第28話 恐怖の(ヤンデレ)大王がやってきた。
「初めまして、セイラ。僕はアンディ、同じ学園に通っているんだけど知ってるかな?」
「アンゴルモア……。」
私の受け答えにそこにいる全員が『は?』っとした顔でこっちを見る。
私の顔は死んでいた。
目なんか特に、虚ろである。
「えっと、あの……聞いてる?」
アンディは頬をピンクに染め、恥ずかしそうに歯にかみながら私を見ている。
口元にふわりと握った手を置き、少し照れた感じで……そう、ぶりっ子的なあれで。
深い緑色の髪の毛が陽の光にふわふわしているのを見ていた。
クリッとした茶色の瞳が私を捉え、微笑んでいる。
反応の悪い私の脇腹をお母様が軽く肘で押す。
「……サヨウデスカ」
「ご、ごめんなさいね?セイラなんだか今日調子が悪いみたいなの。
でも姉さん達が来るから、出迎えに来てくれてね?ねっ?」
すこぶるポンコツの私に変わり、お母様のフォローが入る。
「あら、そうなの?風邪かしらね?」
お母様の姉のナントカさん(記憶にない)が、訝しむ顔で私を見ているが、そんなことどうでもいい。
とにかく私はこの人たちに嫌われたいのだ。
そんな私の態度にお母様も困っておられるが……申し訳ないけどここはこの態度でいくしかないのだ。
「それじゃ、ジニー姉さんもアンディも長旅で疲れたでしょうからね、お茶にしましょう!
セイラはお部屋で休んでてね。」
お母様に押されて叔母のナントカさんと、アンゴルモアはサロンの方へとつれて行かれた。
『絶対、婚約なんか、しないんだから!』
徹底抗戦の構えである。
鼻息荒く、ドスドスと自分の部屋へと帰っていった。
そんな私の後ろ姿をじっと見つめる人物がいたが、私は全く気が付いていなかった。
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「アナタ娘の教育間違ってない?」
椅子にドカリと座るなり、高そうなカップを乱暴に持ち上げた。
あ、ドウモ。
俺はウーという、犬だ。
犬なのになぜ喋れるかって?
……そんなの、しらね!
自然の摂理だかなんだかに反してると言われても、なぜか俺は喋れる。俺にとっての自然はこうだ。
だから気にしないでくれ。
俺も気にしない。
そんなことより気にして欲しいのは、この香水臭いオバサンだ。
ニコニコした顔が張り付いている息子を連れて、さっきやってきたばかり。
やってきた『客』のはずなのに、まるで自分の家のようにくつろぎ、あれが嫌いだとかこれを用意しろとかケチ付けている嫌なヤツだ。
さっき通りすがりに俺の尻尾を踏み付けようとしやがって、サッと避けたら盛大に転んでザマアミロと思ったね。
どうやらコイツらのせいで、俺のセイラが苦しんでいるようだ。
セイラは俺の子分だ。
初めて会った時から危険に自ら向かっていくタイプで、とても危なっかしい。
親分なら子分を守ってやらないといけない。
ということで、こいつらを監視している。
というか、セイラはこいつらが来ることを『予言』していた。
それが当たったことにより、セイラ自身がひどく怯えている。
なんでそんなことを知っていたかは知らないが、犬としてはそんなことはどうでもいい。
セイラがヤバいやつだということは、俺にとってもヤバいやつってことだ。
……しかし、確かにこいつらはヤバそうだ。
俺の犬としての嗅覚がそう言っている。
だって見てみろよ、あれ。
あの息子、ずっとニコニコとしているが、目の奥は笑っていない。
ずっと二階を気にしている。
きっとセイラにどうやって接触しようか考えているあの目。
さっきから『体調が悪そうだから心配で』『僕が様子を見に行きたい』とか言ってるしな。
横にいる醜い叔母も『見てきてあげなさい』とか勝手に言ってるし。
ママさんが頑張って止めているが、ありゃ隙を見ていく気満々だ。
俺はもう踏まれたくないので少し離れた馬車のソファーでくつろいでいる……フリをしている。
何故ならセイラに頼まれたからだ。
俺はいわゆる、スパイをしている最中。
だからこいつらの会話を堂々と盗み聞きしてやるのだ。
フフフ、待ってろよ、セイラ。
しかしくつろぐ振りも楽じゃない。
この姿勢、どうにも眠くて構わんな……。
ウトウトしかける俺を他所に、人間達の会話は進んでいた。
「姉さん、その話は断ったはずよ……」
さっきからママさんは困ったように下を向いてスカートを揉んでいた。
