14 布津の神移し#4
「廻しますぞ。」
オオヒコさんが真剣な顔をこちらを見てみる。
「廻す」とは今回の作戦の最終手段だ。
俺 「早すぎませんか?」
オオヒコ 「この勢いを止めてはなりません。戦には時の勢いというものがあります。長たる者はその勢い見誤ってはなりません。今がその時です。ここで迷っては勝ちを失いますぞ。」
俺 「ですが無茶が過ぎるのではないかと・・・」
オオヒコ「纏向の者はミワキ様で慣れておりますよ。ヤエ殿も纏向をそして美和の者を信じなされ。」
俺 「・・・・」
オオヒコ 「それにオオミナに言われっぱなしは癪ですしな。なーーー!皆の者」
「おーーーー!!!!」
纏向勢は準備万端だ。
シコオ 「何を迷うておる!!ヤエ殿らしくもない!!」
そうだ守り人の長はシコオさんだった。
長のシコオさんと副長のオオヒコさんからの提案だ。
間違いはない。時の勢いは今だ!!
俺 「廻します!」
オオヒコ 「相分かった!」
オオヒコさんが号令をかけた。
「廻すぞーーーー!!」
「廻すぞ!」
「廻すぞ!」
「廻すぞ!」
「廻すぞ!」
一気に口伝えに命令が飛んでいく。
廻すとはその名の通りで神輿を一回転廻すことだ。
その神輿を中心に前後の兵士を一気に交代させる。
前の先手が引きながら、神輿の左側を抜け退く、後手は逆に右側を抜ける。
ノロヰと戦闘しながら螺旋状に廻転し一気にこれを行う。
「廻せ!廻せ!」
「急げーーー!」
「早よ、先手に行くぞーーー!!」
どんどん先手が下がり、後手だった纏向勢が先手に雪崩れ込んでいく。
この配置転換で何が起こるか?
今まで比較的消耗の少ない纏向勢が先頭に出ることにより、先手の戦力が回復する。
さらにオオヒコさんを筆頭にした趙火力部隊なので戦力は回復どころか爆増する事になる。
「一旦、陣を整えよ!!」
「遅れるなーーー!!」
そろそろ配置転換が完了しそうだ。
「ヤエ様、行けますぞ。」
これが今回の最後の手、失敗は許されない。
皆を信じよう。
右の拳を空に突き上げて叫ぶ。
俺 「うぉおおおおーーーー!!!! 皆の者ーーーー!!!! 最後の仕上げじゃーーーー!!!!」
続いて、拳を前に突き出した。
俺 「行けぇぇぇーーーー!!!!」
「おおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!」
一斉に全軍が走り出す。
ほぼ全力疾走の進軍スピードで移動する。
【超高速・強襲型・強行軍】
これが最後の作戦だ。
出来うる最高の速度で移動する。
発生したノロヰも前方だけを片づける。
ノーガードの超攻撃型スタイル。
そして石上まで到着を最優先した高速の強行軍。
置き去りにしたノロヰは石上に着いてから片づける。
最優先は御魂を石上に届けること。
その他を捨てた最終手段となる。
神輿を運手の過剰な増員はこの高速移動を可能にするためでもある。
そして最も重要なのは・・・
オオヒコ「うぉおおおおーーーー!!!! 踏みつぶせーーーー!!!!」
先手となった纏向勢である。
オオヒコさんを先頭にした趙火力でノロヰを弾き飛ばす。
全軍の速力を落とさないため、纏向の最大攻撃力をここにぶつける。
全速力かつ最大火力を同時に使用する。
もちろん、一気に兵力が疲弊するが疲弊する間にゴールに着いてしまおうという考えだ。
オオヒコ「うぉおおおおーーーー!!!! まだまだーーーーー!!!!」
なぜ、俺がこの作戦を渋ったのか?
