15 布津の神移し#5
【カムナのチカ】
【ケン!】
先手の進軍を妨害するノロヰをこの手槍で射貫く。
「うぉりゃあああーーー!」
さすがと言うべきか、オオヒコさんと纏向勢の粘りは感嘆に値する。進軍スピードもほぼ維持している。
俺の方はと言うと霊力が明らかに落ちてきている。
術をかける際に視界がボヤけている。
霊力切れも間近にある症状だ。
「石上だーーー!!」
誰がが叫んだ。
遥か遠く、微かに石上が確認できる位置に来たようだ。
しかし、皆にとって一縷の望みと言えるものだ。
もう突っ切るしかない。
心無しか進軍スピードが上がったように思える。
人間、ゴールが見えると俄然やる気が出るものだ。
「オオヒコ様ーー!」
先頭で動きがあったようだ。霊力の使い過ぎで霞む目を凝らした。
単縦陣?
先頭は今まで3列縦隊で進軍していたのだか明らかにオオヒコさんを先頭に1列縦隊に変形している。言わば、ディフェンスを捨てた超々攻撃型陣形だ。
最後の勝負に出たか。
先頭の剣持ノロヰにを俺は必ず射止めるしかない。
【カムナのチカ】
【ケン!】
かなり射撃精度が落ちてきたが何とかなる。
【ケン!】
この特攻を命運を握る先頭を死守する事が最優先。
「ヤエ様ーーー!!」
美和の者たちが指を差し俺を呼んだ。
剣持ノロヰが神輿を横撃しに迫って来ている。先頭に意識を集中し過ぎたとは言え油断した。
数は3柱。
考えてる余裕はない。この単陣形は横撃には無防備に近い。
【カムナのチカ】
【ケン!】
まずは横撃の剣持ノロヰの一番左の個体を瞬殺。
続けて真ん中の個体に連撃を喰らわす。
【カムナのチカ】
【ケン!】
「バァァシュュ ュ ーーーーー!!」
当たった・・・・だが、狙いと違う右の個体に当たった。
もう限界に近い。だが残り1体を何とかするのは俺の仕事だ。
俺は次の手槍を取るためストック入れを探った。
残り1本・・・・ちょうど良い。
これを打ち尽くしたら俺も白兵戦に戻るだけだ。
最後の仕上げの一発。
【カムナのチカ】
射撃精度が極度に下がった今、ノロヰを引き付けるだけ引き付ける。
真っすぐこちらに突進してくるノロヰを凝視する。
【ケン!】
「バァァシュュ ュ ーーーーー!!」
胴体の真ん中を狙ったが首元に当たった。
結果は良かったが本当にリミットオーバーだ。
霊力もかなり乏しい状態だ。
全身に力が入らない。
今は位置状況は?
前方を見直すが、視界全体ぼやけて確認できない。
俺 「誰か!今の位置を教えてくれ!!目がぼやけて見えん!!」
戦っている守り人の怒号と超速進軍の足音が大きくて声が届いていない。
くそ、状況が判断できなければ迂闊に動けない。
シコオ 「ようやりましたな。」
??????
鎮めに集中していたシコオさんから話しかけられた。
俺 「どうなっています?力の使い過ぎで目が良く見えないのです。」
シコオ 「もう大丈夫です。今、オオヒコが石上に入ろうとしている所です。」
・・・・・・安堵で声がでない。
シコオ 「後は鎮め手にお任せなされ。」
俺 「ですが、まだやり残したことがあります。」
石上に向かって行く神輿とは逆方向を向いた。
後手はどうなってる?
置き去りにしてきた者たちは?
