第22話 ノーマンの葛藤とお母様の友達。
「ねえねえ、王子の友達って何すリャいいの?」
半べそかきながらノーマンの上着の裾をぐりぐりと引っ張った。
あ、多分この顔は『いい加減離せ』と思っているんだろうな。
口をひん曲げて眉が互い違いになっている。
でもな、私は離さないぞ。
だってさっきからノーマンは何も言ってくれないから!
呆れているんだと思う。
でもだってしょうがないじゃん。
パパだって裏切って私をトーマに生贄したんだもん。
昨日は帰宅してものすんごく心配してくれていたお母様に2人して事情を話していた。
当然怒られるのはパパだよ。
「アーナーター?」
ゴゴゴと背後から音が聞こえてきそうな華麗な仁王立ち。
腕を組んだままパパに正座をさせた。
パパは半泣きになりながら『でも、だって』って言ってたけど。
お母様は許しませんよね、うんうん。
だってきっと、娘の私が可愛いんだもん。
でもパパの立場上どうすることもできないとは分かってるよ。
私も『うん』って言うしかなかったもん。
だからその辺はパパを庇ってあげたけどさ。
とりあえず嫁に要求された時は、みんなで領地に逃げようねって話になった。
パパはまだ説教中だけど、私はがっくりと落ち込みながらウーと部屋に戻った。
『結局王子とはどうなったんだよ』
とウーに聞かれ、『友達にされた』って言ったら大笑いしてたよ。
なので悔しかったので、昨日はシャンプーしてやりました。
毛がサラッサラになって、なんかイケメン度が上がって、モッフモフした。
ここまでノーマンに話した内容。
モッフモフまでちゃんと伝えたよ。
ノーマンはその後ずっと無言。
……モッフモフは言わない方が良かったか?
授業中背中を突いても振り返ってくれないし(当たり前)
お昼休みもずっと何かを考え込んでいた。
なので私は絶賛ウザ絡みをしている次第です。
「でもさー昨日の今日だけど、まだ一回も会ってないからセーフかな?」
「……いやもうスリーアウトだな。」
「やっと喋ったと思ったらなんだい!
そんな嫌味を言う子になっちゃって!!」
ぎりぎりとハンカチを噛んでみたが、今日のノーマンはやっぱりどこか変だった。
いつものような、ツッコミもこない。
私を見つめては、ハァーとため息をついて目を逸らす。
なんだかそれが悲しくなって、モソモソ1人で空を見上げサンドイッチを食べたお昼休み。
あぁくそう、なんだかしょっぱいぜ。
モグモグしていると私が突然黙った事を気にしたのか、ノーマンが口を開いた。
「好感度って朝のリボンによってわかるんだっけ?」
「……ん?リボン?」
「前に見せてもらったノートに書いてたやつ。」
「ああ、そうそう。今一番高い高感度の人のリボンをつけられる仕組み。」
「それってさ、わざわざつけないでもいいから、ママさんに『髪を結うリボン、何色がいい?』って聞いてみなよ。そしたら攻略対象者一番高い高感度が見えるんだろ?」
ノーマンの言葉にハッとして立ち上がる。
「そっか、その手があった!」
「高感度が一番高い人物がセイラにとって危険なんだろうから、その人を重点に避ければいいと思う。」
「……え、うん。そうだけど……。
王子のことは?」
「うーん、なんか考えれば考えるほどおかしいんだよなぁ。」
「え、なんのこと?」
「君が言う『イベント』の方がわざわざやってくることが、さ。
そもそもそのゲームに俺は出てこないんだよね?」
サンドイッチをモグモグしながら頷く私。
その反応でノーマンはまた考え込んだ。
「本来なら接触しない俺って、なんの役割でセイラの側にいるんだろ?」
「……え。」
「ここがストーリーあるゲームの世界ならば、それぞれに役割ってあるもんだろ?
だからこそ強制的にイベントが起こるわけだし……。
昨日ずっと考えてたんだ。
セイラをイベントから助けることが出来ないなら、俺の役割ってなんだろうって……。」
ひどく落ち込んでいるようなノーマンに私はオロオロと戸惑った。
「えええ、なんでそんなこと言うの……。」
『役割ってそんなふうに思っていたの?』
思わず持っていたサンドイッチが手からこぼれ落ちる。
バラバラになったサンドイッチが屋上の床に散らばった。
私はギュッとスカートを掴んで、下を向く。
「……ノーマンがそんな考えになっちゃったのって、私のせいじゃん」
「いや、そうじゃなくて……」
「私がゲームの世界だって言わなきゃ良かった。」
「おい、セイラ……?」
「私は、役割とかで、ノーマンと一緒にいるんじゃない!
ノーマンは私の初めての友達!
