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27話

「……ここは」

 そこは暗い闇の中だった。先ほど浩一が居た中華飯店の中とは全く違う。全く別の空間が広がっていた。

「ようやく、ここまで来れたみたいだな」

 浩一が後ろを振り向くと、そこには見知った顔が居た。最も、顔が真っ黒なので見知った顔というのはある意味違うが。

「御前クロだな」

「ああそうだ。まあ、ついさっき会ったばかりだから久しぶりということもないか」

 ハハハ、という笑い声の後クロはすぐに黙り込む。眼の前の真っ黒な存在と同じように浩一も黙りこむ。

「やばいな」

「……やばいのか? やっぱり」

 浩一の問いかけにクロは黙って頷く。

「御前、今血が足りないんだ。それに、もし万全だったとしても御前元々戦うことというか、殺すことは嫌いじゃないのか?」

「……」

 浩一は無言だった。だが、クロの言うとおり浩一は本来戦うことが嫌いだった。元々争いごとも好きな方ではなかったし、両親が死亡した過去もあり無意識のうちに死を恐れている節があった。確かにジャックの言うとおり、人の形をしている相手が浩一は苦手だ。

「まあ、良いさ。なら、御前は相手を殺さないで戦うって覚悟決めればいい」

「殺さない覚悟……?」

「ああ」

 クロはそこで言葉を切ると自分の右手を浩一に差し出した。

「俺の血を貸してやろう。代わりに決めろ。戦う覚悟を、そして殺さないって決めた御前の覚悟を」

「俺の……殺さない、覚悟」

「護りたい奴が居るんだろう? 例え自分の手を汚しても、護りたい奴が居るんだろう?」

「川島……っ、欲しい。力が……欲しい!!」

「さあ、受け入れろ。俺の力を。御前の覚悟で作り出せ。御前の血鬼斬を」

「うぉおおおおおおおおおおお!!」

 浩一は叫びながら、クロの手を掴んだ。その瞬間。クロの身体が足元から消えていき、腕を介して浩一の身体へと黒い存在が流れ込んでいく。

「うわぁあああぁああああああああ!!」


 クロとの邂逅は、時間にして0、1秒にも満たない時間だった。だが、浩一はその時間の中で、自らの護りたいモノを手にする力を得ていた。

「我が……手に、」

「ん?」

「我が手に、鬼の血を!」

 例え自分の手を鬼の手で真っ赤に染めたとしても。

「我が手に鬼の血を! 他者に希望の光を……与えよ!!」

 それでも周りの者を救うこと。それが浩一の望みだった。


その言葉を紡いだ瞬間。浩一の右手に持っていた血鬼斬がドロリとした血液に戻った。更に血液は刀の形に変わった途端、血液は再び硬化する。それは一般的な日本刀だった。柄も鍔も黒く、刀身は銀色に輝いている。だが、その刀身全体にはなんのためか、幾重にも白い包帯が巻かれており、日本刀としての機能を著しく低下させているように見えた。

「百光(びゃっこう)……」

 浩一は百光と名付けた刀を振るう。気が付いてみれば身体は先ほどよりも軽く、全身の傷も塞がっていた。

「へー……。それが君の血鬼斬かい」

「……これなら、全力でいける。行くぞ」

 そう言うと浩一は両手で刀を握り直しジャックに斬りかかる。しかし、ジャックは右手に持っていた剣1本で浩一の刀を易々と受けとめる。その表情は余裕そのものだった。

「いきなりどうしたの? って感じだね。そう言えば、聞いてなかったね。名前は?」

「麻生浩一」

「麻生浩一? どっかで聞いたかな……ああ、そっか。川島瞳の報告の。へー、君がそうだったんだね」

「そんなことはどうでもいい……!!」

 浩一はジャックが受けた剣を切り払うその度に何度も刀で切りつける。だが、ジャックは浩一が何度切りつけてもその都度圧倒的な反射速度でその攻撃を受け続けていた。

「そこそこ早いじゃないか。だけど、それじゃまだだ」

 4度目になっただろうか。ジャックが浩一の斬撃を防いだ瞬間、左手に拳を作り出すとそのまま拳を浩一へと向ける。

「脇が甘いよー」

「甘いのは、御前だ!!」

 その言葉をジャックが聞いた瞬間、ジャックは自分の左手に違和感を覚えた。見てみるとジャックの左手が包帯でグルグル巻きにされていた。その包帯は浩一の持つ刀の刀身に巻きつけられている包帯から伸びたものだった。その包帯によりジャックの拳の攻撃は止められた。

