5.星川奈々
《いやぁ、ある意味助かったよー。ナナライドったら、ずっと引きこもったまんまなんだもん》
「うっさい」
「そんなに引きこもってたのか?」
《こっちの世界に来て一週間は外に出てたけど、それから3か月はずっとこの様子だったんだよ》
《その間、ずっと貴方もニートだったんですね?》
《ち、違うよ!》
こうやってポートとコントを繰り広げているのはピート。ナナライドのサポートだ。
ポートはあざとい女の子キャラだったのに対し、ピートは気弱な男キャラのような声をしている。
ナナライドが女性というのを考慮しているのだろうか。
「で、何でそんなに塞ぎ込んでいたんだ? 見る限りでは、結構美人みたいじゃないか」
「……弱かったの」
「弱かった?」
《ボクが説明しましょう。3か月前、彼女がこの世界に来た時の事を》
ナナライドはそっと頷いた。
ナナライド、前世の名前は星川奈々。
俺と同じ日本人の転生者らしい。前世で死亡した時期は俺より1年ぐらい前だそうだ。
「あれ? 俺は死んでからすぐに転生したけど、約9か月も滞在したのか?」
《違いますユーハさん。神の世界とこの世界とお二人の前世。それぞれの時間の流れが違うのですよ》
《ユーハさん、前々世で死亡した後の事を覚えてますか?》
「あぁ、俺が最強の主人公になるってアレだろ?」
《はい。その時、ユーハさんは3日時間を貰いましたよね?》
「そうだな」
《その3日で、日本の時間は3年過ぎてます》
「そんなか」
確かに、それなら9か月ぐらいの誤差は発生してもおかしくないか。
ナナライドは、この世界にやってくる前に転生神からチートがあると聞いていた。
俺も同じだ。事前にハーレムのチートがあると聞いていた。
そのチートは、一度関わった相手の能力を一時的に使えるというものだった。
しかし…………。
「あたしがこの世界に来た時、そんなチートなんてなかった」
「チートが無かった?」
《はい。ボクに教えられていたそのチートは、ナナライドには反映されてませんでした》
《そんなことがあるんですか……?》
「それどころか、ピートの持っていた情報も全く役に立たなかった。まるで……」
「まるで?」
「転生した先を間違えたかのように」
転生先を間違える?
そんなの、こいつのせいじゃないじゃないか。
《ボクの調べた結果、どうやらナナライドの体にはそれまでの人生があったらしい》
「それまでの人生……確かに、母親とかもいたよな」
《本来はユーハさんみたいに、唐突にどこかに生まれる……》
《つまり、これは誰かの体だったんだ。そこに、ナナライドの魂が転生して行った》
「そうか、土産屋の女将さんが言ってたアリサってのがその元になったエルフ……」
アリサがナナライドになった時、その髪は真っ白になった。
そして、元になったアリサの魂はどこかへ消え去った……。
「残されたのはこの体と、凄く使いにくい能力だけ。精霊魔法も出来なければ、強い力がある訳でもない……」
「なるほど……」
そんな彼女が何をしたのか。
自殺をして、転生神にもう一度会おうとしたのだ。
しかし、それは出来なかった。
後ほど色々調べたポートに聞いた話だが、彼女の前世は自殺だった。飛び降り自殺だ。
死の間際の恐怖を、痛みを彼女は知っていた。
だからこそ、自殺は完遂できなかったのだという。
それでも何度かリストカットに踏み切った。
しかし、エルフの丈夫な体では一命を取り留めてしまうのだという。
「で、結局ナナライドはどんな能力があるんだ?」
「えっと、ちょっと小銭出してくれない? 一番安いのでいいから」
「あぁ」
小銭をいくつか取り出す。
その中から銅貨を1つ手に取ったナナライドは、俺に向かってその能力を発動させた。
……イテッ。
「何だ? デコピンされたような感じだったけど」
「それがあたしの能力。実際の金銭を消費して、相手に打撃のような攻撃をする」
そう言うと、ナナライドは手のひらを開いた。
そこには、砂のようになり姿を保てず崩れ去った銅貨があった。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
