4.転生者弐
「精霊魔法を教えて欲しいぃ?」
「はい!」
「っつってもねぇ。あたしもあんたより上手いとは限らないよ?」
3人目の実力者のエルフは、土産物を売っているお店の女将さんだった。
客足が少ない時間だから対応してくれたが。
「じゃあ、そうだねぇ。あたしの店の物を何か買ってくれたらいいよ?」
「そうですか、じゃあコレください」
「……コレ?」
「まいど! じゃあ張り切って教えちゃおうかな」
ちなみに買ったのはエルフなりきりセットだった。
付け耳に緑髪のカツラセットだ。
使い道は知らないが、エルフの里マヨネーズよりはマシだろう。
何故か妙に賞味期限短かったし。
色々魔法をかけて貰ったり、かけてみたりした結果いくつかの事が分かった。
まず、このお姉さん? は俺と大体同じぐらいの魔力らしい。
ただしやっぱり年の功? で熟練度は全然俺より上だ。俺も精進しないとな。
それと、お姉さん? は新しい説も提唱してくれた。
「うーん……魔力が感知できないのは、自然に馴染み切ってないのかもしれないねぇ」
「馴染み切ってない?」
「あたし達は森で生まれ、森で育ち、森で魔法を学んだ。自然に馴染むってことは、精霊魔法使いにとってそれが魔力に直結するのさ」
「へぇ」
「でもあんたは、実力でそれをカバーしているのかもしれないねぇ。自然に馴染むっていう過程をすっ飛ばしてるから、本来得るべき力を得られないのか」
「なるほど……」
「ただ、逆に考えると恐ろしいものだよ。自然に馴染んでないのにその力なら、自然に馴染んだらどこまで成長するのかってね」
なるほど。俺がチートの力で無理矢理得た力だから、ついて行けてない部分があるってことなのかなぁ。
ということは、今後俺がその力を得る可能性も出て来たってことだな。
正直なところを言えば、ハーレムを1人増やすだけで相手の実力を察知できるようにはなると思う。
だが、それは避けたい所である。
俺はハーレムの人数は増やしたい。
だが、急速に増やす気はない。
段階を踏み、納得できる相手を仲間にしていく。
そういう形が、やっぱり一番だと思う。
《もうすでに5人も女の子召し抱えてるのに、何言ってるんでしょうねー》
(そういうチートなんだから仕方ねーだろ!)
しかし、やっぱり精霊魔法使いの人と話すのはいいなぁ。
マイナー職だからなかなか同業者がいなくて相談がしにくい。
「あんた、結構な実力者なんだねぇ。ウチの娘も貰ってやってほしいよ」
「娘?」
「あぁ、どうも引きこもって出てこないんだよ」
「引きこもりですか、それならお任せください!」
「ほう?」
「彼女を見てください。彼女はライトベルというんですが、彼女も引きこもりでした!」
「ほうほう」
「しかし、見てください! 俺の説得の甲斐もあり、立派に外に出てますよ!」
あぁ、ライトベルの冷たい視線を感じる……。
だが、今はそれすらも心地よい……!
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
いやぁ、気が乗らないわぁ。
エルフっ娘とか超気が乗らないわぁ。
《ノリノリじゃないっすか!》
(エルフだぞ! 性格は多少どうあれ、エルフなんだから問題ない!)
よく分からない理論だが、いいのだいいのだ。
多少引きこもり程度なら、ぜーんぜん問題ない。
殺人とか窃盗とかしてるわけじゃないしな!