俺「皆無事かーーー!!ワシは目がよう見えん!返事をせぇーー!」
まばらではあるが返事は聞こえる。全滅という事はないが数は減っている。
俺 「オオミナーーーーー!!!!生きてるか!! オオミナーーーー!!」
かなり前に置き去りにして来たので隊列も伸び伸びとなっているため声が届かないか、もしくは・・・・
俺 「ヒコーーー!!ヒコはおるかーーー!!」
連絡役として従軍しているヒコには常に側にいるように伝えていたのが、いつの間にか確認できていない。見通しの甘い作戦を立ててしまった自分を責める思考が黒いインクを白紙の漬けたようにじわじわと俺を襲う。
「ヤエ様!少し前にはなりますが、ヒコを担いで進んでいるオオミナ殿を見ました。」
後手にいる誰かが答えてくた。
「・・・・・・ヤエーーー」
「ヤエーーーひ〇▽◆×だ◆×ーーー」
オオミナだ。
遠いが叫んでいるのが分かる。
内容はわからん。叫べるのだから元気だろう。
生存確認完了。
俺は心の奥に込めていた責任を深呼吸と共に吐き出した。すると安堵という感情が背中あたりから伝わってきた。
良かった・・・・・本当に。
被害ゼロとは言えないが任務は成功した。
丁度その時、この神輿もついに石上の遷座予定地に到着した。
「ヤエ!!」
イズシのおっちゃんの声だ。
イズシ 「ようやった!・・・ほんまによう・・・・」
目がかすんでるので確認できないが泣いているように思う。
俺 「もう何もでけへん!使い切った。」
イズシ 「ええ!ええ!」
助けてもらいながら神輿から降り、そのまま大の字に寝た。
予定ならこのまま鎮めの儀をシコオさんとイズシのおっちゃんで行うはずである。
イズシ 「皆の者!曳手の者を助けに行け!!ここは・・・・・」
イズシのおっちゃんが指示を出している。
ここまでくれば新しくノロヰは発生しないし、すでに顕現してしまったノロヰも弱体化する。ただ、鎮めの儀自体は初めてなのでどれくらいかかるかは分からない。
俺の予想ではお葬式でお坊さんが念仏を唱えるぐらいだと思っている。
正座していると足が痺れて立てなくなる時間ぐらいだろう。
目を閉じているとウトウトしてきた。
このまま寝てしまいそうだ。
「ノロヰだーーー!!」
薄く小さく声が届いた。寝てしまったのでこれは夢か?ノロヰ?それはない鎮めの儀に入っている。新しく増殖はしないはずだ。
「ヤエ様!!」
目を開けると少し視力が回復していた。
行方不明だったヒコが呼んでいた。
ヒコ 「ノロヰが出ました!!」
本当に出たのか・・・・・詰んだな。
鎮めの儀を行えば新しくは顕現しなかったのではないのか?
今、ここには最低限の兵力しかない。
先手だったオオヒコ勢も満身創痍だ。
俺 「どれくらい数だ?」
ヒコ「十が3つほどです!」
30体?
本当に詰みだな。
ヒコ「ですが、こちらの様子を伺っているようです。」
石上の中の残存兵を狙うか、石上の外の者たち狙うか吟味中と言ったところか。
どうするか・・・
石上の外は後手と美和勢。後手は負傷者多数。美和勢は後手の救助、そしてあちらにも残存のノロヰはまだいるだろう。
こちらの石上の中は最小人数美和勢とボロボになったオオヒコさん達・・・
そして俺は視界もままならず霊力ゼロ状態・・・
外の美和勢を戻すか・・・
それでは後手を見殺しにするのと同義だ。
そもそも目が見えないのでは状況判断ができん。
俺が余力を残していれば・・・
余力・・・
俺は昨日のイズシのおっちゃんとの会話を思い出した。
それは俺のチカラについての話だ。
おっちゃん曰く、前の俺はチカラを解放して昏睡状態になった。慌てたおっちゃんはもう一度チカラを抑える儀を俺にかけたらしい。でも昏睡は続き効果は見られなかった。
そしてひょこっと起きてきた俺はチカラが解放されてるようにしている。やはり抑えの儀は効いていなかったのだと。
ここで仮説ができた。
抑えの儀は効いていたというものだ。
それならば、チカラをさらに解放できるのではないか?
もちろん、また昏睡するというリスクを伴うが。
俺は安直におっちゃんにもう一度解放してくれと頼んでみた。
当然怒られた。
おっちゃんからすれば2度と昏睡などされたくないだろう。至極当然のリアクションだった。
リスクを伴うが全滅を避ける方法はこれしかない。どうせ、転生した人生。何か人の役に立って終わるなら本望だ。
俺はイズシのおっちゃんの方を向き、叫んだ。
「おっちゃん!サソの儀や!」
ヒコに頼み、おっちゃんの側まで連れて行ってもらう。
「サソの儀や!俺にもう一度サソの儀をかけろ!」
おっちゃんはうつむき、沈黙をしたままだ。判断を窮しているのだろう。
もし、また俺が昏睡してしまったらイズシのおっちゃんには耐えれないだろう。
だが、おっちゃんの想いは汲んだ上でも言わねばならない。
「このままやったら皆死ぬ。ワシなら止められかもしれんやろ!」
おっちゃんはうつむいたままだ。良くは見えないが苦悶の表情なのは易く想像できる。迷うのは理解できる。
「長、主が命を掛けへんでどうする!」
なおも、おっちゃんからの返事はない・・・本当は心ゆくまで待ってあげたい・・・が・・・・
「今が命を賭す時や!」
うつむいたイズシのおっちゃんか口を開いた。
「ヤエ、後を向け。」
つづく。