それは石上までの距離がまだ長過ぎるという点に尽きる。当初の想定では残り1km程度、遠くではあるが石上が視認できる程度が実行可能ラインと思っていた。それならばこの博打性の高さも許容範囲となるからだ。
しかし、まだ石上はまだまだ先。想定の倍の2kmはある。
【超々長距離・超高速・強襲型・強行軍】
フルベット(全資金全投入)の時だ。
俺は皆を信じた。
残弾数15。
これで先手の援護射撃を行う。
一発も失敗はしない。
【カムナのチカ】
先頭の進軍を阻むノロヰを優先的に狙う。
進軍速度のせいで篝火が追いついていない。
視認するのが困難だが皆も困難と戦っている。
【ケン!】
暗闇の中、風切り音と共に手槍がノロヰへと向かう。
「バァァシュューーー!!」
ノロヰが崩れ落ちたのを何とか確認できた。
俺は俺の役目を全うする。
「ヤヒコ!!」
先手の1人が負傷したようだ。
ヤヒコ「オオヒコ様!まだ戦えます!!」
オオヒコはヤヒコの全身を隈無く観察した。
オオヒコ「下がれ!」
それがオオヒコの下した決断だった。
ヤヒコ「まだイケます!」
ノロヰの殴打を肩口に喰らい、良くて脱臼もしくはそれ以上。
これでは両手で剣を持てない。
オオヒコ「役に立たん!下がれ。次の者出よ!」
この戦いで1番の肝である先手の先頭。ノロヰを駆逐できる火力を保つ事が優先される。戦闘能力が無いものは有無も言わさず退場させる。
オオヒコさんがそういう戦いだと最も分かっているのかもしれない。
オオヒコ「ノロヰよーー!ワシに来い!!ヌシらなぞ弾き飛ばしてくれる!!」
全く速力を落とすことなく、突破力を維持している。
オオヒコさんもさることながら纏向屈指のパワーファイターを揃えてきている。
この力技の強行軍を任せるには彼らしかいない。
【カムナのチカ】
俺のできる事を全うしよう。
「ぐあっ!」
俺のすぐ横で叫び声が上がった。
運手1人がやられた。
この至近距離での射撃は残弾を無駄にする。
ならば白兵戦に戻る。
「捨て置けーー!!」
俺が神輿から飛び降りようと動き出した刹那だった。
オオミナである。
廻しが終えた後のどさくさでオオミナは後手に回っていたようだ。
その時、初めて後手を確認した。
予想以上に間延びしている。
現在、後手は半分以上が負傷者もしくは救護者、進軍行動の補助に当たっている。前からの離脱者もここで引き受ける。
自衛の為の戦力しか残っていない。
この作戦の弱点は後手である。
負傷者の混じった軍の進軍速度と、今の先手の全力疾走の進軍スピードでは天と地ほど違う。
なので、今のように後ろが間延びしてしまう。
当初予定ではこの状態が起こるのは石上ギリギリ手前あたりだ。それならば石上の美和勢に救援を頼む想定だった。
ふと、気づいた。
今ここが当初の強行軍スタート予定地だった・・・・
やはり無理があったのだ。
この状態で残り半分持つはずがない。
サイは投げてしまった・・・・後戻りはできない。
この勝負は負けか?
「捨て置けーーーーー!!」
オオミナがもう一度俺に叫んだ。
「ここはワシらの役じゃ!!捨てて行けーーーー!!」
くっ・・・・・・・・・・・・・・・・・
何も反論できない。
長として、プライオリティを考えれば後手への援護はできない。
この状況で理想論を吐ける奴は無責任と言えないか。
転生世界だが、ここも現実なのだ。
俺は後手の者達の目を見ることにした。
できる限りの者の目を一人一人見る。
小説ならここで、何か良いセリフでも言うのだろう。
それでは俺の今の感情、思考という情報量を一瞬で伝えられない。
精一杯、気持ちを込めて顔を見る。
最後にオオミナとも目を合わせる。
「頼む!!」
俺は言い終えると同時に前方に振り替える。
強烈な呼応が聞こえた。
俺はもうそれには答えない。
石上までは・・・・
つづく




