第十ニ環 「その力を示せ」
『——続いて第二試合!!』
司会の声が響く。
『天津零、連戦となります! 対するは——《影刃》のヴェルク!!』
現れたのは、全身を黒い装束で覆った細身の魔族。
両手には、逆手に構えた二本の短剣。
——スピード特化の暗殺型。
『——試合開始ィ!!』
鐘が鳴った。
瞬間。
ヴェルクの姿が——消えた。
「……!」
速い。
だが。
(——昨日よりは、見える)
昨日。
ルシアの高速魔法を何度も浴びた。
正面。
左右。
背後。
時には零の死角へ直接魔法陣を展開し、逃げ道を潰すように撃ち込んでくる容赦のない連射。
『実戦なら待ってくれないわよ!』
途中から零は、目だけで追うことを諦めた。
空気の揺らぎ。
魔力の流れ。
僅かな殺気。
だから。
「——左」
——ギィンッ!!
何もなかった空間で火花が散る。
「……っ!?」
ヴェルクの短剣が弾かれた。
「……見えてんのか」
零は答えない。
ヴェルクが再び消える。
右。
違う。
フェイント。
なら——。
「上か」
宙から二本の短剣が迫る。
零は前へ転がり、落下攻撃を躱す。
そのまま振り返り。
「——ッ!」
魔剣を斬り上げる。
——ゴッ!!
峰がヴェルクの手首を打ち抜いた。
短剣が一本、宙を舞う。
「くっ——!」
ヴェルクは残った短剣で斬りかかる。
零は受け流し。
そして、一歩——踏み込んだ。
「——っ」
ヴェルクの胸元。
魔剣の切っ先が、そこへ触れていた。
数秒の沈黙。
「…………参った」
『——勝者、天津零ィィィィ!! 怒涛の二連勝だァァァァァ!!』
——ワァァァァァァッ!!
今度こそ。
闘技場を揺らしたのは——歓声だった。
「ヴェルクの動きに対応しやがった!」
「あの人間、マジで強いぞ!」
「魔王様直属は伊達じゃねえ!!」
零が思わず苦笑する。
「……なんだよ。結構、調子のいい奴らだな」
◇
『——さあさあ!! 本日の大トリ!!』
司会の声が一段と大きくなる。
『二連勝中の天津零に挑むのは——A級闘士!!』
空気が変わった。
『《轟炎》の——バルザスゥゥゥゥ!!』
「うおおおおおおお!!」
通路から現れたのは、深紅の重鎧を纏った魔族。
身長は百九十センチほど。
両手には巨大な戦斧。
零が警戒したのは——その全身から溢れる炎の魔力。
「——人間」
バルザスが口を開く。
「ここまで来たことは認めてやる」
戦斧を肩へ担ぐ。
「ガルドを捌き、ヴェルクの速度にも対応した。見事だ」
「ずいぶん素直だな」
「実力のある戦士を、種族だけで侮る趣味はない」
そして。
——ドンッ!!
戦斧の柄が石畳へ叩きつけられる。
——ゴォォォォォォッ!!
炎が噴き上がった。
一気に上昇する気温。
石畳が赤く焼け始める。
近接型。
そして炎魔法。
——複合型。
「俺は、さっきまでの二人とは格が違う」
炎に包まれた戦斧が持ち上がる。
「——本気で来い」
バルザスの瞳が零を射抜く。
「さもなければ——死ぬぞ」
◇
観客席。
「……A級」
ルシアの表情から余裕が消える。
「あいつ、城下じゃかなり名が通ってるわ」
「うん」
シエラも真剣な顔で闘技場を見つめる。
「力もある。魔法もある。それに、戦い慣れてる」
僅かに目を細める。
「今までとは——別格だね」
◇
貴賓席。
リリスが身を乗り出す。
深紅の瞳に映るのは——零。
二戦目までは、《神装》すら使わなかった。
ならば。
今度はどうする。
リリスの口元に、楽しげな笑みが浮かぶ。
「——見せてみなさい、天津零」
『——第三試合、開始ィィィィ!!』
鐘が鳴った。
「——オオオオオオオッ!!」
バルザスが踏み込む。
炎を纏った巨大な戦斧が、零めがけて振り下ろされた。
炎が迫る。
紅蓮の渦が、零を呑み込もうと広がっていく。
だが。
零は——動かなかった。
金色の瞳が、淡い光を帯びる。
「——《夢幻抱擁》(ウロボロスサーキット)、発動」