「……あ」

「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 逆に浩一が右手に拳を作るとジャックの顔面に狙いをつけて殴りつける。諦めたような、面倒くさそうな笑顔を作ったジャックはそのまま左頬を殴りつけられるとそのまま仰向けに倒れた。浩一はジャックの左手に巻き付いていた包帯を解くと切れ味がどれほどあるかもわからない刃をジャックに向ける。

「終わりだ」

「終わり? ……く、くは。クハハ。アハハハハアハハハアハハハハハハハハハアアハハハハアハハハハハハハ!!」

 ジャックは仰向けになったまま笑い続ける。その笑い声は今までにないほどに楽しそうな笑いだった。

「……」

 浩一はソレを不気味に思いながら、それでも自分の現在の状況が上であることに自信を持っていた。倒れたままのジャックに刀を突き付けている浩一。包帯を巻きつけているとは言え刀だ。叩き付けただけでもダメージにはなるはず。そう浩一は考えていた。

「アハハハハハハハハアハハハハハアハハハハハアハハハハハアハハハハアハハ……ハァ、疲れた。もう良いかな?」

 ジャックがそう言った瞬間だった。浩一はジャックの剣の鍔元に異変が起きたことに気付く。それはまるで小さな蛇の様なものがいくつも蠢いているようだった。

「なっ……?」

「ああ痛かったなぁ……。あーあ、ハァッ。味なまねをしてくれるじゃないか、糞餓鬼。まさか御前の血鬼斬がその程度でも特異な能力を持っているモノとは思わなかったよ。糞餓鬼相手にここまでするつもりもなかったんだけど……しょうがないよね」

 ジャックは仰向けの状態から立ち上がろうとする。それを見た浩一は右手に持っていた刀でジャックを斬りつけようとするも、突如腹に痛みを感じた。正確には左の脇腹。服が千切られ、そこに5円玉程度の大きさで切り傷というよりはまるで噛みちぎられたような傷が出来ていた。

「グッ!?」

 怯んでしまったために浩一はジャックが立ち上がることを許してしまった。ジャックは首をグリグリという擬音が似合いそうなほど回していた。そして、その顔にニタリとした笑みを作り出す。

「さ、て、と」

 語尾に音符でも付きそうな言い方でジャックは言う。この状況で余りにも不可思議に不似合いで不釣り合いな言葉だった。

「さてと。じゃあ、やろうか」

 と、ジャックが言った瞬間だった。先ほどまでとは比べ物にならない速度でジャックが浩一に近づく。浩一は慌てて刀を両手で握り直すもそのジャックの早さに追いつくことが出来ず、刀を構えるより先に腹を左足で蹴られる。

「グゥッ!! こ、のっ!!」

 浩一はジャックの攻撃後の隙を狙って斬り返そうとするも、ジャックはそのとき既に身をギリギリまで屈めることで浩一の視界から一瞬ではあるが消える。

「なっ、しまっ!!」

「死にな」

 ジャックは下からの切り上げで浩一を狙う。咄嗟の攻撃のため包帯で攻撃を防ぐことも、攻撃をかわすことも出来ない。そのままジャックの刃は浩一の身体を真っ二つに両断するはずだった。


 が、それはジャックの刃と交差したもう1つの刃とそれに伴う金属音によって防がれた。しかし、その刃は浩一のものではない。

「川、島?」

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ」

 その刃は瞳の剣によるモノだった。肩で息をし、背中の傷に痛みを感じながらも浩一を自らの剣で護った。

「川島瞳、もう一度言おうか。裏切るのか?」

「裏切ったのは、貴方……よ」

「川島……」

 浩一の問いかけにも瞳は答えない。瞳の背中は震えており、項には汗がびっしょりとかいていた。

「……面白いねぇ。本当に御前達って連中は。愛ってやつだね、愛」

 ジャックは喉を鳴らし、口角を上げて笑う。クックックという音は2人に対する侮蔑と嘲笑が込められていた。浩一も瞳も、ただ自分の得物を握る。このプレッシャーと傷のために全身がガクガクと震える2人。一方のジャックは笑みを絶やさず、ともすれば立ったまま眠れそうなほどの余裕であった。

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