《今は金額が小さいからこの威力ですが、金貨や銀貨を使えばもっと高い威力は出せるようではあります》
「でも、金貨を使っても一撃必殺という程ではない。せいぜいバットで殴った程度」
「うーん、たしかにそれだと稼ぎが出来ないよなぁ」
この世界では明確なレベル上げとかは存在しない。
彼女の場合、地道に働いてお金を貯めるのが強さに直結するということになってしまう。
この世界で一番手っ取り早いお金稼ぎはギルドでクエストをこなすことだ。
もちろん、この里にはギルドも存在する。
だが、彼女の能力ではそれはお金稼ぎにはならないのだ。
その力はあまりに中途半端で、クエストの内容次第ではただただ赤字になってしまう。
「それでも最初は薬草採取とか、お店の手伝いをした」
《でも、パッとした成果はありませんでした》
「だから私は、全てを諦めたんだ」
これは半分本当で、半分嘘だった。
ポートによると、彼女は2度モンスターに襲われたそうだ。
1度目はなけなしの資金を使い果たし、なんとか撃退。
しかし、2度目はその資金を出し惜しんだ。
結果、彼女は背中に大きな傷を負い、その時共にいた仲間は命を落としたそうだ。
それがきっかけで、彼女は引きこもりになったのだという。
「さて……あたしの話はこれで終わりかな。ユーハ、あんたは?」
「えーっと、そうだな……」
俺はここに来るまでの話をした。
チートの事や、ハーレムの事。『マオウ』の事。
ちょいちょいポートの注釈も入りつつ、前世も含めて全てを話した。
《何かユーハさん、楽しそうですね》
「そりゃあな。この世界に来てから、隠し事ばっかりだったし」
「あたしも良かったよ。希望の光が見えた」
確かに銭投げ能力は微妙かもしれないし、力がないかもしれない。
でも、正直ピートの探知能力だけで十分力にはなる。
俺としては大歓迎だ。
「なぁ、俺達と一緒に来ないか? 他は女ばっかりだし、チートの力を発動させなくても別に良い」
「うーん、ちょっと気になる事があるんだよね」
うん? 気になる事?
「あたし、ちょっと心当たりがあるかもしれないんだ。その『マオウ』とやらに」
「へぇ?」
「だから、ここに残る。そうだな……一か月ぐらい経ったら、またこの里を訪れてくれないか?」
「あぁ、分かった。そうしよう」
うーん、残念。しかし、確かに協力者は出来た。
ここに来た甲斐があった。
「あ、そうだ。ポート、一個聞いていいか?」
《何でしょーか》
「俺のチートって、転生者にも効くの?」
《うーん、どうでしょう。何せ前例がないので》
「あー、ユーハ。あたしはいいや」
「そうか? 俺のチート、一応お前の素の力を強化できるぜ?」
ナナライドは笑いながら、こう言った。
「この人生でも、ファーストキスぐらいは大事にしたい」と。
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俺はナナライドにある程度の資金を渡して家を去った。
特に意味ないけどナナライドの母親のお店でエルフの里饅頭を買っておいた。
「あぁ、そうだ。ナ……アリサさんの事ですが」
「ありゃ、本当に行ったのかい?」
「彼女、多分大丈夫だと思いますよ」
去り際にバチコーンとウインクをして、お店を去る。
……決まった。
《ウインクは無いじゃないですかね》
(うっせえ!)
そして俺達は翌朝、エルフの里を後にした。
パーティー全体ではあまり得るものは多くなかったかもしれない。
だが、俺には確かに実りのあるものだった。
精霊魔法についての知識。転生者とのコネ。
他に転生者がいるかもしれないということ。それにはポートのようなサポートがついているかもしれないということ。
そして……。
「ユーハさん、そこに座ってください」
「はい」
「何でこんなにいらないものを買ったんですか?」
「それは……」
俺の目の前には、エルフの里饅頭とエルフ変装セット。
エルフキーホルダーとワッペンが置かれていた。
いやぁ、ちょっと良いデザインだったんだよ……。
今冷静に考えるといらないけど。
観光地補正、恐るべし……。




