内示
私はオンライン会議を二つ抱えていた
一つは県
一つは国
何方も
「確認」と「すり合わせ」の為の会議だ
画面の向こうで
県の担当者が言う
「基本設計 拝見しました」
「ありがとうございます」
「かなり抑えた計画ですね」
「はい 運営が先に立つようにしています」
「正直に言いますと」
担当者は 言葉を選ぶ
「この規模であれば
採択後の大きな修正は求めない方向です」
それは
遠回しな評価だった
「ただ」
次のスライドが映る
「事業効果の書き方 少し整理しましょう」
「数値を盛る必要はありません」
「ですが 何かが変わるか は
明確にした方がいい」
私は直ぐに頷いた
「人を増やす ではなく」
「止まる人が増える」
「戻る理由が一つ増える」
「その程度で 書き直します」
担当者は小さく笑った
「それで十分です」
昼過ぎ
次は国側
「最終要件として 問題ありません」
淡々とした声
「防災拠点として記載
この表現で行きましょう」
「分かりました」
「一点だけ」
「開業後の赤字想定ちゃんと書いてますね」
「はい」
「覚悟 ありますね」
「あります」
それ以上 何も聞かれなかった
会議が終わり 画面が暗くなる
私はしばらく動かなかった
派手さは要らん でも 逃げてもあかん
メモ帳に 短く書く
数字は正直に 期待は煽らない
続けられる理由を書く
夕方
一本だけ電話が入る
「昨日の配信 もう一度見れますか?」
「はい アーカイブ残しています」
「ありがとうございます
今回は行けなかったけど
来年は泊りに行こうかなって」
菫は
「ありがとうございます」とだけ答えた
電話を切った後 深く息を吐く
増えてへん でも 届いている
それを見て私は足を止める
ホタルの季節は まだ続いている
静かな反響と 静かな調整
この二つが
同時に進んでいることを
私は少しだけ誇らしく思った
「反応は どうですか」
「静かです」
「それは成功ですね」
菫は笑った
「来すぎない って
こういうことかもしれません」
窓の外では
夕方の光が田んぼに落ちている
役場の掲示板に小さな紙が貼られる
ホタル配信について
ご協力ありがとうございました
ある日
もう仕事の時間は終わってるはずなのに
私は役場の席を立てずにいた
デスクの向こうには パソコンの画面
開いてるのは
補助金申請の確認メール画面
「…まだか」
誰にも聞かない言葉が
静かに部屋にこだまする
スマホの着信履歴は
今日も内示関係の番号だけが残っている
まだ来ないか
手元の時計を見る
夕刻の空は 山際で赤く沈もうとしている
「もうすぐ 来るはずなんやけどな」
私は そう言って笑うように息を吐いた
庁舎内の隣室で菫は
まだ資料を整理している
クラウドファンティングの案を練った資料
パソコンの上の最終案は
まだ「下書き」のままだった
外では 風が柔らかく吹いている
ただそれだけで 少しだけ心臓が重くなる
来ないな…
私はそのまま外を見た
夕陽は 思ったより赤く美しかった
その時間だけが
胸の緊張を消してはくれなかった
菫はメモ帳を開いていた
クラウドファンディング実施案
休憩所サポートコース
直売品お試しコース
ホタル配信参加権
見守り支援プレート
何度も書いては消し 消しては書いた
ふと 隣室から山中さんが出てきた
「どうや?そちらわ」
「内示は…まだですか?」
菫は返した
山中の肩には夕陽の光が落ちる
「…じゃあ だめだったのですね」
菫は少し息を吐く
「準備だけでも始めた方がええと思います」
「クラウドファンティング
部分的にやるって事?」
「はい 使わない金額も含めて
計画書の一部にします」
山中は静かに頷いた
「来なくても
止まらんように やるしかない」
「ええと思います」
二人の間に 微かな前向きな空気が流れた
その瞬間 スマホのメール受信音が鳴る
山中の画面に 知らない番号からの通知
「…補助金内示です」
私は少し呆然としている間に
スクロールしていく文字
令和〇年度
地域振興施設整備補助金(雨実村事業)
補助金額:満額支給が決定しました
私は 思わず目を大きくする
「菫 来たで」
菫は画面を覗き込む
二人とも 言葉がなかった
ただ
夕方の空が静かに移ろいでいくだけだった




