第26話 テストと夏休みの計画と……パン。
家に帰ってノーマンのことを考えていた。
どう考えてもアレは、寂しかったのかな……?
ライリーとそれほど仲良くしているつもりはなかったんだけど、やっぱ仲良かった友達取られちゃうヤキモチみたいなやつ、私もあったなぁ。
『ナントカちゃんと遊ばないで!』的なやつ?
いやぁ、懐かしい。
明日はノーマンをたくさん構ってあげよう。
そうしよう!
そう思いながらグイッと背伸びをすると、見事に椅子ごとひっくり返った。
はい、学習能力仕事しろ、です。
……うう、後頭部、激痛。
学園の雰囲気はテスト一色でした。
あれれ、おっかしいぞぅ……?
もうそんな経ったっけ。
だけども、ノーマンのまとめノートのおかげで赤点は免れそうです。
赤点なんて取ったら、補習地獄が始まるので夏休みどころじゃなくなるしね。
しかし、思ったより出来たかも?
ノーマンに足向けて寝れないわ……。
なーんてことを考えながら、鉛筆を鼻と口の隙間に挟んでニマニマしていた。
相変わらずノーマンが引き気味に私をみていたが、少しだけ変化が見えた。
何というか、距離が縮まった?みたいな感じ。
よく目が合うようになったり、ノーマンがよく笑うようになった。
三白眼の目で睨まれるのもちょっと好きだったけど。
ウー様のように、よーしよししてやろうかしらね。
私の不穏な空気を感じ取ったのか、ノーマンは私の手を振りほどき、話題を振ってきた。
「そういえばセイラは夏休みどうすんの?」
「……夏休みかぁ。」
個人的には夏休みを二学期に備えるための準備ち休息に使いたいと思っている。
攻略者の好感度がどれぐらいなのか分からないのが恐ろしいけど、ハーディがもし留学してきたらと思うと……。
シトロンからの呼び出しが来るだろうし、ハーディが来るぐらいだから最重要危険人物……アンディが登場してしまう可能性もある。
パパとお母様に『NO』と言っている以上、そこでブロックしてくれると信じたいんだけどね……。
「婚約を回避して、シトロン対策と何して遊ぶか考える!」
「……婚約!?」
あ、しまった。簡潔にまとめ過ぎたや。
私が説明しようと口を開こうとしたら、背後から声が聞こえた。
「セイラ婚約するの!?」
「え、いや……そうじゃなくて……」
後ろに立っていたのはライリーだった。
「そうだよ、どういうことだ?」
今度はノーマンが私に詰め寄ってきた。
「いやだから、その……」
あー、アンディのことなんて説明しようかな。
……口が滑った感。
そんなこと思いながら私は愛想笑いを浮かべ、口を両手で覆った。
ライリーがいるから乙女ゲーム的なこと言えないじゃん!
「……ですから、お母様のお姉さんの息子……即ち私とは血が繋がっておりませんが、従兄となる方もこの学園に通っているんですよね。
その人と夏休みもしかしたら、将来的な目で見て会ってみないかと言われていたんだけど、一応断ったから大丈夫なのかなーって……。」
ライリーもノーマンも顔を見合わせている。
そして同じような顔をして驚いているんだが、これは何?
仲良くなったの!?
私が怪訝そうな顔でライリーとノーマンを交互に見つめていると、2人が無言のまま頷きあった。
「……セイラ、夏休み一緒に遊ぼう。」
「そうね、私もお邪魔したいわ。」
「ライリー先輩と俺とセイラで、夏休み中遊ぼうな!」
「……え?夏休み中!?宿題はどうするの!?」
「……手伝ってあげる。」
「……俺も手伝うから。」
「え!?マジで!夏休み中遊ぶ!!」
私が偉く喜んで跳ね回っているのを見て、ほっとしたように頷き合う2人。
何だ突然この人達。
いつこんな仲良くなったの?
ハッ……もしかしてノーマンは、ライリーに私をとられるとヤキモチ妬いてたんではなくて、私に妬いてたパターン!?
……まさか、この2人、出来ているのか!!
私が口を押さえてワナワナしている間に、ライリーとノーマンはコソコソ2人で内緒話をし始めたのだった。
……はぁー宿題安泰じゃん。
なにして遊ぼうかな!
私は既に夏休み薔薇色計画に夢中になってしまったのだった。
……え?誰か策略とか言った!?
誰?なんか聞こえたけど!?
+++
夏休み薔薇色計画にて、私は嫌いな体育の授業もルンルンだった。
着替えが済んで、何となく雰囲気だけ仲良くなった女子たちについて歩いていたら、突然目の前に壁が現れた。
「ブグエッ」
何かが潰れた。
今自分の顔の真ん中にある突起物が!!
両手で鼻を押さえ、涙目でぶつかった壁に視線を送ると、壁は胸を押さえひっくり返っていた。
「え、あの……大丈夫ですか?」
「うええ、距離感間違えた。ごめんね、ぶつからないつもりだったんだけど……」
壁は起き上がり、私に手を差し伸べた。
『あなたは……!』
「げっ!!」
あ、心の声と口から出る言葉間違えた。
まぁ、問題ないだろう……多分きっと。
手を差し伸べていたのは、攻略対象の1人レッドこと『カレル』だった。
「……お気になさらず。」
私はその手を取らず、さっさと1人で立ち上がる。
落とした体操服を拾いながら。
というか同じクラスの雰囲気ちょっとだけ仲良い女子達の視線も怖い。
せっかく雰囲気的に仲良くなったのに!
人気ある人と知り合いとか、嫌われちゃうじゃないの!!
なので一歳知らない人的な空気を醸し出す。
そんな様子の私を見て、カレルは出しっぱなしの手を恥ずかしそうに首元にやった。
「では……。」
私はお辞儀をして立ち去ろうとした。
「あ、待って!」
呼び止めてくれるな、頼むからー!
ちょっと口から吐血しそうな気持ちとは裏腹なうすら笑顔で立ち止まる。
「な、何でしょうか?」
薄ら笑いの私にカレルは屈託のない笑顔で微笑みながら恥ずかしそうに言った。
「あの……パン好き?」
「……は?」
「えーっと、だからね。パン、好き?」
何を聞かれているんだっけ、私。
え?パン?
パンってあの小麦でできているアレのことで合ってる?
「ええっと……」
思わず一番近くにいた女子と目が合う。
もちろんそこにいた女子達みんな『パン?』『え、パンってパン?』『そのパンで当ってるのかしら?』的なザワザワ感に包まれる。
「パンって食べるパンですか?」
と勇気を出して聞く私に、カレルは迷いなき眼で頷いた。
「えっと、パン。パン好きですね……。」
やっと質問に答えた私に、カレルは嬉しそうにポケットを漁った。
「……これ、あげる。」
そう言ってポケットに入っていたちょっと潰れたパンを私の手のひらに置いた。
「え?……え、ちょっ……」
潰れたパンとカレルを交互に見比べるが、あっという間にカレルは見えなくなった。
横にいた女子と目が合う。
『これどうしたらいいっすかね……』的な顔で見つめていると、彼女もだいぶ引き気味に私とパンを見つめて困った顔をしていた。
手のひらに乗せられた潰れたパンは、ちょっとだけ人肌に暖かかった……。




