいるよ」
「子供たちも惜しいみたい....また来てねリンさん」
「ええ、“アンデッドにはお気をつけて”」
その次も、またその次も。3日おきに修道院を移動した。
“アンデッドにはお気をつけて”
――彼女はそう残して去っていく。
彼女は5番目の修道院を後にした。濃い霧の日だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
通報があったのはその夕方。シワひとつない襟付きを着た監察官は男に言う。
「バッハ、お前の好きな案件だぜ」
バッハはサングラスを拭きながら気だるげに言う。
「どうせくだらねえ....また酒泥棒か?」
「墓荒らしだよ。数件の」
「へえ、面白いじゃねえか」
教会の気まぐれ聖務監察官がイーゼルの旧市街へと足を運ぶ。彼の顔には大きな傷跡が二つ。
「遺体が数体なくなっていますね」
「神父さん....やっぱりアンデッドなのでしょうか....」
バッハは掘り起こされた棺の金具を手で触りながら答える。
「棺が中から開けられています。“ネクロマンサー”でしょう。
ただ、ここらでの出没はよくあることです....駆除業者を呼びます」
「最近は増えてるみたいで....本当、恐ろしいです」
「そうなのですか。それは誰から聞いたのです?」
「数日前までここで手伝いをしていた貴族の女の子です」
「名前は?」
「リン....ペネイラって子です」
それ以上の手がかりはなくて、自分の部署へと戻っていった。
「駆除業者をあの修道院に手配してやってくれ」
「駆除対象は“ネクロマンサー”でいいのか?」
「ああ、問題ない」
翌日も同様の通報があった。また別の修道院である。そこも同じく“リン・ペネイラ”という貴族の娘が宿泊していたそうだ。
「リン・ペネイラ....この名前に聞き覚えは?」
「ないね。調べようか?」
「頼む、ジャスパー」
同日の黄昏時、別の修道院でも墓荒らしの被害があった。そして同様の名前が浮かぶ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「その“リン・ペネイラ”はいくら調べても出てこないね」
「ネクロマンサー....アンデッド風情が人間に化けてやがるのか」
「東方の狐のアンデッドも人に化けるらしいぞ。でも馬鹿だよなぁ、貴族に化けるなんて。嘘をついてるって秒でバレるのに」
監察官のジャスパーは、部下からいくつかの資料を渡される。
「お....」
椅子にふんぞり返るように座ったままバッハは言う。
「なんだよ、いい情報でもあったか?」
「お前が行った修道院はどれも、同じ貴族が出資してるな」
「ほう、なんて貴族だ?」
「なんて読むんだこれ。ベヒ....ベヒトルスハイム?」