末端貴族のゆるゆるした位置で、ノホホーンとしてるじゃだめなの!?」
目からたくさんの水がこぼれ落ちて、なんだかとても悔しくて、悲しくて。
スカートを掴む手にもっと力がこもる。
「セイラ……、ごめん。
俺昨日君を助けられなかった事をすごく悔やんでいたんだ。
だから、それなのに俺を責めることもなく、いつも通りなのにちょっとイラッとしてた。」
ノーマンはそういうと、立ち上がり私の目の前に立った。
そして慰めようとしているのか、肩に触れようと手を伸ばしたが、躊躇したようにその手が止まる。
そしてその手は葛藤するかのように、上がったり下がったりを繰り返していた。
「……何してんの?」
「……いや、嫁入り前のお嬢さんを友達と言うだけで触っていいものか、悩んでいて……。」
そんなノーマンを見て、私は笑ってしまった。
「……律儀かよ!
ていうかあれは無理だよ。あんなの私も予想できなかったし。
イベント内容が変わりすぎて、私も予想が立てられないんだよね……。
もういいや、仲直りしてよノーマン。」
そう言って上下していた手を取って、大きく握手した。
「簡単に許すなよ、俺を。」
「いや許すよ!後悔してくれたんでしょ?」
「そうだけど……」
「ありがとうね、ノーマン。
お母様がまた遊びに来てって言ってたよ。」
そう言って私はノーマンの背中をバンバンッと叩いた。
「……また行かせてもらうよ」
痛そうに背中を撫でるノーマンに、また笑いが込み上げる。
「うん是非ね。その時はまた、勉強教えてね……。
今日の授業、さっぱりわからなかったあああ!」
「……ああ、君はキミだわ……。」
どう言う意味だ!と怒るふりをして、私は落としたサンドイッチをノーマンと拾った。
とっても天気がいい午後だった。
+++
ただいまーって家に帰ると、私は叫んだ。
「なんでーーー!?」
「おかえり、セイラ!」
叫ぶ私にお母様がニコニコしながら出迎えてくれた。
笑顔のお母様の横に、見たことあるお客様がいたのだけど、それがまさに意外な人物。
「あら、彼は私のお友達になったのよ。」
お母様がなんか『うふふ』とか笑いながら、ジジのクッキーを振る舞っていた。
振る舞っていた人物とは。
「セイラ嬢、おかえりー!」
ピンクの髪の毛のこの人物。
「……ライリー……先輩。
え!?てかなんで!?」
「だから、ワタシとママさん、仲良しなのよ。」
『ねー』とか言いながら、お母様と小首を傾げ合う。
「え、いや、仲良くなったのよーじゃないでしょ!
どこでそんな仲良くなるタイミングあるの!?接点がどこにあった!?」
頭を掻きむしるように言葉を吐き出す。
全く理解ができないこの状況。
「あらあらダメよ、髪の毛が痛んじゃうでしょ。」
掻きむしる私の手をそっと握るライリー。
その時にふわりと香る彼の匂いに、私の胸がドキリと跳ねる。
思わず教卓の密着を思い出し、顔が赤くなってしまった。
「わわっ、近いです!」
うさぎのように飛び上がり、後ろに下がる下がる。
そんな私をみて、お母様とライリーが『あらあらまぁまぁ』とか言いながら笑い合った。
なんなんじゃーー!
なんだこの連帯カーン!
とりあえず落ち着けと、促されるまま席につきお茶を一気飲み。
ライリーとお母様の会話から見て、仲がいいと言うのは本当のようだった。
「お茶会や夜会の集まりで結構頻繁にあったのよね?」
「そうそう、スイーツとかお化粧の話で盛り上がってね?」
「ああそうだったわね、先週の夜会であった四角いやつ、美味しかったわね!」
「わかるわー、あれワタシ3つもいただいちゃったのよ。」
「私も私も!」
「……えっとライリー先輩って主婦でしたっけ?」
私の言葉にニッコリと微笑み『ライリーでいいわよ』といった。
いや違う!主婦否定せんのかーい!
「……て言うかこの流れだと結構前からお母様と友達に?」
「あー、そうね。ここにももう何度かお邪魔させてもらっていて、セイラ嬢のお父様とも何度かお話しさせてもらったのよ。」
「わーパパも知ってたんだぁ」
思わず棒読み。
知らなかったのは私だけだったようだ。
通りすがりにウー様が『俺も知ってたぜ☆』的なドヤ顔で通り過ぎて行ったもん。
しかもなんかタオルを肩にかけながら、グラサンしてたけど!?
日光浴でもするつもりかな?
え?むしろなんで私知らなかったん?
「もっと早く言うべきだったわね、ごめんなさいね。」
イケメンの申し訳なさそうな顔はすぐにでも許したくなるので凶器です。
とりあえず、許すも何もない。
お母様の友人な訳だから。
「セイラもライリーくんと仲良くしてあげてね。」
お母様のお願い☆なんてウインクされたし。
頷くしかないじゃん。
でもライリーも攻略対象者でもないわけだし、警戒する必要ないのかも?
なんかいつも助けてくれるし、いい匂いだし。
そしてオネエなのかな?
気をつけるのは私じゃなくて、ノーマンかもしれない。
そして単純な私の思考は、ライリーを危険人物から削除するのだった。




