3.精霊魔法
翌朝、俺とライトベルはとある屋敷の前へとやってきた。
この里の長っぽい人の家だ。
外観をエルフの里に合わせた、大きな煉瓦の建物だった。
「えっと、ここだな」
「……表札は……シャルル・ホーリー?」
《精霊魔法ではこの里の一番の実力者ですね》
「俺のチートを使っても、10人はハーレム囲わないといけないらしい」
「……へぇ」
宿の受付のエセエルフちゃんに聞いたので確かだ。
念の為、昨日ライトベルが風呂へ連行されている間に下見にも来た。
……宿の受付、ちょっと髪染めるのサボってたな。生え際に地毛の茶髪が出てた。
しかし、そんな大物のお宅に乗り込んでいいのだろうか。
仮にサイを暴走させた犯人がそいつだったりしたら、俺達ただでは済まないよな。
「いいか? 最終チェックだ。俺達は、あくまで相手の魔力を確かめるだけだ」
「……うん」
「仮に犯人だと分かっても、その場では絶対に口にするな。分かったな?」
「……分かった」
仮にその犯人がここの長だったとしても、正直俺達にはどうしようもない。
だとしたら本当はここに来るのも危険だ。
だが、俺達の目的は『マオウ』が復活するかどうかを調べる事。
もしこの里の長が、いやこの里そのものが復活に関わっていたとしたら。
その可能性がある以上、調べない訳には行かない。
まぁ、若干考えすぎだとは思うが。
あくまでスランとロントを引き剥がすのがとりあえずの目的だし。
まず俺1人で中に入ると、まさかの受付があった。
あれ? ここ自宅だよな?
《自宅の一部を、里の運営に使えるようにしているらしいですよ? 役所みたいに》
(へぇ)
里に転居してくる時とか、いわゆる婚姻届、出生届のような人口が増える手続きはここでやるらしい。
里の長に顔を出せて一石二鳥なのか。
どうでもいいけど、人口なのか? エルフの里だしエルフ口?
いや、人間もいっぱいいるから人口でいいか。
受付に座っている若い男に話しかける。
「すいません、里の長の方にお会いしたいんですが……」
「あぁ、はい。私です」
「ファ!?」
そのパターンは考えてなかった。
男は20にも満たない外見だ。
若い長というものなんだろうか。
「あぁ、すいません。予想以上にお若いので」
「ふふ、そう言っていただけて嬉しいですよ。実は、もう70を超えてるんですけどね」
「おぉそうなんですか」
ようやく、ようやくイメージ通りのエルフだ!
人よりも長い寿命で、人より若い見た目をしている!
やっぱりこういうエルフもいたんだ!
「じゃあ、奥へどうぞ」
「あぁ、ちょっと待ってください。ライトベル、入って良いってさ」
「……ん」
「おや? お連れさんですか?」
「えぇ、ちょっと度の過ぎた人見知りなので」
ライトベルがススッと俺の腕に近づき、裾を握った。
いいぞ、いい流れだ。
書斎のようなところへ通された。
貴重な資料があるんだろうか、ライトベルがちょっと興味深そうに本棚を見ている。
「改めまして、シャルル・ホーリーです」
「どうも、ユーハです。こちらはライトベル」
「……よろしく」
お互い自己紹介を済ませたタイミングで、1人の女性がハーブティーを持って部屋に入ってきた。
綺麗な人だな。やっぱりエルフだ。
「こちらの方は?」
「あぁ、私の娘です」
「へぇ!」
娘っつっても40は超えてるんだろうなぁ。
両方10代にしか見えない。同い年と言われても納得する。
ハーブティーを一口すする。
俺ぶっちゃけハーブ苦手なんだけど、雰囲気に流されて美味しく感じる。
歯磨き粉の味だが。
「それで、どのような御用ですか?」
「はい。実は私も精霊魔法を使うんですが、ここで精霊魔法を学びたいと思いまして」
「ほう、それはそれは」
「よろしければ、この里の実力者の方を紹介して頂けないかと」
仮にこの男が犯人でなかったとしても、他の実力者が犯人である可能性もまだ否めない。
一応その後の調査に繋げる為の布石だ。
「うーん、そうですねぇ。でも、ユーハさん? も結構な精霊魔法の使い手ですよね?」
あーやっぱり分かるんだな。
魔法使いとか聖職者とか呪術師だけでなく、精霊魔法使いも相手の力量がある程度わかるのか。
「そこなんですよ、そこ。実は俺、相手の魔力を見極める力がなくて」
「ほう……?」
「ここに来ればその技術も得られるかと思いまして」
これは正直なところだ。
相手の力量を見極められないというのは、それだけでマイナスになる。
事実、今回の事件でも俺がそういうのを感知できるようになっていれば捜査はもうちょっと楽だったと思う。
「そうですねぇ……じゃあ3人ほど紹介しましょう」
「3人?」
「少々待っていてください。3人の住所と、紹介状をしたためておきます」
