19話
「……出たな」
「待たせたのう……」
アルドは発動させた血鬼斬を振るう。対峙する混沌は気を引き締めるため、改めてカオスグロウを構える。アルドは振るった血鬼斬、死斬絶光を見据えていた。リーチは混沌のカオスグロウと比べて短く、不利に見えるが一度接近して懐に入れればアルドのほうに分があるものであった。
「ここからじゃ」
「……いざ」
そう言うと、アルドは右手に持っていた刀を両手で持ち直すと混沌に接近する。一方の混沌は両手で大鎌を握りなおすとアルドの動きに合わせて後ろに2度跳ぶと一度大鎌を振るう。だが、アルドは高速で振るわれた巨大な刃を自らの刀で防ぐと更に右手を刀から離し、混沌の大鎌の先端を素手で握る。
「何!?」
「ヌォオおおおおおおおおおお!!」
アルドは自らの手から出血することも厭わずに混沌の刃を引っ張る。武器を奪い、一気に決着をつけるためである。だが、混沌もそのままペースを握られることはなかった。混沌は持っていた大鎌から両手を離すと、代わりに大鎌に巻き付いていた鎖の方を手にし、姿勢を下ろすとアルドに急接近する。
「混沌……!!」
「うぉおおおおおおおおおおお!!」
アルドは混沌が大鎌から手を離したことを確認すると、瞬時に大鎌の刃から手を離すと両手で刀を握りなおす。だが、それこそが混沌の狙いだった。
「……!」
混沌はアルドが自分の大鎌から手を離した瞬間、鎖を自分の左手に巻き大鎌を強く引っ張る。そして、大鎌と混沌を結んだ直線上にはアルドがいた。
「チィッ、簡単にはやらせんか!!」
アルドは混沌の手の動きを見て、すぐさま右に跳び混沌と大鎌の直線上から避ける。その直後、アルドの居た場所は高速で引っ張られた大鎌が通り過ぎる。あの質量とあの速度で斬られては腕であろうが足だろうが一発で斬り裂かれるのは目に見えていた。
「じゃがのう……」
そう言うとアルドは再び接近し、混沌と距離を詰める。混沌は先ほどのように後ろに下がるのではなく、逆に一歩先に踏み出した。アルドを待ちうけるのではなく、アルドより先に斬りつけることを考えたのだ。混沌が踏み出し、アルドを斬りつけようと大鎌を振るおうとした瞬間だった。アルドは先ほどの踏み込みとは比べ物にならない速度で、一瞬で2歩踏み込んでいた。
「何っ!?」
「舐めるな若造が!!」
混沌は既に攻撃のモーションに入っていたために今更防御態勢を取ることは出来ない。かと言ってほぼゼロ距離まで接近されてしまった今の状況ではではアルドの攻撃をかわすことも出来なかった。
「ワシの力、忘れたか。……ならば、もう一度思い出させてくれよう!!」
混沌の耳元でアルドがそう言った瞬間だった。アルドは混沌の身体を左の肩口から切り裂いた。だが、斬り込みが甘かったか、血は思ったよりも出ず、致命傷には至らなかった。最も、人間であれば出血によるショック死の恐れも十分にあったが。
「がっ……はっ!!」
だが、それでもその痛みに混沌は倒れ込む。倒れ込んだ混沌の頭をアルドは自らの刀で貫こうと上で構えた。だが、何を思ったのか、目を閉じて刀を混沌の頭から数㎝離れた地面に刀を突き刺した。
「……殺さ、ないのか……?」
「ワシは、いずれ吸血鬼達を統べる者」
そう言うとアルドは縦に傷の入った目で混沌を見た。そこには先ほどまでの殺意はない。
「無駄な殺しは嫌いなものでな。精々生き恥をさらせ。殺されそうならワシ等のもとに来るがいい」
そう言うとアルドはすぐ近くの稼働していない業務用エアコンの室外機の上に座り込んだ。
弐剣を持った剣弐とパンフウを手にした梁崙の戦闘も続いていた。双身刀の弐剣をバトンのように振り回しどちらの刀身から攻めるか変幻自在の弐剣と、時に杖のように振るい、時に棒部分に持ち替えて持ち手部分で攻撃を仕掛ける梁崙。奇しくも変幻自在の武器同士のぶつかり合いとなっていた。
「中々良い、死ななくて良い」
「やりますね。どうにも動きが読めない」
