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第48話 実験記録室の真実

 施設の最奥部から、重い足音が響いてきた。


 白い法衣の大柄な男が、通路の奥に立ちはだかっていた。通常の聖職者とは異なる体格だ。首筋から頬にかけて、不自然に光る紋様が走っている。スキル書き換え実験の被験者——。


「教会特別研究部門、第三室長。——お前たちが施設に入った時点で、報告は上がっている。もっとも」


 男が三つの魔法陣を同時に展開した。火、氷、雷。三つのスキルが一人の人間の身体から同時に発動する。自然な発現ではありえない——書き換え実験で無理やり複数のスキルを植え込まれた改造人間だ。


「ここから先は通さない」


「ヴァル」


「わかっている」


 ヴァルが前に出た。オーリエルが白銀の光を纏う。呪いが完全に解けた今、この剣の光は三千年前の輝きを取り戻している。


「ゼク。弱点を」


「首筋の紋様。あれが書き換えスキルの制御回路だ。三つのスキルは全部あの紋を経由して動いている。あそこを断てば、三つとも止まる」


「了解。——ニーナ」


「ああ」


 ヴァルが正面から斬りかかった。室長が火の魔法陣を盾にして受ける。炎がオーリエルの刃に弾ける。同時に氷の槍が左右から迫る。ヴァルが身を捻って回避し、返す刀で氷を断ち割った。


 雷が来る——背後のティアとリーリアに向けて。後衛を狙った。


「リーリア!」


 リーリアが慈愛の泉の光の壁を展開した。雷が光壁に弾かれ、火花が散る。


 その瞬間、ニーナが室長の背後の影から出現した。影渡り。音もなく。


 室長が気配に気づいて振り返る——が、遅い。ニーナの手刀が首筋の紋様に叩き込まれた。


 制御回路が断裂する音が——した。三つの魔法陣が同時に消滅し、室長の身体から力が抜け、膝から崩れ落ちた。


「借り物のスキルは、接続を断てば動かなくなる。——覚えておけ」


 ニーナが室長を見下ろした。室長の目は虚ろだった。身体に無理やり植え込まれたスキルが消え、抜け殻のようになっている。


 ヴァルがオーリエルを鞘に収めた。


「制圧完了だ。——上にいるエルフ部隊と合流する。施設全体を封鎖しろ」



 制圧が完了し、施設の外に出た。夜明け前の空が白み始めている。


 リーリアが座り込んでいた。三十四人の子供の治療で魔力を使い果たし、顔が蒼白だ。


「リーリア。大丈夫か」


「大丈夫です。……少し、休ませてください」


 俺の隣に座った。肩が触れた。リーリアが俺の肩にもたれかかってきた。


「ゼクくん。——わたし、今日、自分のスキルが好きになれました」


「深層効果か」


「はい。傷を治すだけじゃなくて——壊れた回路を元に戻せる。あの子たちの身体から実験の痕跡を消せた。それが——嬉しかった。嬉しくて、泣きながら治療してた。みっともなかったですよね」


「みっともなくない。お前の涙で、子供たちは安心したと思う」


 リーリアが俺の肩に顔を押し当てた。疲労と安堵が混ざった涙が、俺の服を湿らせている。


「ゼクくんの傍にいると——わたし、強くなれるんです。銀嶺の剣にいたときは、ずっと怖かった。自分が役に立ってるかわからなくて。でも今は——」


 リーリアの身体が俺にもたれかかる重みが増した。疲労で身体を支えきれないのだ。俺の腕がリーリアの肩を支え、引き寄せる形になった。


 リーリアの柔らかい身体が俺の胸に収まった。ふくよかな胸が俺の脇腹に当たっている。疲労で力が入らないのか、押し当てられる圧力がいつもより大きい。


「……近いですか」


「近い。だが今は構わない」


「ありがとうございます。——もう少しだけ、このまま」


 リーリアはそのまますぐに眠ってしまった。俺の胸に顔を埋めて、寝息を立てている。


 ヴァルが横を通りすぎた。一瞥して、何も言わなかった。


 ニーナが反対側を通った。「共犯が増えたな」とだけ呟いた。

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