「おぉ、助かります」
凄い良い人じゃねぇか。
ありがたく貰っておこう。
しばらくして、シャルルが2枚の紙を持ってきた。
1枚は住所の書いた紙。もう1枚が何か紹介状みたいな感じのものだ。
礼を言って帰ろう。としたが、そうだ。一個やるべき事があるじゃないか。
「そうだ、シャルルさん」
「何でしょうか?」
「シャルルさんって、精霊魔法の最高の使い手なんですよね?」
「えぇ、そうですね」
シャルル・ホーリーという明らかに魔法っぽい名前には理由がある。
魔術協会の会長、支部長。そしてライトベルの師匠もそうだが、姓に属性がついている人はその魔法の最高の使い手なのだ。
ちなみに、回復魔法の最高の使い手はホーリーではなくシャイニングだそうだ。
「記念として、一度精霊魔法を俺達にかけてくれませんか?」
「えぇ、良いですよ」
「ありがとうございます!」
よし、これでハッキリと犯人かどうか分かるはずだ。
少し俺達の心構えを待ってくれたのか、一瞬の間の後に精霊魔法が俺達を覆った。
それは、力強いものだった。
まるで昨日までの疲れが吹き飛ぶような。
今まで体験したことの無いような大きな流れが……。
少し体が温まる感覚がする。血流が活性化されているのだろうか。
ライトベルが、右腕でキュッと俺の腕を握った。
「……と、こんなもんでよろしいでしょうか」
「ありがとうございました!」
いやぁ勉強になった。
俺がかつて8人のチートの力を得ていた時より、確かに強い精霊魔法だ。
これで心置きなくここを去れる。
荷物を持ち、扉に手をかける。
「……ところで」
「はい?」
「アルフレッドという名前を聞いた事ありますか?」
「いいえ、俺は特に……ライトベルは?」
ライトベルも横に首を振った。
全くもって聞き覚えがない名前だ。
「そうですか、呼び止めてしまって申し訳ないです」
「いえいえ、こちらこそ力になれず……」
あぁ、面倒臭い。この人に合わせると、どうも腰が低くなってしまう。
俺は貰った2枚の紙を懐に入れながら、長の屋敷を後にした。
「結局違ったな。あの人」
「……うん」
シャルルの魔法をかけて貰った時、ライトベルは俺の腕をキュッと握った。
これは、俺達が決めておいた合図だった。
まず、自然にライトベルが俺の腕に組みつく。
そしてライトベルが判断できるタイミングで、俺の腕を握る。
相手が犯人なら左腕で。相手が犯人でないならば、右腕で。
ライトベルは、魔力の指紋のようなものを判別できるようにしてあった。
書いた魔法陣を懐に入れ、反応を見る。
同一人物だったら、魔法陣から微弱な魔力がライトベルから流し込まれる。
リトマス試験紙みたいだな。
《妊娠検査薬みたいですね!》
(お前マジで黙ってろ)
もちろん前世の妊娠……じゃなくて指紋認証程の精度はないが、大体同一人物かどうかぐらいは判断できるらしい。
そんなライトベルチェックが、俺たちに精霊魔法をかけたタイミングで行われた。
右腕でキュッとされた時、心底安心した。
格上の相手とやり合いたくはないからな。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「ありがとうございました……」
「おう! 頑張れよ! あんちゃん!」
俺はげんなりとした感じである家から出た。
ちなみに、この家は例の紹介された実力者の2人目だ。
1人目のねーちゃんは良かった。
今の俺より少し精霊魔法が上手い程度だったが、何というか質が良かった。
恐らく色々と研究していたのだろう。魔力の流れが滑らかだった。
彼女によると、質が良いと消費する魔力の量が違うのだろう。
しかも俺が相手の魔力を感じられない事に対して『魔法の力にまだ馴染めてないのかもしれない』という説を挙げてくれたのだ。
確かにその可能性はある。この世界の人は魔法の力に馴染みながら成長した。
だが、俺は違う。その違いが出ているのかもしれない。
しかし、2人目のおっちゃんがなぁ。
「精神論はなぁ……」
「……あぁいうの、苦手」
「腕立てが精霊魔法に何の役に立つんだよ……」
「……私までさせられそうになった」
お前は時代遅れの体育教師か。
何かン熱血指導とか言ってたけど。
しかも、俺のチートで換算するとチート2人分ぐらいの実力だろう。
ちょっと魔法を使いこなしたかな? ぐらいの実力者だ。
何を偉そうにと何度も心で思った。
この2人は予想通りだが、ライトベル診断で犯人でない事が分かった。
そんなこんなで、俺達は3人目の実力者の家にやってきた。
そこで俺は、これまでこの世界で築き上げてきた価値観を根本から破壊するような人物と出会う事になる。




