第25話 魔法が解けた攻略対象者。
屋上で話をしようと思ったら、またブルーに邪魔されそうになったのでとっとと別の場所に移動。
というか、今日はノーマンが歴史の先生の手伝いがあり、教材が置いてある準備室へ行く予定があったのだ。
そこに私とライリーもついて行き、準備室でサンドイッチを齧っていた。
シトロンのことについてノーマンはずっと考え込んでいた。
ライリーには何も説明していないので、何のこっちゃという会話だろうが、彼は今日もニコニコしている。
何か聞かれても、今ハマっている小説の話題だと言えばいいとノーマンに言われた。
「なぜ王子の強制力が解けたのかって話だよね。」
「そう、ノーマンが前に言ってた言葉。
アレとはパターンが違ってて戸惑っていて……。」
チラリとライリーを気にすると、彼は歴史の英雄についてなんて本の埃をはらっていた。
こちらの話には関心を持ってなさそうなので、話を続ける。
「ノーマンの仮説だと、対象が私の話を『理解』したら『私の見ている世界が見えた』と言っていたよね?
でも彼はノートを見る前に、お犬様の行動や話し声が聞こえていたんだよ。」
「なるほどなぁ……。」
頼まれた資料を選別しながら、そのままノーマンは考え込んだ。
気がつくと私とノーマンの話をニコニコして聞いていたライリーが口を開いた。
いつの間に聞いていたのかと、私は飛び上がる。
「たとえばさ『何か考える時』って今わかっている単語だけでも何かに書くとまとまりやすいよね。
ていうか、その小説ってサスペンスとか推理ものなの?」
いいえ、乙女ゲームです……。
思わず引き攣りつつ、にっこりと微笑み返す。
「……まぁ似たような感じかな。
謎解き要素が出てきた感じ。」
「なになに、教えて?どんな感じなの?」
私とノーマンは顔を見合わした。
『とある小説』の内容として、さらっと話すことになった。
まぁ説明したのはノーマン。
私じゃうまく纏められないからね……。
「主人公のヒロインが別の世界に来てしまい、その世界のストーリーという強制力のせいで思うように動けないと。
そしてヒロインのことを好きになってしまう7人のヒーロー。
その中の1人が、ヒロインの発言でストーリーという強制力が解けて、1人我に帰った状態なのね……。」
「そうそう、そんな感じ。」
ノーマンは適当に返事している。
なんか後ろめたい気持ちになるけど、誰彼構わずこんなこと言うべきじゃないという事ぐらい、おバカな私でもわかっている。
でも私の説明をするすると理解するライリー。
も、もしや彼も、転生しているとか……?
私の喉がゴクリとなる。
だがすぐに私の勘違いだとわかるのだった。
「何それすごいね、とっても面白そう!
強制力とか発想がすごいわね!」
『なんてタイトル?』って聞かれたけど、『アレなんだっけ?次まで思い出すね!』なんて誤魔化した。
「……でも、そうね。」
ライリーがふと、顎に人差し指を当て、考え込んだ。
「そのきっかけってやっぱり、ヒロインじゃないかな。
何かのきっかけがあったはずよ、絶対。
どこかにヒロインがその1人と接触した描写とかなかったの?」
「あー……確か、その人に強引に連れ去られた時に彼女だけが知っている秘密みたいなことを口走ってしまったかも……。」
私がシトロンに言った『本当にやりたいことなのか?』って言葉か『お母さんの言葉に疑問を持て』かどっちがトリガーだったのかは分からないけど……。
あの言葉が引き金だったことは確かなのかな。
ノーマンは攻略対象者じゃないから『この世界を理解』することがトリガーだったとか……。
ならば他の攻略者もトリガーさえ分かれば、我に返ることがるのだろうか……。
……彼らは強制力で私を好きなのだろうか。
何だか悲しくなってきたな。
私はヒロインだけど、自分に自信がない。
この顔だって可愛いとは思うけど、自分自身じゃないような気がして、自分の気持ちは蚊帳の外な気分だった。
自問自答により凹んできた私をライリーが肩を叩いた。
ポンポンと優しく、慰めるように。
『お姉さま……』
なんて思わず心の中でつぶやく。
ノーマンはやっぱり考え込んだまま、何も言わなかった。
最近ずっとこうだ。
何かに思い耽ている。
私が迷惑ばっかかけるからかな?
そうだったら申し訳ないな……。
頼まれた資料を片手に抱えたノーマンは『職員室へ寄ってから教室に帰る』と準備室から出て行った。
最後まで視線は合わないままだった。
+++
午後の授業もノーマンはずっと心ここに在らずだった。
私が話しかけても簡単な返事のみで、受け答えするのみ……。
もしかして本当に嫌われてしまったのかと、不安になった。
やっとできた友達なのに……。
何だか悲しくて午後の授業中、ずっとノーマンの背中を見つめていた。
放課後、帰る支度をしているノーマンに意を決して何故ずっと考え事をしているのかを聞いてみた。
ノーマンは目を伏せ、言いにくそうにゴニョゴニョと口を尖らせたが、大きく息を吐くと話し始めた。
「セイラはライリー先輩の事、どう思っている?」
「……どう思っているとは?」
質問の意図が分からず、思わず聞き返す。
ノーマンがいつになく、真面目な顔で俯いていた。
「いや質問しているのは、俺ね……。」
いや、知ってるけど!!
とりあえずどう思っているの意図が汲み取れず、ライリーをどう思っているかを考える。
「……強いて言えば、お姉さまのように思っている。」
「……お、お姉様?」
私の答えにノーマンは頬を引き攣らせ若干引き気味だが、構わず進める。
「なんか母性あふれる包容力というか、お母様とも仲がいいし、いい匂いするし、主婦みたいな雰囲気だし……。」
「……そうか。」
私の返事を聞いて、ノーマンはまた俯き黙ってしまった。
私もじっとモジモジしながら黙っていると、ノーマンはまた大きく息を吐く。
そして勢いよく顔を上げると、今までが嘘みたいに晴れやかな笑顔になった。
「そっか、じゃあ帰ろうか。」
「え?えっ……?」
理解が追いつかない私を他所に、笑顔のノーマンが私の手を取り、教室を後にした。
もしかして、ノーマン……。
私がライリーと仲良くしてて、仲間外れにしていると思ったのかな!?
そうなのか……?
……どうなんだろう。




