第13話 十度目の冬
ミントが一晩で甦らせた死者はおよそ100人。その2割はエクサ達と同様に生前の姿、そして記憶を取り戻していた。
しかし、それ以外のほとんどはスケルトン。彼らの個体のほとんどが記憶を失っており、生まれたばかりさながらの“純粋”な状態となっていた。
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よく晴れた日の朝、2体のスケルトンを連れてミントは出発する。
スケルトンの一人は黒いタキシードの紳士服装。もう一人は黒いドレスの淑女服を着ていた。
いないわけではないらしい、スケルトン。アルバートによると反アンデッド体制後のイーゼルでは差別的に扱われがちとのことだ。
しかし階級や身分が証明できればそんな心配は無用とのこと。むしろ猫耳のわたしの方が異質らしい....なんてことだ。
わたしは黒く薄いベールを頭に被った。
「しばらくしたらまた会おうね」
「ミントちゃん、またね!」
エクサは元気よく手を振った。アルバートはお辞儀をして、正門の前で他のスケルトンたちも手を振っていた。
街までの距離はそう遠いものではない。馬車は使わずに歩いていく3人の後ろ姿が遠くなる。
「行っちゃったね」
「少し心配ですが....」
「大丈夫でしょ。二人のスケルトンさん、それに“あの人”もついてるんだから!」
「いやぁ....そうではなく。ミント様はドジでいらっしゃるので」
そう言った途端、ミントは石につまずいて顔面から転んだ。
「あ....まあ、大丈夫でしょ、へへ....」
「甘えていられませんね、エクサ様。我々は彼女に応えねばなりません」
「しばらくミントちゃんに会えないのは寂しけど。頑張らなくちゃ」
「ミント様は....私たちの光となるでしょう」
「うん!」
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それから月日は流れた....
-カストル暦 二十六年 冬-
(ミントがベヒトルスハイム家を出発してから10年)
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朝の一番早い時間。太陽が凍てついて、霧が街を包んでいた。気だるげな教会の鐘の音、そこらに寝そべる酔っぱらい。
イーゼルの近郊を一人の少女が訪れる。
分厚い黒いコートは華奢な体の上半身を覆い隠し、袖は長く、指先がかろうじて覗くくらい。
短いスカートの下、透明感のあるタイツが脚を包んでいる。
雪のように白い髪と肌、薄紫に塗られた唇は彼女の毒性を示していた。
腐った石畳の上を歩くミントの足音は、まるで彼女だけがガラスの道を歩いているかのように清く、透き通って聞こえるほどだった。
――「おい、女が一人で出歩いてるぜ」
――「ケケ....悪い子だなあ」
近づく二人の足音をミントは聞かなかった。
袖を捲り、刃物を取り出す二人の男。彼らはミントに今日の狙いをつけた。
「今日はいい朝だ....あ?」
二人の前に、そよ風よりも静かに現れた巨体。全身を鋼の鎧で覆って、その隙間からエンジンのような呼吸音が聞こえる。
彼の持つ剣は、自分たちよりも優に大きかった。
次の瞬間には、男達はすでに二枚下ろしにされているのだった。ばさりと倒れ、その音を聞いたミントは振り返る。
「ああ、ありがとう....“ヴァニタス”」