互いにタイプの似た血鬼斬を使うためか互いの動きを予測しやすい。ゆえに、互いに決定打を打てずに居た。
「面白くて良い」
「続けましょうか」
2人は最早戦いの結果のことなど半ば考えてはいない。ただ、次の一手は何か。さながら新手を探す棋士のように未開の一手を探し始めた。
「何だ……その剣は?」
浩一は思わず聞いてしまった。瞳のその剣は浩一が今までフィクションなどで見てきたような物の中にもない、非常にバランスが悪そうな剣だったからだ。片刃と両刃、更には鋭い先端。たった一刀に詰め込むにはバランスが著しく悪い気がした。
「一体……」
と、そこまで浩一が言ったとき、鳴滝は音も立てずに走り出した。瞳との距離は僅か3mほどしかない。走りながらも煙管を口に銜え、一度大きく吸ってから煙を吐き出すと先ほどと同じように煙を瞳の身体全体に絡めていく。一方の瞳は、まるで鳴滝の動きが見えていないかのようにその場から動かないでいた。
「か、川島!?」
浩一は瞳を逃がそうと考えた。彼は誰も死なない方法を探していたからだ。だが、走ろうとした浩一の前を鳴滝が陣取った。まるで浩一の行く手を邪魔するかのように
「おま、」
「終局」
鳴滝がそう言って吸い終わった煙管に再びマッチで火をつけた。その瞬間、
瞳を覆っていた煙が、爆発した。
「なっ!?」
「……」
鳴滝の煙管の煙は毒ではなかった。だが、爆発物でもないことにすぐに気付く。一瞬の爆発の後、そこに瞳はいた。だが、先ほどまでの彼女ではない。彼女の全身、先ほどまで彼女の周りに存在した鳴滝の煙はいくつもの刃が連結したかのような、まるで蛇のような刃が彼女の全身に喰い込んでいた。
「私の血鬼斬、叢雲の力」
鳴滝が言う。彼女の叢雲は彼女の煙管から出る煙、煙管に点火させる火、この2つの組み合わせで煙を刃に変化させることが出来ると言うことだった。煙を敵に囲んでから火をつけなければならないため時間が掛かるが、上手くいけば一度に多くの敵にも攻撃が出来るという話だった。
「血鬼斬……か」
鳴滝の話を聞き、相槌を打ちながらも浩一は鳴滝を見ずに瞳だけを見ていた。全身に蛇のように巻きついた刃は彼女の全身を傷つけている。だが、ふと疑問に思った。もし、彼女が鳴滝の力を知っていたとして。何故、煙に囲まれたとき、そこから逃げなかったのか。最初の血鬼斬のままの時は、逃げることに意識を集中させていたにも関わらずに、だ。
「これで、終わりみたいね」
その瞬間、浩一と鳴滝は比喩ではなく、本当に自らの首の骨がギギギと鳴る音を聞いた。視線の先には、刃に巻きつかれた瞳が居る。先ほどの声は彼女の元から聞こえた。
「……鳴滝、貴女の血鬼斬、何か変わったか、興味があったからね。でも、これで終わりならもう良いわ」
瞳は全身を刃で傷つけられ、血を流しながら、それでもその眼光を鳴滝に向ける。
「ッ!! アァアアアアアア!!」
瞳と目が合い、まるで蛇に睨まれた蛙のようになった鳴滝は咆哮を上げると、もう一度煙管を銜えようとした。
「……血粒、硬化」
瞳は全身に刃が食い込んで動けない状態の中、剣を持った右腕を無理矢理に動かす。動かすたびに腕に食い込んでいく鳴滝の刃をものともせず、血が流れ続けている左腕に鍔元の刃を当てる。
その直後、突如全身からドクドクという擬音が似合いそうなほど血を流していた瞳の全身の流血が止まった。まるで見えない包帯で各部を縛ったかのようにピタリと流血が止まると、瞳は両腕を交差させる。刃が食い込んでいるはずなのに、血の一滴も流れなくなった。だが、それだけではなかった。
「ハッ!!」
瞳が勢いよく両腕をそれぞれ外側に開くと、彼女に巻き付いていた刃は大きな音を立ててバラバラになっていった。
「嘘……だろ!?」
浩一は目を疑った。普通の人間があんなことをしたら、腕を開いた瞬間に刃が食い込んだ部位が引き千切れる。そうでなくても先に急激な出血によってショック死するか、出血多量で死ぬ。それを彼女は、人の身で刃を引き千切ったのだ。
「川島……?」