そんなオドオドしたママさんの様子を鼻で笑いながらオバサンは巨体を揺らしながた立ち上がる。
「何を言ってるの、あの子はあんたが産んだわけじゃないんだから。
アンタと旦那の血をちゃんと残すには、うちのアンディとあの子を結婚させるべきなの。」
ブンブンと人差し指をママさんにも買って振り上げる。
それを避けるようにママさんも立ち上がった。
「セイラの相手は私じゃ決められないわ。ましてはあの子の意思も聞かないと……」
ママさんの言葉にオバサンはさらに声を大きくする。
「政略結婚なんてあたりまえでしょ!大事なのは血筋!どこの馬の骨かわからない血をうちの家系の血で浄化するんだから。それで孫さえ生まれたら、もうあの子には用がないでしょ。」
この言葉に流石のママさんもオバサンを睨みつけるように言った。
「……セイラは私の娘よ。たとえ私と血が繋がっていなくても。」
そんなママさんを肉食獣の目で睨みつける。
草食動物の睨みなど、屁でもないように顎を突き出しながら。
「だからアンタは甘いのよ!いい?私のいう通りにしたらいいの!わかった?」
肉食動物は言葉で押し付けようとするが、ママさんは涙目になりながらも睨むのをやめない。
「……アンディには申し訳ないけど……姉さん、セイラの相手は主人が決めるわ。
私じゃ決められない。」
強い意思を感じたのか、オバサンは鼻を鳴らすと両手を挙げた。
「あーわかったわかった、今夜夕食の時に本人でもあの優しいだけの男爵でも説得するわ。」
「……姉さん!」
ママンの声が少し高くなった時、あのニコニコ男が口を開いた。
「母さん、だめだよ。この家では僕らは部外者なんだから……マリア叔母さまを困らせるようなことを言ってはいけないよ。」
おや?敵だと思ったニコニコ男がママさんの肩を持つだと?
思わず顔をあげニコニコ男を見つめてしまう。
「アンディ、アンタこそ余計な口出しよ!」
オバサンは顔を真っ赤にニコニコ男を睨みつけた。
「母さん、そんな怒るとまた具合悪くなっちゃうからね。ちょっと落ち着こう?」
息子に宥められ優しく肩を抱かれると、流石の肉食オバサンも尻尾が下がる。
「……アンディ、私はアンタのためを思って……」
「わかってる、ありがとう母さん。でも叔母さまも色々考えがあるんだよ。」
ニコニコ息子はそういうと、オバサンの肩を抱きしめた。
流石に毒気を抜かれたのか、オバサンは『わかったわよ』と小さく呟くと静かに椅子に座り直した。
「あ、母さんそういえば荷物、自分で部屋に運びたいやつなかった?」
「あ!そうよ、そうだわ。マリア部屋はどこ?メイドにきつく言っとかなきゃ……!」
肉食オバサンはそう言いながら慌てて部屋から出ていった。
騒がしい人が居なくなってシーンとする部屋。
先に口を開いたのはニコニコ男だった。
「叔母さま、ごめんなさい……母がこういう事を言うのは僕のせいなんだ……。」
「アンディのせいって、そんな……」
呆然と立ち尽くしていたママさんがニコニコ男の方に手を当てようとした時、そいつはママさんの手を両手で取った。
「いや、僕が母に言ったから……。
学園でセイラを見て、一目惚れしたって……。ごめんなさい、叔母さま。
母を許してあげてください……」
ウルウルした目でママさんの手をギュッと握り締め、懇願する子犬のような顔で見上げる。
それにはママさんもころりと騙され、もらい泣きしそうになっていた。
「……アンディ、そうだったのね……。ごめんなさいね、セイラの気持ちを無視して協力はできないけど、あなたの良いところをたくさん伝えるぐらいは出来るからね。」
ママさんはそっとニコニコ男を抱きしめた。
「叔母さま、ありがとうございます……。
僕少しだけ頑張ってもいいかな?セイラと仲ようなれるように……。」
抱きしめられたニコニコ男はママさんの肩に顔を寄せる。
「ええ、そういうことなら私も陰ながら応援するわね。」
ママさんの言葉にニコニコ男は顔をあげると、純粋無垢な微笑みを見せながら頷いた。
2人が話をしながら応接間から出ていった後、俺はゆっくりと立ち上がる。
『……なんだありゃ。』
思わず身震いしながら、セイラの待つ部屋へと向かった。
あーあ、これはセイラ、不利かもだな。
そんなことを考えながら、2階の階段に足をかける。
俺は庭園へと向かうママさんとニコニコ男を横目で見ながら、ため息をついた。
なんかあの男と目があったような気がしたが、気が付かないふりをした。
……おーこわ。