《うっ……目から汗が……》
(……何だよ)
《いやぁ、ユーハさんの心が余りにも鍛えられてしまったというか》
(言っとくけど、こうなったのはお前のせいでもあるんだからな)
とりあえず、今の最大の問題児であるロントとエレフトラはこいつの紹介だ。
前世の日本では間違いなく今頃、執行猶予の付かない懲役刑だろう。
「……ふふふ」
「お前何買ったんだ?」
《何かのお薬ですね》
「……エルフの里のポーション。効き目は確か」
本当かなぁ。
正直、ここの里はちょっと肝心な所が信用できないからなぁ。
《ユーハさん、アレですよ!》
「何だよ」
《『エルフののみぐすり』って書くと、凄い回復しそうですよ!》
「魔力が全部回復しそうだな」
そんなアホな事を話しつつ、土産屋のお姉さん? の教えてくれた離れへ向かう。
名前はアリサというらしい。
すげぇ普通の名前っぽいな。
彼女はかつて、精霊魔法の非常に優秀な使い手だったらしい。
しかし、突然精霊魔法が使えなくなった。
それ以来ずっと引きこもりっぱなしなのだという。
「そんなことがあるのか? 突然使えなくなるとか」
「……聞いたことはない。でも、例えば体や脳に大きな障害が出ると使えなくなる事もある」
まぁ、そりゃそうか。
脳に障害が出る程の怪我をしてしまうと、そりゃ元の魔法が使えなくなってもおかしくはない。
でも、そういう兆候はなかったらしいしなぁ。
土産屋からしばらく。その引きこもりちゃんのいる小屋とやらに到着した。
お姉さん? の話によると、結構な美人らしい。
なぁに、引きこもりから脱却させれば問題なしだ。
それにダメで元々だ。失敗しても俺達には何もデメリットはない。
俺の心がちょっと痛むだけさ。
扉をコンコンと叩く。
……反応がない。
もう一度コンコンと叩く。気配が全くない。
「留守かなぁ、出直すか」
「……居留守かも」
「じゃあもうちょっと粘ってみるか?」
いや、あまりしつこいのは嫌われる気がするんだよなぁ。
そう俺達が結論付けた時、それに呼応するようにポートも返事した。
《まぁ、もうちょっと作戦を考えましょうよ》
その言葉の直後、予想しなかった事態が起こった。
遠くから、声が聞こえた。
少しノイズがかった、しかしハッキリとした男性の声だ。
その声は耳からではなく、脳内に直接響いた。
《あれ? この声、ポート?》
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
俺とライトベルはさほど気にしなかったが、その声に反応したのはポートだった。
ポートは一瞬息を飲むような反応をした後、すぐにこう言った。
《すみませんライトベルさん。ユーハさんと2人きりで話をしたいので、出来れば先に帰って頂けませんか?》
「えーっと……」
「……そんなに大事な話?」
《はい》
ポートの声が明らかに動揺していた。
ライトベルに対してこんな核心に触れるような直接的なお願い、初めて聞いたかもしれない。
《ワタクシたちの会話を聞いているのかどうかも、申し訳ないですがチェックさせてもらいます。本当に申し訳ないです》
「……分かった」
「俺はちょっとまだ状況が分からないんだが、すまんな。今度何か埋め合わせしてやるからさ」
「……うん」
こういう形で追い返すというのは非常に心苦しい。
しかし、本当に非常事態が何か起こったのだろう。
ポートは脳内でちょっとドタバタとしている。
何かの資料を漁ってるのか?
《えっと、すみません。ユーハさん、ちょっと席を立ちます》
「お、おう」
ポートはそういうと、どこかへ走っていった。
いや、正確には走っていく足音が脳内に何となく聞こえるだけだが。
それから30秒ほどしてから、ここより遠くの場所から聞こえるような感覚で、また脳内に声が響いてきた。
《ちょっと、どうなってんの! 聞いてないんだけど!》
《ポートもこの世界の転生者担当だったのか。ボクも聞いてなかったよ》
《ったく……あんたの担当は、もしかしてこっちがノックした中にいるの?》
《そう、ってことはポートが担当してるのが今外にいるのかい?》
……うっすらと読めてきた。
この中にいるのは、転生者だ。
俺以外の転生者。そして俺にポートがついているように、そいつにもサポートがついている。
そいつは今引きこもりである……と。
2分程の打ち合わせの後、ポートが戻ってきた。
俺が転生者か? と聞いても、何も返して来なかった。
恐らく正解なのだろう。
《話は通して来ました。鍵は開いたそうなので、中に入りましょう》
(分かった)
自動で鍵が閉められるというのがどういう仕組みなんだろう。
まぁ、あまり深く考えないでおこう。
俺達が中に入ると、中はほとんど光が刺さない部屋だった。
これぞ引きこもりの部屋という感じだ。
部屋の中央に、1人の少女が座っていた。
毛布を体に包み、まるで人を寄せ付けないオーラを纏っている。
エルフなのに緑色の髪ではなく、色が抜けて白髪だった。
その顔はやつれてしまっている。
だが、確かに美人ではある。
「お前は、転生者なのか?」
「……貴方も?」
俺の質問に、少女は少し驚いた眼をしていた。
そりゃそうだ、俺もビックリだ。
「俺の名前は、この世界ではユーハって名乗ってる」
「…………私は、ナナライド」
「そうか。前世では奈々ちゃんだったのか?」
「えぇ」
「俺もだ。前世の苗字が湯羽だった」
「……ふふっ」
「考える事は、皆同じだな」
俺はそっと彼女に手を出した。
彼女もそっと俺に手を差し出した。
転生者同士、協力をするという意思表示でもあった。
俺は彼女の出した腕を見た。
その手首には、大量のリストカットの跡がくっきりと残っていた。




